2019/4/5(金)に実施されたUX DAYS TOKYO 2019のカンファレンスに登壇されたKrystal Higgins氏による「継続的ユーザーオンボーディング」セッションのレポートです。
UXに興味・関心がある、向上心を持ったデザイナー・企画職の方を中心に様々な職種の方がカンファレンスにご参加くださいました。
サービス・プロダクトを継続的に利用してもらうには、オンボーディングの考え方が必要だと認識している方が多く、ヒギンズ氏のセッションに皆さん聞き入っていました。以下から講演内容です。
オンボーディングは初回体験だけではない
一般的にオンボーディングと聞くと初回体験であるFirst Runが有名なので、ユーザーが初めてサービスを利用するときに行うチュートリアルを完了すればオンボーディングは完了すると大半の人が誤解しています。
しかし、オンボーディングの本当の役割は、サービスの使い方を最初に伝えるだけではなく、ユーザーがサービスに慣れて活用できるまで、長期的に導くことです。
オンボーディングの4つの役割
オンボーディングは主に4つの役割があります。この役割を果たすように、ユーザーを導く方法を設計します。
TwitterやGmailなどWebサービスとAPIで連携ができるサービス「IFTTT」を例に、4つの役割を説明します。
1.サービスに慣れる(Familiarize)
自分がサービスに登録しなくても、他のユーザーが作成した機能(アプレット)リストが見られるので、ユーザーはIFTTTを使用して何ができるかを理解し、自分は何をしたいのか考えることができます。
2.サービスを学習する(Learn)
登録後に、おすすめの使い方が記載されているメールが送られてくるため、ユーザーは自分で調べなくても簡単に機能を作ることができます。
3.サービスに登録する(Convert)
初めから会員登録を求めるのではなく、機能一覧から興味を持った項目を選び「利用する」ボタンを押してから会員登録画面に移るため、ユーザーは機能に興味をもった上で登録できます。
4.次にする行動がわかる(Guide)
登録するきっかけとなった機能に関する情報が登録完了画面に表示されるため、興味関心が高い状態でユーザーはIFTTTにある他の機能を試すことができます。
オンボーディングを実施する4つの機会
長期的なオンボーディングと言っても、初回以外にはどのような機会でオンボーディングをするのかわからないという方もいるでしょう。オンボーディングを長期的なカスタマージャーニーで実施する4つの機会を紹介します。
- 初めて接触したとき(Initial onboarding)
- サービスにある程度慣れたとき(Continued discovery)
- リニューアルしたとき(Major redesign)
- 離脱したユーザーが復帰したとき(Return from lapse)
1.初めて接触したとき: Initial onboarding
みなさんがすでにオンボーディングとしてご存知の、ユーザーが一番初めにサービスに接触した機会におけるオンボーディングです。
2.サービスにある程度慣れたとき: Continued discovery
一度にたくさんの情報を説明しても、ユーザーは覚えきれません。
ユーザーがサービスの基本的な使い方をある程度理解してきたタイミングで、ユーザーのやりたいことにあわせて、徐々に新しい機能や活用法を伝えましょう。
3.リニューアルしたとき: Major redesign
ユーザーがすでにサービスをよく知っていても、機能追加や変更は新しい情報なので説明する必要があります。
4.離脱したユーザーが復帰した時: Return from lapse
休眠ユーザーがサービスを再開する時や、利用頻度が極端に少ないユーザーが利用する場合に該当します。
例えば、確定申告をするための会計サービスを利用する機会は、1年に1度です。1年間利用しなければ、ユーザーの状況は変わり、サービスも進化しているでしょう。ユーザーが利用を再開するときに、変更された機能やユーザーの今の状況に適した活用方法を案内することで、スムーズに利用を再開できます。
人は1日で覚えたことの1/3を忘れてしまう
ユーザーにサービスを活用してもらうために、オンボーディングでは、使い方や役立つ情報などを覚えてもらう必要があります。そのため、人間がどうやって物事を覚えるかの仕組みについても知っておく必要があります。
カンファレンスで紹介されたエビングハウス忘却曲線とは、人間が記憶をどれだけ維持できるかという実験結果をグラフで表したものです。
新しいことを覚えてから1日後には1/3の内容を忘れてしまいます。そこで、記憶の強化(Reinforce)が大切になります。
忘れそうになる頃に、ふたたび情報を知る機会を提供することで、ユーザーは覚えたサービスの活用方法を忘れないようになります。
サービスに慣れるまでの道のりは人それぞれ
ユーザーの利用状況や経験によって、サービスを理解し慣れるまでの道のりは人によって異なります。説明を読むだけで理解して使いこなす人もいれば、様々なサポートが何度も必要になる人もいます。
1つのオンボーディングで全てのユーザーに対応することは不可能です。ユーザーが自分のペースでサービスを理解して使いこなせるように複数の方法と機会を用意しましょう。
5つのツールキットでガイダンスの偏りを確認する
新しいことを学ぶには、複数回・様々な方法を用いて学習すると効果的と言われています。ガイダンスが1つの方法に偏っていないか確認できる5つのツールキットを紹介します。
- デフォルト: 初期状態の案内 (Default)
- インライン: サービス環境に馴染む案内 (Inline)
- リアクティブ: 行動した後の案内 (Reactive)
- プロアクティブ: 利用する前の案内 (Proactive)
- オンデマンド: 自分で疑問を解消し学習できるような案内(On-demand)
ユーザーがサービスを長期的に利用するためには、初回体験にだけ注力するのではなく、長期的にユーザーの状況に合わせて、様々な方法と多くの機会でオンボーディング・ガイダンスを設計することが大切です。
学べたこと
以上がカンファレンスの内容です。本レポートでは、講演内容の一部を紹介させていただきました。レポート担当のスタッフ池田が感じた、この講演から学べたことをご紹介いたします。
オンボーディングのイメージが変わり、設計の視野が広がった
私も以前オンボーディングとは初回のチュートリアルのことであると考えていました。しかし、「長期的にユーザーを教育してサービスを日常的に活用する状態になってもらうこと」と見方を変えることで、今までは「初めにユーザーに説明しよう!理解してもらおう!」と視野が狭まっていたことに気づきハッとしました。
長期的なオンボーディングの実施タイミングについても具体的な事例の紹介があったため、初回以外にもこのタイミングでやってみようとチームに提案するための情報を得られて良かったです。
アカデミックな学びと実践を繋ぐ考え方をイメージできた
忘却曲線など人間の学習特性についての根底となる知識の紹介もあり、アカデミックな学びを実践で生かすイメージをつかめました。ヒギンズ氏が5つのツールキットを作成した背景にも、学習効率を高める方法が根拠としてありました。
オンボーディングをユーザーの教育プロセスと捉えることで、学習という一段抽象的な見方から最適な方法をオンボーディング設計プロセスに還元しているのだなと感服しました。日頃行っていたUX用語学習でも知識を少しずつ身に着けていたので、学んでいてよかったと実感でき、これからも学び続けるモチベーションが上がりました。
学びを実践に生かすイメージがわくセッションで、実践をしながらこれからもオンボーディングを学び続けたいと思いました。
聞くのと、頭と手を動かすのは大違いだったワークショップ
カンファレンス後にヒギンズ氏の「オンボーディング・コンパスをデザインしよう」ワークショップにも参加しました。ワークを実際にやってみることでユーザーのどの行動にフォーカスして考えるべきなのか、視点を切り替えて考える方法を指導していただき、実際の案件で学びを応用する際の考え方や視点を学ぶことができました。
カンファレンスで紹介された5つのツールキットについても、聞くだけでは「ふむふむ、なるほど」となっていたのですが、ワークの中で必死で考えたアウトプットをチェックしてみると偏っていて、知るのと実際にやってみるのでは大違いでした。考えてアウトプットする中で壁にぶつかったところを質問して解消することで、より深く理解することができました。
最後に、カンファレンスに参加された方の感想をいくつか紹介させていただきます。
- 自分の考えてたオンボーディングはチュートリアル的にアプリに触れた最初の時間に使い方を説明するものと思っていたため、概念が覆された。
- ワークショップも受けた結果、手法はすごくシンプルなのに、複雑なユーザー行動に対して、フォーカスして考えるべきことが明らかになる、というギャップに驚きました。
- 登録したときなどの一時的なものでなく、毎日の通知や使い続けたときのユーザーの日常生活の一部としてのサービスという切り口がとても興味深かったです。
今回はWebサービスが具体例として挙げられていましたが、業務用製品などメンテナンスが長期にわたる製品にも使える内容だと思いました。 - オンボーディングでユーザーが1つのパスだけを通るようにするのは不可能って話が1番刺さりました。同時に勇気づけられました。