人間が現実世界のようなノイズの混じった状況で、どれだけシグナルを正しく認識できるかを知るための理論です。
例えば、アニメーションの速度を変化させたときの心地良さなど、ユーザーの気分や個人差によって評価が変わってしまうような指標を定量的に扱うための理論の一つです。
1950年代にレーダーの研究者が考案し、以降、心理学的な測定に応用されていきました。Wikipediaでは次のように定義されています。
Detection theory or signal detection theory is a means to quantify the ability to discern between information-bearing patterns (called stimulus in living organisms, signal in machines) and random patterns that distract from the information (called noise, consisting of background stimuli and random activity of the detection machine and of the nervous system of the operator).
Wikipedia – Detection Theory
以下、和訳。
信号検出理論とは、何らかの情報を持つパターン(生体情報処理分野では刺激、電気電子分野では信号)を、情報を持たないランダムなパターン(環境からの刺激や、対象になる機械ランダムな動き、観測者の神経系といったものに由来するノイズ)から分離する能力を定量化する理論のことを示します。
信号検出理論の扱う問題
信号検出理論は心理学の問題に応用されてきました。心理学では「しょっぱさ」といった人によって受け取りかたの異なる量を取り扱います。また、受け取る感覚自体もオンオフの2値で表せるものではなく、ある程度の広がりを持っています。
信号検出理論ではこのような状況で、刺激に対してどれだけ敏感に反応できるかという問題を扱います。
ボールペンでの検出例
ボールペンの製品改良について考えてみましょう。このボールペンには「軽すぎて安っぽい」という問題があるものとします。
これを解決するために、試作品として様々な重さの試作品を作ってみました。ここでは2gずつ重さを変えてサンプルを5個作ったものとします。一方、ボールペンが重くなると材料費や運送費といったコストがかかってしまうため、この中で「安っぽくないくらいの最小の重さ」のボールペンは試作品のうちどれかを決めなければいけません。
決めるためには試作品についてテスターの方々にアンケートを取ればいいのですが、テスターの方々には好みの差もありますし、同じ人だとしても「安っぽいかどうか」の判断基準はぶれてしまいますので、同じ重さのペンに対して「安っぽい」「安っぽくはない」と両方の答えを返してしまう可能性があります。
信号検出理論では、このような状況でも「安っぽいかどうか」に関する個人のブレについて、ROCカーブの下側面積(大雑把に言って「正答率」)を用いて評価する手法を提供します。さらに正答率の平均をとることで、個人間の好みによらない評価を大まかに得ることができます。
より詳しい内容については、例えば「信号検出理論の官能検査への応用 畑江敬子 調理化学 Vol. 26 (1993) No. 1 p. 78-87」に解説が記されています。