もともとの意味はギリシャ語の「τάξις(taxis)=秩序」「νόμος(nomos)=法」に由来し、「分類法」や「分類学」を意味する。生物学では「ほ乳類」「鳥類」「魚類」といった共通点ごとの分類に使われてきたが、この考え方はデジタルの情報設計にも応用されている。
タクソノミーはUIのメニューやカテゴリだけでなく、CMSのメタデータ、レコメンドや関連表示、アクセス解析の軸など“裏側”でも機能する。しかも一度作って終わりではなく、運用しながら継続的に見直す「リビングドキュメント」として扱うことが重要だ。
起源・広まり
タクソノミーはもともと、生物や植物などを体系的に整理する学術的な分類法として発展してきた。この概念がウェブやアプリの情報設計に持ち込まれたのは、情報量が膨大になったデジタル時代に、「ユーザーが迷わず目的の情報へたどり着ける仕組み」が求められたからである。
ナビゲーションの設計、検索性の向上、再利用性(自動生成や再掲のしやすさ)といった課題に応える手段として、タクソノミーはIA(情報アーキテクチャ)やコンテンツ戦略の分野で広く活用されるようになった。
デザインへの応用・利用方法
タクソノミーは、単なる「分類のための表」ではなく、プロダクトの構造やユーザー体験の質を左右する設計上の基盤である。実際の活用ポイントは次のとおりだ。
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情報構造の骨格づくり
トップカテゴリからサブカテゴリへと階層を定義し、メニューやパンくずリストなどのナビゲーションに反映する。
例:「家電 > キッチン家電 > 炊飯器」のようなツリー構造。 -
語彙の標準化
カテゴリ名・タグ名・同義語・表記ゆれなどを整理し、「使ってよい語彙リスト」として管理することで、運用のブレを防ぐ。 -
メタデータ設計
投稿タイプや商品属性など、必須・任意の項目を定義することで、データ登録の抜け漏れを防止し、構造的な整合性を保つ。 -
分類を活用したコンテンツの動的出力
同じタクソノミー(分類情報)をキーとして使うことで、関連するコンテンツを自動で集めて表示する仕組みが作れる。
たとえば記事ページで「テーマ:デザイン」という分類が付いていれば、同じテーマの記事を「関連記事」として自動で出せる。ECサイトなら「カテゴリ:炊飯器」をもとに、同カテゴリの商品ランキングやおすすめ商品を自動的に差し込める。
このように、分類が整理されていると人が手作業で紐づけなくても、条件に合ったコンテンツが自動で出力されるようになる。
継続的な改善と運用のポイント
「どう使うか(活用)」と「どう育てるか(運用)」を分けて考えることで、タクソノミーは長期的に価値を発揮する。
前者は情報体験の土台をつくり、後者はそれを環境の変化に合わせて磨き続ける営みである。
タクソノミーは一度設計すれば終わりではなく、ユーザー行動やコンテンツの増加にあわせて、継続的に検証し、進化させていく必要がある。
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検証と改善
カードソーティングやツリーテストなどの手法を用いて、ユーザーが情報をどれだけ見つけやすく、理解しやすいかを定期的に検証する。こうした反復的な評価を通じて、分類体系の精度を継続的に高めていく。 -
運用ルールと管理体制の整備
サービスの成長や新しい情報の登場にあわせて分類を追加・変更する際は、「申請 → 審査 → 反映」という手順と、承認者(用語オーナー)を明確にしておくことが重要だ。
誰でも自由に分類を増やせる状態では構造が崩れやすく、属人化も起きやすい。ルールと責任の所在を明確にすることで、チームが変わっても分類の品質を保てる。
関連概念との違い
タクソノミーは、情報を「is-a(〜は〜である)」という親子関係にもとづいて階層的(縦方向)に整理する分類方法である。木の幹から枝葉が分かれるように、上位から下位へと掘り下げていく構造を持ち、サイトのメニューやパンくずリスト、情報体系の骨格づくりなどに用いられる。
情報を整理・構造化する考え方はタクソノミーだけではない。目的や表現の幅によって、複数の軸で横断的に分類する「ファセット分類」や、概念間の関係性そのものを記述する「オントロジー」といった手法が用いられることもある。
それぞれは分類という共通の目的を持ちながら、表現できる構造や適する用途が異なる。
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ファセット分類(faceted classification)
ファセット分類は、価格・色・サイズ・地域など、互いに独立した複数の軸(ファセット)を設けて情報を整理する手法である。1つの項目が複数の軸に同時に属することができ、「縦に掘る」タクソノミーと違い、横方向に複数の切り口を組み合わせる分類といえる。ECサイトの商品検索で「家電 × 価格 × ブランド × 評価」といった条件で絞り込めるのはその典型例であり、ユーザーの探索や比較行動に強みを発揮する。 -
オントロジー(ontology)
オントロジーは、親子関係だけでなく、「部分と全体(has-a)」「機能や役割(used-for)」「因果関係」「制約条件」など、多様な関係性を網の目のように定義する知識モデルである。タクソノミーのような縦の階層構造や、ファセット分類のような横の切り口を超えて、概念間の複雑なつながりを表現する。たとえば「自転車」は「乗り物(is-a)」であり「車輪を持つ(has-a)」存在であり、「道路で使われる(used-in)」という複数の関係を同時に持つ。この柔軟な構造は、検索エンジンや知識グラフ、AIが「概念の意味」を理解し推論する際の基盤としても活用されている。
SEO・メタデータとの関係
タクソノミーの設計は、検索エンジン最適化(SEO)やメタデータ設計にも大きな影響を与える。
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良い効果
カテゴリやタグの体系が内部リンクの網を整え、ページ構造を明確にすることで、クロール効率や評価の一貫性が向上する。
たとえば、カテゴリ階層が整理されていると、検索エンジンがサイト全体の構造を把握しやすくなる。 -
注意点
ファセットの組み合わせによってURLが爆発的に増えると、評価が分散したり重複コンテンツが発生する可能性がある。canonical
やnoindex
、robots
の設定を設計段階から組み込むことが重要だ。
注意点(誤用・落とし穴)
タクソノミー設計には、いくつかのよくある落とし穴がある。以下の点に注意して設計・運用する必要がある。
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階層が深すぎる/枝が不均衡
3〜4層程度を目安にし、末端だけが細かくなりすぎないよう粒度を揃える。 -
部署ごとの言い回しがバラバラ
分類名は利用者の語彙を基準にする。同義語や表記ゆれは辞書として管理し、検索機能と連携させる。 -
“全部カテゴリ”化の落とし穴
なんでもかんでもカテゴリにしてしまうと分類が肥大化してノイズが増える。カテゴリは構造、タグは横断という役割分担を徹底する。 -
作って終わりになってしまう
新規カテゴリの乱造を防ぐため、「追加基準」と「棚卸しサイクル」(例:四半期ごと)を定義しておくことが重要だ。
他分野での応用(参考)
タクソノミーという考え方は、デジタル領域以外でも広く使われている。たとえば「EUタクソノミー」は、環境面で望ましい経済活動を分類し、投資判断を導くための基準として用いられている。
これは「行動を導く分類」というタクソノミーの本質をマクロなスケールで応用した例といえる。情報設計におけるタクソノミーもまた、ユーザーの行動を“導く”設計の要となる。
関連用語
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情報アーキテクチャ(IA)
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ファセット分類 / ファセットナビゲーション
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パンくず
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ツリーテスト