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人の記憶の仕組み:UXデザイナーへのヒント

[原文]How Human Memory Works: Tips for UX Designers.


記憶は私達の生活と密接に関わるものですが、実際に見たり触れたりすることはできません。他の人と売買することもできません。しかし、様々な方法で発達させ強化することができます。

記憶の仕組みを説明することは簡単ではありません。また、日々の生活の中で私達が何かをしようとしたとき、記憶は重要な役割を果たしているのにも関わらず、不思議なことに私達はそのことをほとんど意識していません。

記憶は、私達が生まれ持った「情報の保存処理機能」により得られます。記憶を使って生涯に渡って大量の情報を保有・整理することができます。また、「優先順位が高いものから覚えていく」ということも記憶の特徴のひとつです。逆に、必要性が低い記憶や長期間使われていない記憶は忘れられていきます。人間の記憶は、世界の人々との関わり方を決定するメカニズムのひとつと言えます。

このような記憶の性質は、UXデザインにおいても研究・考慮される必要があります。記憶がどのように機能するかを知ることで、UXデザイナーはユーザーの自然な行動に配慮した「人間中心のインターフェース」を作成できます。それにより、ユーザーの労力を削減し、ユーザビリティを向上することができます。

記憶に関する基本的なポイント

人間の記憶は、脳にあるデータを保存する装置のようなものです。 日常での刺激に反応してデータの収集・処理を行い、様々な方法でデータを構築していきます。 また、特定のデータが必要な際には、それにアクセスすることが可能です。
しかし、非常に多くの物理的・感情的な要因に左右されるため、完全なメカニズムというものはありません。

心理学者は、基本的には主に3種類の記憶があると述べています。

  • 感覚記憶
    見る、聞く、触る等の身体的な感覚を知覚した際、データを短時間保持する(例:大きな音が聞こえたなど)
  • 短期記憶
    短時間の間、繰り返し見なくても、データを記憶することができる(例:電車の時刻表をスマホで見て確認する)
  • 長期記憶
    多種多様なデータを長期間、場合によっては生涯の間で保管できる(例:自分の名前など)

情報を長期記憶として記憶する効果的な方法は、反復と関連付けです。 Learning Solutions
Magazineの記事で紹介されている以下の画像から、あるデータが外部刺激から長期記憶へと変化していく基本的な流れを見ることができます。

記憶の概要図

UXデザイナーは、Webサイトやモバイルアプリのワークフローを作成する際、これらの特性を理解する必要があります。彼らは、アプリを何度も使うことでインターフェースの理解をより容易とする長期的な記憶に注目しています。

あるデータが長期記憶となる流れを理解することで、UXデザイナーはユーザーにデータを認識させる効果的な戦略と、それに必要な繰り返しを設計することができます。また、画面上にデータを適切に配置し、製品の情報アーキテクチャを強化することもできます。

記憶の基本的な法則

心理学の専門家達が述べている記憶に関する3つの主な特性は非常に理解しやすいものです。

  1. 集中
    ある物やあるデータを覚えるために、人はそれに集中する必要がある。 そうしなければ、短期記憶のレベルまでにしか留まりません。
  2. 関連
    記憶は、様々な種類のデータと関連している大きなネットワークのようなものです。もし、新しいデータを馴染み深いもの、もしくは長期記憶となっている何かと関連付けることで、それを記憶できる確率はとても大きくなります。
  3. 繰り返し
    あるデータを長期記憶とするために効果的な方法の一つは、作業記憶内で何度もそのデータを処理することです。

これらの3つの特性に基づいて構成されるインターフェイスは、ビジュアルヒエラルキーとなり、より直感的で操作しやすいレイアウト要素を構成することができます。

記憶のエキスパートエクスペリエンス

様々な研究・実験・調査から導き出された規則・ルールがいくつかあります。 その中の一つであるミラーの法則とヒックの法則について紹介したいと思います。

ミラーの法則

一般的な人が作業記憶に保持できる記憶の数は約7個です。

この調査は、1956年にジョージ・ミラーによって科学的研究に基づいて提唱されたものです。«The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information»

大まかに言えば、平均的な人間の短期記憶は、約7個の情報またはチャンク(記憶の単位)のデータを一度に±2個保持・処理できると述べられています。ここで提唱された法則は、自然界の情報なども含め、多くの要因に基づいており、世間一般で認められているものとなっています。

例えば、Richard ShiffrinとRobert Nosofskyによって行われた後の研究«Seven plus or minus two: A commentary on capacity limitations»では、作業記憶についてのより深い洞察が行われした。

具体的には、提示された後にすぐに覚えることができるオブジェクトの数は、オブジェクトの性質に依存します。数字の場合は7つ、文字の場合は6つ、単語の場合は約5つになります。情報を素早く処理し、その性質と長期記憶に既に存在するオブジェクトとのつながりを認識し、記憶処理を行います。

設計の観点において、この性質はユーザーが使い易く、見やすいレイアウトを構築する上で重要な役割を果たします。 一度にたくさんのことを覚える必要があるインターフェースは、ユーザーを不快にさせてしまいます。

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ヒックの法則

より多くの要素があるほど、人は選択をするのが難しくなる。

一見すると、この法則は記憶に関係ないと思われますが、その関係は存在します。記憶は、人々をネガティブな経験から守るメカニズムの1つです。

一度に得るオプションが多ければ多いほど、人はより混乱してしまい、それに関連する情報が呼び出されます。そして、このケースにおいて、それが良いか悪いかを予測することはできません。

また、一度多くのオプションを選択肢に含めると、作業記憶が処理出来る範囲を越える負荷を与えることになります。特にこの法則は、電子商取引のプラットフォームにおいて、ユーザーに必要な全ての情報を表示しつつ、あまりにも多くのオプションを見せないバランスを保つ必要があります。
この調整を計ることが、UXデザイナーにとっての大きな課題の1つです。

記憶に優しいUX TIPS

上記の法則に基づき、ユーザビリティに役立てるためのヒントを考えていきましょう。

1.ユーザーに多くの要素を一度に覚えさせないようにする

これは全ての画面やページ全体を5〜9個の要素に限定すべきという意味ではありません。ですが、重要な内容を示す要素の数は、この範囲内の数に制限されるべきです。

デザイナーは、レイアウトの内でいくつか要素を目立たせ、注意を引くものにすることで、「メニュー」「Call-To-Action」「製品を紹介する画像」等のようなものに、この法則を適応することができます。

ビジュアルヒエラルキーは、多くの要素を視覚的にグループ化・分割化することで、人の記憶に優しいインターフェースを作成することができる、極めて重要な戦略です。

また、インタフェースのコピーコンテンツ(コピーライトなど)にも効果的に用いられます。これに関して、こちらの記事で私たちはいくつかの調査について言及しています。

ソーシャルメディア共有プラットフォームであるBufferによって公開された調査によれば、見出しの理想的な長さは6語であり、 Jacob
Nielsenも、フルセンテンスの見出しより、5〜6語の見出しが効果的に働くことを示しています。

もちろんその理由の1つは、作業記憶がそういったデータのまとまりをより迅速かつ効率的に処理できることに関係しているのです。

2.多くの要素を一緒に提示しない

濃度比を気にすることも重要です。「選択肢」「ボタン」「オプション」を一度に提示すると、ユーザーの短期記憶がそれらを処理するためにより多くの時間と労力を要し、最終的な決定を困難にする可能性があります。これは、ランディングページやセールスファネルが非効率的にな原因です。

たとえ、それのページが綿密に設計されていても、集中力が散漫なユーザーはコンバージョンが発生する前に去ってしまいます。

慎重な優先順位付けがされたスクロールやトランジションを適用し、画面やページ上のオブジェクトを「プライマ」「セカンダリ」「ターシャリ」のグループに分けます。これによって、ユーザはより自然にインターフェイスを操作できるようになります。

3.認識可能なパターンと記号で記憶労力を節約する

疑いなく、人は視覚から得る情報で動く生き物です。そのためデザイナーは、画像イメージを注意を引くだけでなく、ユーザーに情報を伝え、コンテンツを整理するためにを用いる技術を通常用いていきます。

私たちの記事の1つでは、ユーザーがアイコンと文章をどのように認識しているかについて述べました。「アイコン」「イラスト」「絵」等はより素早く認識される一方で、文章はより詳細な情報を知る上で、役立つことを示しています。

これは、インターフェース設計において、特定のものだけでなく、一般的に広く認識される様々なインターフェースの多様なモデルとマーカーを適用するのに便利です。

「検索用の拡大鏡アイコン」「注文をまとめたページ用のショッピングカート」「新規作成のためのプラスボタン」「ボタンの言語を変更する旗マーク」等、それらは、人間の記憶で何度も再利用され、新しく情報を記憶する必要なく、正しく認識することが出来ます。

また、より広い視点で見れば、ほとんどのユーザーは「連絡先」「プライバシーポリシー」「利用規約」「権利者情報」はフッターにあり、ヘッダーには「Webサイト管理者の連絡先リンク」と「ブランドマーク」を見ることができると予想しています。

これらのパターンや他の同様ユーザー行動を把握することで、設計者は基本的な操作を簡単かつ直感的に行うことができます。そうすることで、ユーザーの注意を新しいデータに集中させ、それの理解をを迅速にすることが容易になります。

4.ナビゲーションに一貫したマーカーを適用する

ナビゲーションはユーザビリティの重要な要素です。 インタフェースを介しての移動を可能にすることで、ユーザ自身が記憶すべき情報が明確になります。
したがって、デザイナーはトランジションとインタラクションを一貫性があり、明確なものにするため、様々なテクニックを適用します。

例えば、「セクションを並べ替える色やシェイプマーカー」「グループの項目を定義するアイコン」「特定の名前や文章に使われるフォント」「異なる画面が一つであることを表すイラストやマスコット」等、これらや他の同様の技法はレイアウトの認識を強め、
ユーザーが新しいデータに対処しやすくなります。

5.ナビゲーションのコア要素を隠さないでください

コンテンツブロックを表示/非表示にすべきかの議論は、依然としてホットで人気な話題です。インターフェイスの一番の目的は、何が起こっているかをユーザーが明確に理解させることです。したがって、「ハンバーガーメニュー」「スライダー」「ナビゲーションとコンテンツの隠れたレイヤー」の設置は、ターゲットオーディエンスを慎重に分析する必要があります。

多くの場合、特に幅広いターゲットオーディエンスが使用する複雑なインターフェイスの際、コアナビゲーション要素を隠すことは良い機能を果たしません。また、ユーザーはその要素を見つけ、そのパターンを覚える必要があります。

あるユーザーは他の要素のために、スペースを確保したことを評価します。一方、ある他のユーザーは必要なセクションをどのように見つけるかを記憶するのに苛立たされるでしょう。

繰り返しますが、優先順位付けは重要な役割を果たします。プライマリ要素を残したまま、セカンダリ要素を非表示することで、デザイナーはどれが重要な要素であるかをユーザーに認識させます。ユーザーテストは、ナビゲーションフローの効率とコンバージョン率への影響を評価するのに役立ちます。

6.異なるタイプの記憶を刺激する

情報を吸収する上で、最も速いのは感覚記憶です。基本的には、人間の感知器に依存します。視覚、聴覚、運動感覚、口頭などです。それらを有効活用すると、デザイナーはより直感的なインタラクションフローを作成するだけでなく、より幅広いユーザーをサポートすることが出来ます。

研究と実験により、人は異なるタイプの記憶を持っていることが分かっています。例えば、メニューのコアカテゴリの名前が付いたアイコンを使用すると、視覚的・口頭的な記憶を介してユーザビリティを高めることがあります。
インタラクションを伴うサウンドもまた、記憶しやすい流れと機能を作り出すことができます。

7.感情を覚えている

感情に訴えるフィードバックは、ユーザーを維持・損失に関わる大きな要因です。悪い体験というものは、細部をすぐ忘れるように脳が刺激します。しかし、脳は人を守ろうとするため、一般的に負の感情を残してしまう傾向があります。その反面、ポジティブな感情・楽しい・美的な満足・問題が素早く解決されたこと対する満足感、またコミュニケーションが容易であることは、人を何度もその感情に戻そうとします。

結論というものは単純です。人間のためのインターフェイスを作成するには、デザイナーは人々がどのように世界とやり取りし、何が彼らの行動に影響を及ぼすかを知る必要があります。
人間の記憶は、意識レベルと無意識レベルの両方で、より良いUXを形成するための不可欠な要素の1つです。そのため、人間中心のUX設計について研究し、テストしていく必要があるのです。

フリーランスのエンジニア。 2001年東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。独立系ソフトハウス(システム開発)、株式会社シンプレクス(金融機関向け取引システムの開発・運用)を経て2011年よりフリーランス。フリーランスになってからは、スマホアプリ、サーバーサイド(Java,Railsなど)と様々なプロジェクトで開発に携わる。現在は会社員時代にお世話になった企業様でRPAプロジェクトで開発を担当している。 ダイエットのためにランニングとヨガを5年ほど続けているが、どちらもガチになる一方で全く痩せないことが最近の悩み。

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