忘却曲線
Forgetting Curve

時間経過による記憶の忘却度合いの変化を表した曲線

人は一度物事を覚えても時間が経つと忘れてしまう。覚えてからの時間が短いほど、忘れた記憶を再び覚えることが簡単という性質を使って、記憶の忘却度合いを表したものが忘却曲線である。

忘却曲線は以下のような曲線グラフで表される。

忘却曲線

忘却曲線は、19世紀ドイツの心理学者Hermann Ebbinghausヘルマン・エビングハウス博士の著書「記憶:実験心理学への貢献」で発表した内容が元になっている。エビングハウスが直接的に忘却曲線を提唱したわけではなく、エビングハウスの実験結果を元に発展した。

ヘルマン・エビングハウス氏
写真引用元:Hermann Ebbinghaus and the Experimental Study of Memory

忘却曲線の元となった、覚え直す時間を節約する研究

エビングハウスは、1878~1879年と1883~1884年の2度、時間経過による忘却度合いの変化を研究するための実験を行なった。実験では、エビングハウス自身が被験者となり学習を行い、最初の学習と間隔を空けた再学習で覚え直しに必要な所要時間の比率(節約率)を調査した。

節約率とは、一度覚えた内容を再び完全に記憶し直すまでに必要な時間がどれだけ節約できたかを表す割合である。節約率が高いほど、学習内容の覚え直しが簡単であると言える。

節約率は以下の式から算出される。

節約率 = 再学習に要した時間 ÷ 最初の学習に要した時間

実験では、以下の内容と手順で学習を行なった。

  1. 「KAF」や「WID」といった「子音・母音・子音」から成り立つ、意味のない音節を2300個ほど作成。
  2. No1で作成した音節をランダムに13個取り出し、メトロノームを使って一定の間隔(毎分150拍)で読み上げ、暗唱する。
  3. No2を1セットとし、13個の音節を合計8セット覚えるまで繰り返し暗唱する。(覚えたセットはその時点で暗唱をやめる)

※一度覚えた音節は、それ以降のテストで使わないようにする

13個の音節を1セットにしたイメージ

実験では、最初の学習と時間が経ってからの再学習の2回の学習を行った。

最初の学習と再学習の時間間隔の組み合わせを、20分・1時間・9時間・1日・2日・6日・31日と変えて実験を行った。以下が実験結果である。

時間間隔 最初の学習の所要時間(平均/秒) 再学習の所要時間(平均/秒) 節約率(%)
20分 1081 498 58.2
1時間 1106 681 44.2
9時間 1132 855 35.8
1日 1109 756 33.8
2日 1154 854 27.2
6日 1090 834 25.2
31日 1115 892 21.2

最初の学習の所要時間は、どの実験でもほとんど変化がなかった。しかし、再学習の結果を見ると20分経過すると急速に忘却が進み、復習にかかる時間の節約率は6割以下になり、1時間後には5割を切り、その後は緩やかに節約率が下がっていく。

節約率をグラフにプロットすると以下のような曲線になる。

実験結果

この実験から、エビングハウスは最初の学習からの経過時間(t)を元にした節約率(b)の計算式を算出した。

忘却曲線の注意点

忘却曲線を、「忘却の割合」や「記憶している量の割合」を表すものと紹介されている場合があるが、あくまで「再学習にかかる負担の節約率」を表した曲線であるため、注意が必要である。

例えば、20分後の節約率58.2%を、「58.2%覚えていて、41.8%は忘れている」といった解釈は誤りである。

節約率が高いほど再学習にかかる時間や負担が少ないため、覚えている割合が高いと推測することはできるが、正確な記憶率や忘却率は忘却曲線からは読み取ることはできない

エビングハウスの実験の問題点と心理学への貢献

エビングハウスは自分自身のみを被験者として実験を行ったことが問題点として指摘されていた。

心理学実験は通常、多数の被験者に対して行われることが一般的である。被験者が1人の場合、エビングハウスには当てはまっても、他の人に対しても当てはまるか保証がないため信頼性に欠けると指摘された。

この問題に対して、2015年にアムステルダム大学のJaap M. J. MurreとJoeri Drosによる論文Replication and Analysis of Ebbinghaus’ Forgetting Curve(エビングハウスの忘却曲線の複製と分析)で複数の被験者による追加実験でエビングハウスと同様の結果の再現を証明した。

エビングハウスの実験には問題点が指摘されていたものの、実験の結果から記憶や学習に関する重要な法則が発見され、心理学の発展に貢献した。

発見された重要な法則には以下がある。

  • 過剰学習:完全に覚えてた時点から更に反復学習すると、忘れにくくなる(節約率が大きくなる)
  • 分散効果:再学習するたびに、かかる時間が短くなる
  • 初頭効果:一番初めに触れた情報は記憶に残りやすい
  • 新近効果(新近性効果):一番最後に触れた情報は記憶に残りやすい

忘却曲線の性質を利用すると記憶しやすくなる

忘却曲線の性質を利用して繰り返し再学習すると、記憶を定着させやすくなる。物事を繰り返して覚える際に効率的になる方法の一つに「回数を重ねるごとに間隔を空けて記憶することで効率よく記憶することができる」間隔反復がある。忘却曲線と反復間隔の性質を活用すると、効果的に覚えることができる。

例えば、学習の後の復習は以下のように行うと効果的である。

  1. 繰り返し復習する
  2. 初めての内容を学習した後は、時間をあけずに復習する
  3. 繰り返し復習するときは、回数を重ねるごとに間隔を長くする
    (1時間後→1日後→1週間後→1ヶ月後など)

忘却曲線をユーザーオンボーディングに活用する

2019年4月のUX DAYS TOKYOのカンファレンス「継続的ユーザーオンボーディング」セッションでも、設計の際に知っておくべき知識として忘却曲線が紹介された。

ユーザーにアプリやサービスを使いこなしてもらうためには、使い方や活用法を覚えてもらう必要がある。人間の記憶の特性である忘却曲線や間隔反復の知識を知っておくと、適切なタイミングで情報を提示して、ユーザーへの負担を少なく必要な情報を覚えてもらうことができる。

関連用語

参考文献

参考サイト

この記事を書いた人:かじしま さちこ

フリーランスのエンジニア。
2001年東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。独立系ソフトハウス(システム開発)、株式会社シンプレクス(金融機関向け取引システムの開発・運用)を経て2011年よりフリーランス。フリーランスになってからは、スマホアプリ、サーバーサイド(Java,Railsなど)と様々なプロジェクトで開発に携わる。現在は会社員時代にお世話になった企業様でRPAプロジェクトで開発を担当している。
ダイエットのためにランニングとヨガを5年ほど続けているが、どちらもガチになる一方で全く痩せないことが最近の悩み。