プロンプトエンジニアリングとは、大規模言語モデル(LLM)や生成AIに対して望ましい出力を得るために、入力文(プロンプト)の構造や文脈、指示の与え方を工夫する技法である。
これは単なる「質問の仕方」ではなく、モデルの潜在的知識や推論過程を適切に誘導するための設計行為である。
例えば「段階的に考えて答えてください」「出力を表形式で整理してください」といった追加指示を組み込むことで、結果の正確性・一貫性・ユーザビリティを向上させることができる。
起源・提唱者
「プロンプトエンジニアリング」という語は、GPT-3の公開(2020年)以降に広まった比較的新しい技法である。
特定の一人の研究者が提唱者というよりは、OpenAIやスタンフォード大学などの研究コミュニティの中で用語が定着していった。
特に有名な研究者としては Ethan Mollick(ウォートン校教授、AIの教育応用)、Andrej Karpathy(元OpenAI・Tesla、AI研究者)らが初期から重要な発信をしている。ただし「提唱者=誰か一人」とは言えず、コミュニティ的に確立された概念である。
デザイン上の利用方法
具体事例
「翻訳して」ではなく「小学生でもわかるように翻訳して」と入力することで、教育コンテンツに適した文が生成される事例がある。
プロンプトエンジニアリングは「AIをどう呼び出すか」だけでなく、ユーザー体験をどう設計するか に直結する。UXデザインやコンテンツ設計の観点では以下のように活用できる。
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情報整理UIとの組み合わせ
出力フォーマット(例:表、チェックリスト、要約)を指定することで、利用者がすぐに活用できる形でAI回答を得る。 -
ユーザーの心理的負荷を軽減
曖昧な質問でもAIが適切に補完できるよう、裏でプロンプトを設計している。ユーザーは自然な言葉で入力しても望ましい結果が返る。 -
多言語・文化的文脈のローカライズ
「日本語のビジネス文脈に合わせて」「やさしい日本語で」などの条件を組み込むことで、出力がターゲットユーザに即した形になる。 -
失敗の防止(ガードレール設計)
AIが不適切な内容を出力しないように「根拠を挙げて答えること」「推測の場合は明記すること」といった制約を盛り込む。
プロダクト/コンテンツデザインでの具体例
カスタマーサポートチャットボット
シーン:ユーザーが「請求書をなくしました」と入力する。
設計例:裏でプロンプトを「ユーザーが請求に関するサポートを求めているときは、再発行方法を案内し、関連リンクを表形式で提示する」と設定。これにより正確かつ親切な回答が返る。
学習アプリ
- シーン:英語学習者が例文を求める。
- 設計例:「例文は3つ出すこと」「難易度を★で表示すること」「最後に日本語訳を提示する」とプロンプトに条件を与える。UXが一貫し、学習効率が高まる。
医療情報ポータル
- シーン:利用者が「糖尿病の食事制限は?」と尋ねる。
- 設計例:裏で「医師の指導を代替しない前提」「最新ガイドラインに基づく」「リスクがある場合は必ず専門家受診を勧める」といったプロンプト制御を行うことで、誤用リスクを軽減。
社内ナレッジ検索
- シーン:従業員が「経費精算の締め切りは?」と質問。
- 設計例:プロンプトで「社内規程データベースを参照し、根拠となるドキュメントリンクを必ず添付」と設計。信頼性と再確認性を担保する。
UXチェックポイント
- 出力フォーマットを指定しているか
- ユーザーの自然言語を裏で補正しているか
- 不適切回答を避けるガードレールを設計しているか
- ユーザーが「なぜこの回答か」を理解できる透明性があるか
デザイン応用シーン
ECサイトの商品説明文をAIで生成する際に「親しみやすく、購入意欲を高める文体」と指定することで、より効果的なコンテンツが得られる。
特に、トーン&マナーやブランドボイスを統一する際に効果的である。
AI関連用語
- ディープラーニング → モデルを「最初から学習」する
- RAG→ モデルに「外部知識」をつなげる
- トランスファーラーニング → 既存の知識を「別の分野に転用」する
- プロンプトエンジニアリング → 「入力の工夫」で性能を引き出す
- インコンテキストラーニング → 「その場の例」で一時的に学ぶ
- ナレッジディスティレーション → 大きなモデルを「小さなモデルに縮小」する
- ゼロショット/ワンショット → 「少ない例で推論」する