UXの品質評価に関してのメトリクスのひとつ。
Happiness(幸福度)、Engagement(エンゲージメント)、Adoption(採用)、Retention(リテンション)、Task Success(タスク達成)の頭文字を取ったHEARTメトリクスが用いられる。
提唱者
GoogleのUX調査チームに所属していたKerry Rodden、Hilary Hutchindon、 Xin Fuが2010年にSIGCHIカンファレンス(※)で発表した。
※Human-Computer Interaction(HCI)研究における最重要国際会議

GoogleUX調査チーム:ケリー・ロドン氏、ヒラリー・ハッチンドン氏、ジン・フー氏
写真:引用元:Measuring UX on large scale
定量データ(PULSEメトリクス)で取得できない”ユーザー満足度”が計測できる
ユーザー満足度を測定する際は、ページビューや滞在時間、待機時間といったビジネスや技術に即した定量データを使うことが多い。
もちろんこれらの指標は重要である。例えば、待ち時間が長すぎるサイトをユーザーが喜んで使うことはない。
一般的に、ページビュー、滞在時間、応答時間といった定量データを用いてユーザー満足度を測定することが多い。これらの指標は、PULSEメトリクスと呼ぶ。
- Page views(ページビュー)
- Uptime(滞在時間)
- Latency(待機時間)
- Seven-day active users(週次アクティブユーザー)
- Earnings(収益)
PULSEメトリクスは重要な指標ではあるが、以下の2点において限界がある。
- ユーザー体験の質を正確に捉えることができない
- ビジネス改善に結びつく測定基準を設定しにくい
例えば、アクティブユーザー数が多くても「やむを得ず使っている」可能性がある。また、滞在時間が長くても「目的の情報が見つからず迷っている」かもしれず、数値のみでは体験の良し悪しを判断できない。
HEARTメトリクスの5つのカテゴリ
HEARTメトリクスは、定量・定性データの両面からユーザー体験の質を測定する枠組みであり、プロダクト全体、または特定の機能に適用可能である。
1. Happiness(幸福度)
ユーザーの主観的な満足度を示す指標。例:ユーザー満足度調査、NPS、視覚的魅力、使いやすさの評価など。
2. Engagement(関与度)
サービスへの関与の深さを示す。例:セッション数、投稿数、コメント数などのインタラクション。
なお、総数ではなく、ユーザー1人あたりの平均値で評価することが推奨される。
3. Adoption(採用)
新規ユーザーや新機能の利用状況を測定する。例:新規登録数、初回購入、初回利用など。
4. Retention(継続)
一定期間後の再利用率を示す。例:継続利用、定期購読の更新、リピート購入など。
「Churn rate(離脱率)」もリテンションの指標の一つである。
5. Task Success(タスク成功)
ユーザーが目的をどれだけスムーズに達成できたかを評価する。例:完了率、所要時間、エラー率など。主にユーザビリティテストで測定される。
「目標・シグナル・指標」で評価する
HEARTメトリクスを具体的な数値に落とし込むために、Googleは「目標・シグナル・指標:GOALS-SIGNALS-METRICS」というプロセスを提唱している。
1. Goals(目標)
サービスや機能に対して、実現したい目標を定義する。目標は、HEARTの各カテゴリと紐づけることが重要である。
例:「ユーザーがコンテンツを積極的に楽しむようになる」
2. Signals(シグナル)
目標が達成されたかどうかを示すユーザー行動や態度を特定する。
例:「セッション時間が長い」「閲覧コンテンツ数が多い」「ポジティブなリアクションの数」
3. Metrics(指標)
シグナルを測定可能な形に落とし込む。
例:「1ユーザーあたりの平均視聴時間」「1日の平均コンテンツ閲覧数」
GOALS-SIGNALS-METRICSのプロセス
1. ゴール(Goals):目標を設定する
サービスや機能に対して、実現したい目標を定義する。目標は、HEARTの各カテゴリと紐づけることが重要である。
例:「ユーザーがコンテンツを積極的に楽しむようになる」
2.シグナル(Signals):目標達成を判定するシグナルを定義する
目標が達成されたかどうかを示すユーザー行動や態度を特定する。
例:「セッション時間が長い」「閲覧コンテンツ数が多い」「ポジティブなリアクションの数」
3.メトリクス(Metrix):シグナルを測定する
シグナルを測定可能な形に落とし込む。
例:「1ユーザーあたりの平均視聴時間」「1日の平均コンテンツ閲覧数」
HEARTメトリクスと「目標・シグナル・指標」の適用例
HEARTカテゴリ | Goals(目標) | Signals(シグナル) | Metrics(指標) |
---|---|---|---|
Happiness | 使いやすさや満足度を高める | アンケート回答、レビュー | NPS、満足度スコア、星評価 |
Engagement | コンテンツへの関与を促進する | 長時間利用、頻繁な利用 | セッション長、使用頻度、投稿数 |
Adoption | 新規ユーザーや機能導入を促進する | アプリDL、サインアップ | DL率、登録率、新機能利用率 |
Retention | 継続利用を促す | 更新、リピート購入 | 継続率、解約率、購入頻度 |
Task Success | タスク達成を効率化する | エラーなしで完了できるか | 完了率、エラー率、所要時間 |
※すべてのカテゴリを適用する必要はない。サービスやチームの目的に応じて、1〜2カテゴリに絞るのが現実的である。
提唱者からの注意
ケリー・ロドン氏が述べているように、全ての指標を使うのではなくチームの目標に対して最適な指標を設定する。
HEARTメトリクスは、使うだけですべてのプロジェクトを成功に導く魔法のダッシュボードではありません。チームによって最も有効な指標は異なるのです。
(翻訳引用元:How to choose the right UX metrics for your product)
テンプレートと参考資料
以下のテンプレートを活用することで、HEARTメトリクスの導入がスムーズになる。ただし、必ずしもすべてを使用する必要はない。

HEARTメトリクステンプレート引用:Heart metrix framework
テンプレート
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関連用語と参考情報
参考サイト
- Measuring the User Experience on a Large Scale: User-Centered Metrics for Web Applications
- How to choose the right UX metrics for your product
- How to Choose the Right UX Metrics for Your Product Created by Telepathy in collaboration with Google Ventures
- Measuring UX on large scale
- Google’s HEART Framework for Measuring UX
- GoogleのHEARTフレームワークを使って、UXを効果的に分析!【その使い方とは】
- UX改善でGoogleが活用するフレームワークとは?