情報の最初と最後は覚えていても、中間は忘れやすい現象を系列位置効果という。最初の情報を覚えていやすい初頭効果と、最後の情報を覚えていやすい新近性効果が関連している。
記憶の仕組みが関係している
系列位置効果は、記憶の多重モデルで示されている「短期記憶と長期記憶が独立していること」と、「情報は短期記憶で記憶され長期記憶にリハーサル(転送)される」という根拠を明らかにしている。
単に中間の要素を忘れやすいということではなく、初めが覚えやすい初頭効果と、最後が記憶に残りやすい新近性効果の結果、中間は記憶に残りにくくなる。
初頭効果 (Primary Effect)
最初に提示される情報が記憶に残りやすい現象。
後から提示される情報に比べて覚える時間が長く、覚えるための繰り返し行動(リハーサル)を十分に行うことができるため、短期記憶から長期記憶に情報が転送されて記憶が定着しやすい。
第一印象を大切にするべきという経験則には、初頭効果も関連している。
新近性効果 (Recency Effect)
最後に提示される情報が記憶に残りやすい現象。最初に提示される情報に比べて覚える時間が短いため、短期記憶に情報がある状態。
プレゼンテーションなどで複数の案が提示された場合、最後に提示された案が採用されやすいというのは、「説明がまだ短期記憶に残っている」という新近性効果に由来している。
記憶の仕組みと系列位置効果を実証する実験
「系列位置効果」の検証を、心理学者のグランツァー氏とカニッツ氏が1966年に行った「短期記憶と長期記憶の性質が異なる」実験で紹介する。
実験の仮説は「覚えた単語が長期記憶に定着していれば、関係ない情報に記憶は影響されないが、短期記憶に保持している場合は記憶が上書きされる」というものだ。
単語を記憶した後に記憶を妨害する課題を行い、最後に覚えた単語を回答する方法で実験した。妨害課題の時間を変えて3つのグループで実証した。
- 被験者に15語の単語リストから1単語ずつ1秒表示し、2秒間隔をあけて覚えてもらう
- 記憶後、グループごとの妨害課題として数字を叫んでもらう
- 覚えた単語を回答してもらう(回答する単語は、提示された順番どおりでなくてもよい)
被験者グループ
グループ | 数字を叫ぶ妨害課題の時間 |
A | 0秒(なし) |
B | 10秒 |
C | 30秒 |
結果は、どのグループも最初の単語は正解率が高く、中間の単語は正解率が下がっていた。
13番目以降の後半の単語の正解率は、妨害課題のないAグループは上がっているが、妨害課題のあるBグループとCグループは上がっていない。
妨害課題が10秒行われたBグループと30秒のCグループを比べると、妨害時間の長いCグループが正解率が低く、単語の記憶が失われた。
実験結果の結論
- 始めに提示した単語は長期記憶に定着して、妨害課題に影響されにくい
- 妨害課題がない場合、後半の単語は短期記憶に保持され、正答率が高い
- 後半の単語の記憶は、妨害課題が長いほど短期記憶から失われ、正答率が低い
UIデザイン・情報設計への応用
系列位置効果はUIデザインや情報設計にも応用できる。ユーザーに印象付けたいものを最初または最後に表示すると効果的である。
ブログ「系列位置効果: なぜABCやXYZは他のアルファベットに比べて取り上げられやすいのか (原題:The Serial Position Effect: Why ABC and XYZ stand out the most among all the alphabets)」にて、系列位置効果を留意・活用する要点が紹介されているので要約する。
ブログ要約
- 重要な情報は、最初または最後に表示する
- 30秒以上経過しても印象付ける内容は最初に配置する
例:ファーストビューでキャッチコピーやキービジュアルで製品を印象付けをすると、ページから離れた後でも思い出してもらいやすい。
- 意思決定を後押しする情報は、行動するUIの直前に配置する
例: 「5%キャッシュバック」「送料無料」など、購入を後押しする情報は、購入ボタンの直前に配置し印象付ける。
- ユーザーが自分のペースで視聴できない動画や音声の場合は、重要な情報を最後に表示する
- アンケートを作成する場合、系列位置効果の影響をユーザーが受けていることを意識し、設問の順番をランダム表示させる対策をする
参照元: The Serial Position Effect: Why ABC and XYZ stand out the most among all the alphabets
系列位置効果を応用した情報設計の例
ブログ記事の要点を元に、パソコンの販売ページのコンテンツ設計をした例を紹介する。
ページの最初にキャッチコピーとビジュアルで製品の主なメリットを伝え、ページから離脱しても記憶に残るようにし、「今なら10%割引」という購入を後押しする情報は購入ボタンの直前に配置して購入前に印象に残るようにした。
関連用語
- 記憶の二重貯蔵モデル
- 忘却曲線
- リハーサル/想起
- 初頭効果
- 新近性効果
参考文献
- 高野 陽太郎, 認知心理学〈2〉記憶, 東京大学出版会,1995
- 服部雅史 小島治幸 北神慎司, 基礎から学ぶ認知心理学, 有斐閣ストゥディア, 2015
- MURRAY GLANZER, ANITA R. Ctrmrz, Two Storage Mechanisms in Free Recall, 1966