ひとつの物事に集中するなど、特定の事象・タスクへの注意を向ける度合いが高すぎる時は、予測をしていない変化や情報を見落としやすい傾向になる。
この事象は、1992年に心理学者のArien Mack博士とIrvin Rock博士が実施した、知覚と注意の実験中に観察された現象から発見され、1999年にハーバード大学のDaniel Simons博士とChristopher Chabris博士が行った「見えないゴリラの実験」によって、明確に立証された「見えないゴリラの実験」とは、以下のようなものである。
被験者には、白いシャツを着た人と黒いシャツを着た人がバスケットボールをパスする短いビデオ映像を見せられ、白いシャツを着た人のパスの回数を数えるよう指示がされた。
実験終了後、被験者にいくつかの質問がされ、その中にひとつに「何か選手以外に目についたものはありますか?」というものが含まれていた。映像ではゴリラの着ぐるみを着た人が現場を通過したのだが、42%の被験者がそのゴリラの存在に気付かなかった。
実験動画:「見えないゴリラの実験」の映像
動画を見ていただければ分かるが、パスが続けられている中、ゴリラは画面に画面右側から登場し画面中央にきて、胸を叩いたあと左側に去っていく。
ダニエル・シモンズ博士は「われわれは、おおむね見えると予想しているものを見ているのだ」と述べ、ひとつの物事に注意が必要であればあるほど、視界に入っている他のものに注意を払えなくなると指摘している。
上述の博士の言葉を裏付けるものとして、ゴリラ実験において、以下のようなデータが取れている。
白いシャツを着た人たちのパスを数えた被験者のうち「ゴリラを見た」と答えた人が42%だったのに対して、黒いシャツを着た人たちのパスを数えた場合は、83%が「ゴリラを見た」と答えたというものだ。
ここから、黒いゴリラの通過という予想外の出来事と、黒いシャツの人々を注視する(パスを数える)というタスクとの間には「黒い」という類似性があるために、「見る」ことが出来るということも明らかにされた。
非注意性盲目を引き起こす要因は視覚だけではない
人間の脳は、入ってくる情報のすべてを一度に処理することは出来ない。このような現象が起こるのは、脳が様々な感覚入力の取捨選択を行っているためだ。
入力される情報の多くを占めているのは、視覚と聴覚である。先に述べた実験では視覚が注意力を奪うものであったが、聴覚もまた同じ要素を持っている。
ユタ大学の研究チームが2003年に発表した研究によると、車の運転中にハンズフリーの携帯電話を利用し会話をしていても「非注意性盲目」に陥ってしまうということが立証されている。
シュミレーターを使い、参加者は運転だけで2キロを走行するのを3回、ハンズフリーで会話をしながら運転して同距離を走行するのを3回と、計6回運転を行った。
この走行中に掲示されている広告板を見たか、見なかったかを集計したところ、以下のような結果が出た。
運転のみの場合:65%
運転+ハンズフリー会話の場合:24%
なお、いずれの場合も、アイトラッカーを利用しているために広告板が視界に入っていることは分かっている。
非注意性盲目を意識し情報を伝えよう
ひとつの情報・タスクの負担が多ければ、他の物事を見落としてしまう。そのため記事やwebサイトなど情報を多くせずユーザーが内容の見落としが起きないよう、本当に必要な情報かを整理してから構成を考えなければならない。
例えば、Appleのwebサイトではユーザーに見てほしい内容をピックアップしユーザーが見やすいよう意識されている。
ユーザーはいつでも1つのコンテンツをフォーカスすることができるため、負担を減らし、サイト内の情報の変化や見落としを軽減することができる。
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参考文献
- David L. Strayer and Frank A. Drews (2007) ” Cell-Phone–Induced Driver Distraction” , Current Directions in Psychological Science, SAGE Publications
- 高橋 晃 (2010) 「長期的な非注意性盲目の連想による解消」, 公益社団法人 日本心理学会