人が目標達成をする動機の焦点は、ポジティブな結果を目指す「促進焦点」とネガティブな結果の回避を目指す「予防焦点」の2つがあるという、動機と目標達成の関連についての理論である。
コロンビア大学の心理学教授E. Tory Higgins氏によって提唱された。
大学受験から考える促進焦点と予防焦点
促進焦点は希望や夢を達成したいといったポジティブな結果を目指す目標志向性である。予防焦点は損失や失敗の回避といったネガティブな結果の回避を目指す目標志向性である。
大学受験を例にすると、希望する大学に行きたいという動機で勉強の励むのは「促進焦点」であり、浪人したくない、受験で落ちて親に怒られたくないという動機で勉強に励むのは「予防焦点」である。
快楽原則とは異なる自己制御システム
制御焦点理論は自己制御システムの研究に関連している。従来の自己制御システムの研究では、人間が快楽を求め苦痛(不快)を避けるという「快楽原則」が基本原理とされてきた。快楽原則は、ドイツの心理学者グスタフ・フェヒナーによって作り上げられオーストリアの精神科医であるジークムント・フロイトが取り入れた精神分析学の概念である。
自己制御システムの基本が快楽原則とされていることに対し、ヒギンズ氏は「制御焦点理論は、快楽原則とは異なる自己制御システムで、区別すべきである。」と主張した。
制御焦点理論では、自己制御システムには「快・不快」の区別だけでなく、別の区分が2つあると論じている。そのひとつが利を得ることを志向する「促進焦点」、もうひとつが損失を回避することを志向する「予防焦点」である。
それぞれ「快・不快」が存在する。「促進焦点」の場合は、利を得ることが快であり、利を得られないことは不快である。一方で「予防焦点」の場合は、損失を回避することが快であって、損失を出してしまうことは不快である。つまり、制御焦点の違いによって、異なる快と不快の状態がある。
最適な動機付けは個人によって異なる
個人によって、目標達成の動機付けを促進焦点とすべきか予防焦点とすべきか変わってくる。
例えば、生徒Aと生徒Bがいて、両者とも大学で履修しているクラスで「〇〇を作る」という共通の目標を持っているとする。学生Aは、進歩、成長、人生の達成に向うようなスタイルを好むため、促進焦点を重視したオリエンテーションをする。同じ目的ではあるが、学生Bは、ネガティブな結果や失敗の回避を好むため、「予防焦点」のオリエンテーションを行う。
学生Aは、目標達成(〇〇を作る)をするためにより多くの勉強をするといったアプローチをする。一方で学生Bは、より細かくすべての要件を満たそうと注意を払う慎重なアプローチをする。
学生に対し、促進焦点と規制焦点どちらのオリエンテーションをしても、目標達成のために行動をするが、どちらが適切かは個人の好みに基づく。個人に合った焦点で目標を追求する場合、他の焦点を使用する場合よりも、目標をより積極的かつ積極的に追求する可能性が高くなる。
ビジネスで活用するアプローチ
商品やサービスをプロモーションする際にも、制御焦点理論が有効な場面がある。
例えばメンズ脱毛サロンの広告を打つ場合、促進焦点に重きをおいたコミュニケーションでは「キレイで清潔感のある肌へ」となるが、予防焦点に重きを置いたコミュニケーションだと「不潔と思われ嫌われないために」となる。
つまり、促進焦点の場合にはポジティブな結果が得られるような、「なりたい自分」を伝える方法をとるが、予防焦点ではネガティブな結果を避けるような、「危機感を煽る」ようなコミュニケーションをとる。