成長し続けるサービスのユーザーオンボーディングを学ぼう

サービス・デジタルプロダクトに関わるプロダクトオーナーやUI/UXデザイナーの方は、ユーザーにとって使いやすいサービスにし、ユーザーが離脱しないように日々努力しています。使いやすいサービスにするためにユーザビリティを高めるのはもちろんですが、誰でも機能を初めて見たときに完璧に使いこなせるわけではありません。そこで必要になるのがオンボーディングの改善です。

スライド式でアプリを紹介するウォークスルーや新機能を指し示すコーチマークなどといったUIを用いて、ユーザーがサービス利用に慣れるまで導くプロセスのことをオンボーディングと呼びます。

オンボーディングは、新人研修という英語に由来し、人材育成用語としての意味もあります。オンボーディングを日本語でGoogle検索すると、人材育成の最初の段階として使われるものとして紹介されているものが多く見られます。

サービスデザイン・UX設計でのオンボーディングは、ユーザーオンボーディングとも呼ばれ「サービスやアプリの初回ユーザーが1回で離脱しないように利用設計するためのもの」と解説している記事が多く見られます。日本語の文章として間違ってはいないのですが、初回という認識を強く持ちすぎてしまう傾向があるようです。

最初のユーザー体験だけがオンボーディングではない

初回のユーザー体験の設計は「First Time User Experience ( FTUE )」と呼ばれ別用語として明確に扱われています。ユーザーオンボーディングがユーザーの初回の体験でないことの裏付けになります。定義をしっかり理解することがユーザーオンボーディングの本質の理解の第一歩です。

Googleでは、初回のみならず全体験においてオンボーディングを設計する必要があると言います。

長期的なユーザー教育プロセス=ユーザーオンボーディング

ユーザーオンボーディングは、ユーザーにサービスを理解してもらう「ユーザー教育」のプロセスと切って離せない関係で、「初回のユーザーに限らず、すでにサービスに定着しているユーザーに対しても長期的に繰り返し行う」という考え方です。

ユーザーオンボーディングとユーザー教育は繰り返される図
引用元: Building onboarding for long-term guidance

オンボーディングの専門家であるGoogleのシニアUXデザイナー、クリスタル・ヒギンズのブログでは、継続して行うオンボーディングをマラソンに例えて、以下のように設計の心構えを紹介しています。

オンボーディングは、短距離走ではなくマラソン

多くのチームは、チュートリアルや入門用のスライドショーだけをオンボーディングのデザインとしてしまいます。
初回のチュートリアルだけをオンボーディングとしてしまうと、ユーザーが途中で迷い、ガイダンスが必要な時の設計を見落としてしまう可能性があります。

そのため、オンボーディング設計は、カスタマージャーニーの中の他の瞬間(継続的な新機能追加、大幅なリニューアル、離脱からの復帰など)に対しても適応する必要があります。

クリスタル・ヒギンズ


Marathon, not a sprint

Many teams call onboarding complete once you’ve designed a tutorial or introductory slideshow. But when you limit onboarding to first run, you shortchange users that could benefit from similar guidance at other times in their experience. Instead, extend your initial onboarding philosophy and techniques to other moments in the customer journey like continued discovery, major redesigns, and returning from a lapse.

翻訳・引用: From first run to the long run | Kristal Higgins

表面だけを真似ても間違ってしまう

ユーザーオンボーディングの定義を勉強・理解して実践している人はまだまだ少ない状況です。そんな状態で、他社製品のオンボーディングの表面だけ真似て作ってもオンボーディングの効果は発揮しません。つまり、意味がありません。

例えば、以下の様なスライド形式の説明表示を見かけますが、不適切な部分があります。

このアプリは日本でも話題になったClearというTodoアプリです。最初にアプリを起動すると、ウォークスルーで操作説明が7画面もでてきます。その7画面のうち、2つは特に説明をしていない画面で省いても問題がありません。スライドでの操作説明も冗長であるにも関わらず、スキップする方法がありません。

オンボーディング設計の基本原則には、「簡潔に伝える」「ユーザーの自分のペースで学習できること」などがあり、沿っていないことが理解できます。このように、基本の原則を知ることでオンボーディングの改善点を見分けることができるようになります。

オンボーディングの不適切な点

触って試せるサンプルリストで学習させる

Clearアプリのオンボーディングは、悪いところばかりではありません。ウォークスルーの後に良い初回ユーザー体験(FTUE)の「サンプルTodoリスト」が実装されています。

サンプルのTodoリストに、どの操作ができるかが書いてあるので、どんな操作ができるか、その操作で何が起きるかを、ユーザーは自分のペースで操作をして体験して理解することができます。


画期的な操作性や気持ち良いインタラクションは、説明されるよりも実際に触ってみるほうが直感的に良さが理解できます。実際のUIを操作し、操作に対するフィードバックを体験して理解できる点が、マニュアル説明のようだったウォークスルーの説明より優れています。

「この機能をユーザーに伝えるにはどんな方法が最適か?」という視点で捉えられるようになると、説明コンテンツを見てもらう方法にとらわれず、視野を広げてユーザーを教育する方法を考えることができるようになります。

ライブラリに頼った実装だけではダメ

日本でも、チュートリアル・ツールチップやオーバーレイを簡単に実装できるオンボーディングに特化しているライブラリやツールが人気です。

オンボーディングライブラリの例
引用: AlertOnboarding

しかし、ライブラリやツールを導入しているから大丈夫、ということもありません。
ライブラリは見栄えが良いオンボーディングがすぐに実装できる利点がありますが、自分たちでオンボーディング設計の考えを持たずに頼ってしまうのは危険です。ライブラリありきの設計や改善に視野が狭まり、適切なオンボーディングは設計できません。

ウザくないオンボーディングにするには?

オンボーディングで「何を、どんなタイミングで、どうやってユーザーに伝えるか?」は、多くの人が設計で悩むポイントです。

サービスの提供企業としては、サービスを理解してもらいたいので、たくさん説明したくなってしまいますが、ユーザーの気持ちを考えない過剰なオンボーディングは「ウザい」と思われ離脱に繋がってしまいます。

そこで、オンボーディング対象の見極めと優先順位づけをする必要があります。
サービス利用体験の中でも継続ユーザーと離脱ユーザーを分ける重要な行動を「キーアクション(Key Action)」と言います。
キーアクションがどこにあるかを、ユーザー体験の中で特定し、マッピングをすることで迷ったユーザーにそっと手を差し伸べて導く、気が利いたオンボーディングの計画が立てられるようになります。

キーアクションはユーザーのゴールから遡って探す

架空の「ユーザーが商品を販売するサービス」を例に、キーアクションの特定方法を紹介します。まず、サービスに定着しているコアユーザーの状態を知り、コアユーザーになった状態をゴールとして体験をスタートまで遡っていきます。

コアユーザーは、週に1回商品を販売する人々であり、離脱したユーザーは、販売商品を投稿する前にやめてしまった人々とします。

コアユーザーと離脱ユーザーを体験の最後から振り返ってみて比較することで、成功への鍵となった行動を特定することができます。

たとえば、「リストのコピー」機能は多くのコアユーザーは活用していて、失敗した多くのユーザーは機能に気が付いていない、一度もやったことがないということが分かったとします。これは、「リストのコピー」はサービスの定着を分ける重要なキーアクションである可能性を示しています。

参考: Start at the end to map key actions | Building onboarding for long-term guidance

継続的な効果測定がMAU増加に繋がる

特定したキーアクションに対して設計・実装したオンボーディングが、ユーザー定着に効果があるかどうかを知るためにも、継続的な効果測定が重要です。

下の図はユーザーのリテンション(保持)率を描いたグラフです。リテンションカーブと呼ばれるこのグラフで、ユーザーが離脱するタイミングを可視化しています。

多くのユーザーが1日目を過ぎてから4日目に急降下することがあるとすると、これは、1日から4日の間にユーザーの定着と離脱を分ける重要な要素があることを示しています。

オンボーディングの正しい効果測定と継続的な設計によって、ユーザーの定着率が高まり、月間アクティブユーザー(Monthly Active Users:MAU)の増加に繋がります。

リテンション率のグラフ
縦のUser Returningがユーザーの回帰、
横軸のDays Since First Useが最初の利用からの日数。
引用: Evaluating onboarding experiences

まとめ: 良いユーザーオンボーディングにするには

  • 初回だけでなく、長期的に繰り返し行う「ユーザー教育プロセス」と心得る
  • 基本的なオンボーディングの設計原則を学ぶ
  • オンボーディングが必要なキーアクションを見極める
  • 設計・実装だけでなく、正しく効果測定を行う

この記事で紹介した良いオンボーディングを実現させる要素はほんの一部で、他にも学ぶべきことがたくさんあります。
キーアクションも、特定後にどんな方法で伝えるか?については、サービスによってキーアクションは様々であるので、他社を真似したりベストプラクティスを追い求めるだけでは、成果は上がりません。

長期的な継続成長には適切なオンボーディングが必要

スタートアップなどのサービスは、初期の飛躍を求めるグロースに集中します。
しかし、一定の成長が過ぎたGoogleをはじめとするデジタルサービスは、次なる成長のための仕掛けが必要になります。

そこで利用できるのがオンボーディングです。成長し続けるサービスにするためにどのようなオンボーディングを設計する必要があるかを理解しなければ、上記のような表面的な手法に留まってしまいます。

Googleでは2018年後半にマネージャー250名を集めて、オンボーディングの専門家・クリスタル氏による研修を行ったそうです。
Googleが出しているどのサービスも、さらに成長を続ける必要があるからです。

専門家のクリスタル氏からオンボーディング設計を学ぶ

日本でも、2019年4月にクリスタル氏のワークショップが開催されます。表面的なオンボーディング設計でない、成長し続けるためのオンボーディング設計が学べるチャンスです。

クリスタル氏は、オンボーディング設計について研究・情報発信している専門家です。彼女はオンボーディングをはじめ、Web・モバイル・IoTウェアラブル製品など、あらゆるタイプのUXデザインを手がけています。

現在の職場であるGoogleではAndroid Wear 2.0の立ち上げにも尽力し、最近ではGoogle Photoに関連する新規プロジェクトのデザインチーム・リサーチチームの立ち上げに取り組んでいます。

ワークショップでは、この記事で紹介した「オンボーディングのキーアクションの特定」の詳しい内容はもちろん、さらに一歩踏み込んだ内容も学ぶことができます。

  • キーアクションを分析し、効果的なオンボーディング設計を行う方法
  • キーアクションを連携させて多様なユーザーに対応する方法
  • オンボーディング設計に役立つツールキットの使い方

クリスタル・ヒギンズ
GoogleシニアUXデザイナー

Webサイト/ブログ: https://www.kryshiggins.com/
twitter: @kryshiggins

この記事を書いた人:イケダマリカ

千葉大学・大学院でプロダクト・サービスデザインを学び、現在はメンバー5名の小さなスタートアップで1人デザイナーとして調査、UX設計、UIデザインとフロントエンド実装をやっています。UXも技術も日々勉強中!趣味は片付け、インテリア小物とゲームです。