パソコン作業をしていて、スマートフォンに通知が来ると気がつく。それは目立つものに対して無意識に反応してしまうサリエンスバイアスという認知バイアスが関わっている。サリエンスバイアスは、salience(目立つ)という単語に由来しており、顕著性バイアスとも言う。

渡る時にだけ、通り過ぎる車に注意する
スマートフォンの通知が、通常の状態から閾値を超えた音を発したために気がついた。しかし、人の状態によってもサリエンスバイアスの反応は変わる。例えば、道路の横にある歩道を歩いている時、道路を走る車に気を取られることはないが、道を横切る横断歩道を渡る時は車に注意を払う。
バナー広告など、人に気がついてもらいたいものは、サリエンス効果(顕著性効果)を狙うことが多い。
人はほとんどの情報をスルーするが、危険は検知する
脳は怠け者で、9割以上を無意識(システム1)で過ごしていると言われている。視覚、聴覚などから膨大な情報を得ているが、全てを処理するとパンクしてしまうので、ほとんどを意識せず自分が関心を持つものだけに注意を向けている。
関心を持つもの以外を全てスルーしていると、生命を脅かす危険までスルーしてしまう。
大昔から自分の命を守るために「いつもと違う脅威である」ことに気づいて、注意をむける仕組みがある。(ネガティブ・バイアス | UX TIMES)人の潜在意識には、いつもと違う顕著なことを察知するための閾値が存在し、超えると反応する。察知するための閾値は、人によってもその時の状況によっても変わってくる。
人が反応してしまう4つの要素
人が反応してしまうサリエンスバイアスには、4つの要素がある。
①輝度
キラキラ輝くもの。ある要素に輝く効果を与えると目立って見える。

キラキラ輝くものは、つい見てしまう
②テキスチャー(質感)
ザラザラした感じなど、質感や手触りを連想させるものがあると目立って見える。

フライドチキンのようにカリカリとした質感があると目立つ
③コントラスト
2つの色が対照的だと、目立つ。道路標識などは、目立つようにコントラストを大きくしている。

交通標識は目立つようにコントラストを大きくしている
④スケール
他のものとの大きさの違い。広告は目玉商品のフォントを他のものより大きくしている。

他のものと大きさに違いがあると目立つ
サリエンス効果を利用したマーケティング
マーケティング分野では、サリエンスバイアスを基にしたサリエンス効果を使って、競合他社の製品よりも目立つパッケージやメッセージを提示し、ユーザーの注意を惹きつけている。
ユーザーは同じものに対しても、関心のある場合のみ反応する。UX業界の巨匠、Jared M. Spool氏は以下のように述べている。
ユーザーが何かを買おうと思うときは、バナーが目に入るが、購入後は目に入らない(https://tactics.convertize.com/definitions/salience-effectより引用)

派手な広告も、適切なタイミングで表示しないと目に入ったとしてもノイズになってしまう
ECサイトで食べ物を購入する際に、全く関係ない電化製品の広告が表示されても無視する。目立つ広告を表示しても、意味がないものになってしまう。
WEBサイトをデザインする際は、「ユーザーが興味関心を持っているものにしか気づかない」ことを考慮しよう。仮に気がついたとしても、ノイズになる可能性もある。
ユーザーに有益な情報は何かを考えたうえで、適切なタイミングで目立たせる必要がある。
全部を目立たせると埋もれてしまう
飲食店の注文パネルにテプラで注意書きが貼られている場合がある。
もしあなたが、このパネルでラーメンを注文しようとしたら「注文時にチケット、無料券、割引券を渡すこと」「スタンプを希望する場合は注文後にアプリを見せる」ということにすぐに気がつくだろうか。人は、全てを一斉に認識することはできず、ラーメンを注文するときは、ラーメン以外のものは目に入らないものだ。

注文するときはラーメン以外の注意書きは目に入らない