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HEARTメトリクス HEART metrics

定量データと定性データを組み合わせた5つの観点で定めたUXの指標

UX設計をするには、メトリクスが大切である。メトリクスは、データを定量化し、計量や分析をしやすい形式にした指標を指す。

UXの品質に関するメトリクスで、Happiness、Engagement、Adoption、Retention、Task Successの頭文字をとったものがHEARTハートメトリクスである。5つの指標カテゴリを指す場合は、HEARTフレームワークとも呼ばれる。

GoogleのUX調査チームに所属していたKerry Roddenケリー・ロドンHilary Hutchindonヒラリー・ハッチンドンXin Fuジン・フーが2010年にSIGCHIカンファレンス(※)で発表した。

※Human-Computer Interaction(HCI)研究における最重要国際会議

GoogleUX調査チーム

GoogleUX調査チーム:ケリー・ロドン氏、ヒラリー・ハッチンドン氏、ジン・フー氏
写真:引用元:Measuring UX on large scale

定量データだけではユーザー満足度はわからない

ユーザー満足度を測定する際は、ページビューや滞在時間、待機時間といったビジネスや技術に即した定量データを使うことが多い。もちろんこれらの指標は重要である。例えば、待ち時間が長すぎるサイトをユーザーが喜んで使うことはない。定量データを種類の指標の頭文字をとって、PULSEパルスメトリクスと呼ぶ。

  1. ページビュー(Page views)
  2. 滞在時間(Uptime)
  3. 待ち時間(Latency)
  4. 7日間のアクティブユーザー数(Seven-day active users:週に1回以上使用したユニークユーザー数)
  5. 収益(Earnings)

PULSEメトリクスだけでは判断できない2つの課題

PULSEメトリクスだけでは判断できない以下2つの課題がある。

  • ユーザー体験の品質を計測しづらい
  • ビジネスの改善に繋げられる測定基準を設けられない

例えば、アクティブユーザー数が多くても、ユーザーの多くは仕方なく利用しているかもしれない。同様に、サイトの滞在時間が長く回遊率が高くても、「ユーザーが目的の情報を見つけられなかった」のか、あるいは「興味のあるコンテンツが豊富だからサイトに滞在していた」のかは数値だけでは判断できない。

HEARTメトリクスでUXの品質を計測する

HEARTメトリクスはユーザー体験の品質に関する指標を、定量データと定性データを組み合わせた5つの観点のカテゴリを定めている。HEARTメトリクスは、サービス・製品全体、または特定の機能に対して適用できる。

  1. ハピネス(Happiness: 幸せ)
  2. エンゲージメント(Engagement: 関与)
  3. アダプション(Adoption: 採用)
  4. リテンション(Retention: 保持)
  5. タスクの成功(Task Success)

1.ハピネス(Happiness: 幸せ)

サービスに対するユーザーの態度に関する指標。ユーザー満足度、視覚的魅力、ユーザーが他人に勧める可能性(NPS)、そして使いやすさなど、ユーザーエクスペリエンスの主観的な側面を表している。

2.エンゲージメント(Engagement: 関与)

サービスに対するユーザーの関与度合いに関する指標。ユーザーが1週間でサービスを利用した回数の平均や、アップロードした写真の数、コメント数などユーザーインタラクションの数、頻度や内容から計測できる。

エンゲージメントの指標ではサービスの総ユーザーの合計ではなく、一定期間内における1ユーザーあたりの平均を使う。ユーザー全体の合計値はユーザー数の増加とともに増えるため、指標の数値の増加とユーザーがサービスに多く関与したかというエンゲージメントには関連がないためである。

3.アダプション(Adoption: 採用)

サービスそのもの、または一部の機能を初めて使うユーザーに関する指標。1週間で新規で作成されたアカウントの数、初めて購入したユーザー数、ラベル機能を初めて使ったユーザー数が例としてあげられる。

4.リテンション(Retention: 保持)

既存のユーザーが再度サービスを利用する割合を表す。ある期間のアクティブユーザーは、一定期間経過後にどれぐらいサービス利用を継続しているか、という継続率や、繰り返しの商品購入などが例としてあげられる。「チャーンレート(Churn Rate) 」という、継続をやめてしまった人の割合(=解約率)もリテンションの指標の一つである。

5.タスクの成功(Task Success)

タスクを完了するための時間、完了したタスクの割合、およびエラー率などの従来から計測されている定量的な指標。検索や動画のアップロード、ユーザーのプロフィール作成など、作業にフォーカスした製品・サービスや機能で重視される。リモートのユーザビリティテストやベンチマーク調査で測定できる。

HEARTメトリクスでUXの改善方法がわかる

HEARTメトリクスの利点は、ユーザーの満足度や改善するべき指標を可視化できることである。目的に対して意味のある指標を設定して追うことで、プロダクトのユーザー設計が確実になる。

HEARTメトリクスの使い方

HEARTメトリクスをチームに導入し指標の計測・分析をする際は、以下の手順で行う。

1.HEARTメトリクスのカテゴリを選択する

製品・サービスや対象としている機能に対して、関連性の高いHEARTメトリクスのカテゴリを1〜2つ選択する。

2.GOALS-SIGNALS-METRICSで具体的なメトリクスへ落とし込む

選択したカテゴリを具体的なメトリクス(指標)に落とし込む。このプロセスとして、Googleの調査チームはGOALS-SIGNALS-METRICSゴールズ・シグナルズ・メトリクスを提唱している。GOALS-SIGNALS-METRICSプロセスを利用すると、測定する意義のある指標かどうかの判別が容易になり、指標の優先順位をつけやすくなる。

GOALS-SIGNALS-METRICSのプロセス

1. ゴール(Goals):目標を設定する

サービスや機能に対する目標(ゴール)を設定する。「新規ユーザーを獲得する」「既存ユーザーを定着させる」というように具体的で実現可能なものにする。

目標は、始めに選択したサービス・機能に関連するHEARTメトリクスのカテゴリに関連するものとなる。

例えば、エンゲージメント(E)に関連する目標を「ユーザーがコンテンツを満喫し、他にも面白いコンテンツがないか積極的にコンテンツを探索すること」と定義すると、以下のように表現できる。

チームメンバーの視点を統一するためにも、目標を必ず初めに設定する。目標から決めることで、「チームが何を目指してサービスを開発すればビジネスが成功するか」という意見を一致させることができる。目標は、3つ以下に絞ったほうが現実的である。

「アクセス数を増やすこと」といった、既存の無意味な指標を元にしてしまうことが目標設定の失敗例として挙げられる。

アクセス数を増やすために新規ユーザーを増やしたいのか、それともユーザーのサービスへのエンゲージメントを高めたいのか、HEARTメトリクスの各指標を元に、明確な目標を定義するように心がける。

2.シグナル(Signals):目標達成を判定するシグナルを定義する

設定した目標を達成したか判定できるシグナルを定義する。

目標の達成または失敗が、ユーザーの行動や態度でどのように表されるかを考える。

例えばチームで設定した目標が「ユーザーがコンテンツを満喫し、他にも面白いコンテンツがないか積極的にコンテンツを探索すること」であれば、「ユーザーがサービスに滞在した時間」や「ユーザーが見たコンテンツの量」、「ユーザーが好意的なリアクションをしたコンテンツの量」がシグナルにあたる。

シグナルは目標との関連性が強いものにする必要がある。目標が達成されたかどうかによってのみ、シグナルとなる行動や態度が変化する必要があり、その他の要因によって変化する行動や態度はシグナルとしない方が良い。

シグナルをどのようにデータ収集するか考えることも、この過程に含まれる。データの収集方法は、定性・定量の両方を検討する。データの収集が現実的に可能か、収集は簡単か、目標との関連性は強いか、といった観点でシグナルを検討する。

3.メトリクス(Metrix):シグナルを測定する

シグナルをメトリクス(指標)に落とし込み、測定する。

例えば、「ユーザーが見たコンテンツの量」というシグナルに対するメトリクスは、1ユーザーの1日平均の「コンテンツ視聴時間」「閲覧コンテンツ数」と具体的な指標に落とし込むことができる。

目標に明確に関係がある重要なメトリクスだけに絞って計測する。

HEARTフレームワークと、GOALS-SIGNALS-METRICSを使用した例

ゴール(Goals) シグナル(Signals) メトリクス(Metrics)
ハピネス
(Happiness)
使いやすさ
楽しさ
役立つ
アンケート調査に対する回答
5★評価
ユーザーフィードバック
NPS
満足度調査
5つ星評価
エンゲージメント
(Engagement)
ユーザーがアプリのコンテンツを楽しみ、使い続ける 稼働時間が長くなる 平均的なセッションの長さ
平均的な使用頻度
会話回数
(写真のアップ・コンテンツの表示・購入など)
シェア率
アダプション
(Adoption)
新しいユーザーがプロダクトや新機能の価値を見出す ダウンロード
アプリ起動
アカウントへのサインアップ
新機能を使用したか
DL率
登録率
機能の使用率
リテンション
(Retention)
キーになる行動をするためにアプリに戻ってくる アプリにとどまっているか
購読の更新
繰り返し購入するか
解約率
契約更新率
アップロード時間
タスクの成功
(Task Success)
ユーザーのタスクが素早く簡単に完了できる コンテンツをみたり、探したりする時間の長さ
効率的にタスクを完了しているか
検索終了率
クラッシュ率
プロフィール設定率

(引用:How to Use the Google HEART Framework to Measure and Improve Your App’s UX

注意点

上記の表では例示するために全ての項目が埋められているが、実際にHEARTメトリクスを実施する際は、サービス・機能に関連する1〜2つのカテゴリに絞って利用する。

ケリー・ロドン氏が述べているように、全ての指標を使うのではなくチームの目標に対して最適な指標を設定する。

HEARTメトリクスは、使うだけですべてのプロジェクトを成功に導く魔法のダッシュボードではありません。チームによって最も有効な指標は異なるのです。

(翻訳引用元:How to choose the right UX metrics for your product

テンプレートを活用して、HEARTメトリクスをはじめる

HEARTメトリクスには、以下のようなテンプレートが提供されている。

テンプレートを遵守する必要はなく、プロダクトやサービスにとって重要な指標を選ぶことが推奨されている。

HeartFramework

HEARTメトリクステンプレート引用:Heart metrix framework

こちらからテンプレートをダウンロードできる。

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参考サイト

フリーランスのエンジニア。 2001年東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。独立系ソフトハウス(システム開発)、株式会社シンプレクス(金融機関向け取引システムの開発・運用)を経て2011年よりフリーランス。フリーランスになってからは、スマホアプリ、サーバーサイド(Java,Railsなど)と様々なプロジェクトで開発に携わる。現在は会社員時代にお世話になった企業様でRPAプロジェクトで開発を担当している。 ダイエットのためにランニングとヨガを5年ほど続けているが、どちらもガチになる一方で全く痩せないことが最近の悩み。

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