もともと客観的で良い指標だったものが、「目標」に変わることで人々がそれを操作・最適化しようとするため、もはや信頼できないものになることを指す。
例:
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検索回数を上げるために、意味のないキーワードを無理に盛り込むSEO。
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テストの点数を上げるために暗記ばかりさせ、本来の理解力が育たない教育。
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英語の習得度を知るための試験に、替え玉受験やカンニング。
提唱者

チャールズ・グッドハート:(引用)https://www.fmg.ac.uk/people/charles-goodhart
この法則は、「指標が目標になると、それは良い指標でなくなる」という格言として広く知られている。
もともとはイギリスの金融政策において、マネーサプライ(貨幣供給量)を政策目標とした際に、その指標が制御の対象となることで、かえってその有効性が失われることを指摘したものである。
デザイン上の利用方法と具体的な事例
グッドハートの法則は、デザイン、特にプロダクトやコンテンツデザインにおいて、評価指標の設定とその運用に深い示唆を与える。
以下に、デザインの文脈での利用方法と具体的な事例を示す。
利用方法
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多面的な評価指標の設定:単一の指標に依存せず、複数の指標を組み合わせて評価することで、特定の指標への過度な最適化を防ぐ。
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定性的評価の導入:数値化しにくいユーザー体験や満足度などの定性的な要素も評価に含める。
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フィードバックループの構築:ユーザーからのフィードバックを定期的に収集し、評価指標の妥当性を検証・更新する。
具体的な事例
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ソーシャルメディアのエンゲージメント最適化:ユーザーの滞在時間やクリック数を最大化することを目標とした結果、センセーショナルなコンテンツが優遇され、ユーザーの精神的健康や社会的対話の質が損なわれる事例がある。
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カスタマーサポートの対応件数評価:対応件数を評価指標とした結果、オペレーターが迅速に対応を終わらせることを優先し、顧客満足度が低下するケースが報告されている。
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教育現場でのテストスコア重視:標準化テストのスコアを重視するあまり、教師がテスト対策に注力し、生徒の創造性や批判的思考の育成が疎かになる問題が指摘されている。
プロダクトやコンテンツデザインの観点での適用シーンと具体的な事例
適用シーン
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ユーザーエクスペリエンス(UX)の評価:クリック率やページ滞在時間などの定量的指標だけでなく、ユーザーの満足度や使いやすさなどの定性的指標も評価に含める。
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機械学習モデルの評価:精度や再現率などの評価指標を過度に最適化することで、実際のユーザー体験が損なわれる可能性があるため、バランスの取れた評価が求められる。
具体的な事例
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ウェブパフォーマンスの最適化:Lighthouseスコアを向上させるために、実際のユーザー体験を無視した最適化が行われ、結果としてユーザー満足度が低下するケースが報告されている。
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学術界におけるインパクトファクターの重視:論文のインパクトファクターを重視するあまり、研究者が実際の科学的貢献よりも、ジャーナルの選定や引用数の増加を目的とした行動を取る傾向がある。
グッドハートの法則は、評価指標の設定とその運用において、常に意識すべき重要な原則である。
特にデザインやプロダクト開発の現場では、ユーザーの真のニーズや体験を見失わないよう、多角的な評価と柔軟な運用が求められる。