心理的には「目立つものは重要である」と無意識に判断されやすく、論理的な重要性とは無関係に過大評価される傾向がある。
たとえば、報道で強調された事件や有名人の意見が、実際の統計上は例外であっても、印象的であるがゆえに過度に重要視されてしまうような場面でこのバイアスが生じる。
提唱者
左:ダニエル・カーネマン、右:エイモス・トベルスキー(出展:http://grawemeyer.org)
心理学者ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)とエイモス・トヴェルスキー(Amos Tversky)が1970年代に確立した「ヒューリスティックスとバイアスの理論」の中で言及されている。
デザイン上の利用方法と活用シーン
ユーザーインターフェースやプロダクト設計においても、目立つ要素に注意が集中するという心理的特性を踏まえることが重要である。
UI内でのボタン、警告表示、エラーメッセージなどは、このバイアスを意識して設計すべきである。
目立ちバイアスを使ったデザイン例
目立ちバイアスは「人は目立つ要素に注目し、重視してしまう」という心理を利用したデザインである。以下のようなデザインに活用されている。
例1:エラーメッセージや警告の赤色表示
- 赤いボックスやビックリマークでエラーを明示。
- 「ここに注意せよ」という視覚的優先度を上げ、ユーザーの行動を促す。
例2:CTA(Call to Action)ボタンの色・サイズの工夫
- 他の要素より大きく、鮮やかな色で配置された「購入」「登録」ボタン。
- ユーザーの視線を集め、行動を促進。
例3:オンボーディングの吹き出しやアニメーション
- 初回起動時に画面上の操作箇所をハイライト。
- 視覚的に「ここに注目せよ」と誘導する。
例4:災害情報や警告アプリのUI
- ハザード情報を赤・黄色で表示し、ほかの情報より目立たせる。
- 緊急度の高い情報への注意喚起。
活用できる場面と事例
シーン | 活用例 | 内容 |
---|---|---|
Webフォームの入力補助 | エラー箇所に赤いボックス+説明文 | 目立たせることで視線誘導し、修正を促す |
ダッシュボードUI | 重要指標(KPI)を太字・色付きで表示 | 意図的に目立たせることで意思決定を支援 |
災害時アプリ | 危険情報に赤・黄色を使用し視覚的に差別化 | 本当に重要な情報に注意を集めるための誘導 |
オンボーディングUI | 操作手順の強調部分をアニメーションで提示 | 目立たせることで行動を促す |
男性トイレの「的」や記しのデザインと目立ちバイアスの関係
例:オランダ・アムステルダム・スキポール空港の小便器の「ハエの絵」
引用:https://blog.goo.ne.jp/tomotubby/e/2175794e257ad4d83cc757e13501e064/?img=a2154d92901c41b43291e425a193ccde
男性用トイレの便器の内側に**「小さなハエのイラスト」**を描いた事例が有名である。
この「的」によって、無意識にそこを狙って排尿するようになり、飛び散りが最大80%減少したという効果が確認された。
このデザインは「目立ちバイアス」を活用している
- 人は目立つ対象に注意と行動を向けやすいという性質を利用している。
- ハエのような小さな絵でも、色・位置・存在感が他と違えば目に留まり、「行動の誘導」が可能となる。
その他のバイアスも関連
ナッジ理論(選好の誘導)やヒューリスティック(直感的判断)にも関係するが、「目立つ要素に人が反応する」点では目立ちバイアスが中核的に働いている。
補足:デザイン活用時の注意点
目立たせすぎると逆効果になることもあるため、「本当に重要な要素を限定的に強調」することが鍵である。目立ちすぎる要素が多いと、ユーザーは「どれが本当に重要か」を判断できず、逆に混乱する。
「目立ちバイアス」と「サリエンス効果」の違い
項目 | 目立ちバイアス(Salience Bias) | サリエンス効果(Salience Effect) |
---|---|---|
意味 | 目立つ情報に注意が向きすぎる認知の偏り | 目立つ情報が記憶・判断に強く影響する効果 |
特徴 | 判断・意思決定に影響 | 記憶・印象形成に影響 |
違い | バイアス=偏り(誤った判断の原因) | 効果=影響(必ずしも誤りとは限らない) |
例 | 犯罪のニュースばかり見ると「治安が悪化している」と感じる | 赤い広告バナーの内容だけを記憶している |