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感情ヒューリスティック The affect heuristic

好きか嫌いか、もしくは感情反応が強いか弱いかによって判断を下してしまうこと

人が感情的な要素で意思決定をしてしまい、そこに付随するメリットやリスクも感情によって判断してしまう傾向のことをいう。心理学者のPaul Slovicポール・スロビックによって、2002年に提唱されたヒューリスティックのひとつ。

感情がリスク評価に影響を及ぼすことは、1978年にポール・スロビックやBaruch Fischhoffバルーク・フィッシュホフらが発表した論文に掲載されているが、「感情ヒューリスティック」という言葉を提唱したのはポール・スロビックである。

ポール・スロビックの肖像

ポール・スロビック(出典:psychology.uoregon.edu

感情でメリットやリスクも判断する

ヒューリスティックやバイアスについて研究されていく段階では、人の意思決定は認知的に説明可能な状況で下されると考えられていた。認知的と言うのは、対象物を知覚し、それについて解釈を行った状態のことを差す。

しかし、それだけでは説明が付かない結果も出てくることから、研究者たちは「感情が意思決定に関係する」と認識し始めた。例えば、行動科学者のEldar Shafirエルダー・シャフールらは、1993年に発表した論文「Reason-based choice」の中で、以下のように感情に対する限定的な役割を認めている。

People’s choices may occasionally stem from affective judgments that preclude a thorough evaluation of the options.
(人々の選択は、時として、選択肢の十分な評価を妨げる感情的な判断を下すこともあるだろう)

ポール・スロビックらは、さらに研究を深めていき、感情がリスクとメリットの判断に、以下のような影響を与えることを発見した。

  • 好ましい感情を持っているときには高いメリットがあり、リスクは少ないと判断する
  • 嫌な感情を持っているときにはメリットは低く、リスクは高いと判断する

ブランコを前にした子供の反応例

公園でブランコを目にした2人の子供を例に解説する。
1人は、日頃から近所の家でブランコに親しんでいて、ポジティブな感情を持っている。すると、その子は、(高利益、低リスクと判断し)すぐにブランコで遊ぶために駆け寄っていった。

もう1人の子供は、少し前に友達の家で、ブランコでネガティブな体験をしてしまっていた。すると、その子は、ブランコを目にしてその体験を思い出し、(低利益、高リスクと判断し)ブランコでは遊ばなかった。

2人の子供の反応

ブランコを前にした2人の子供の異なる反応

情報が加わると感情も変わり判断も変わる

ポール・スロビックらが行った実験によって、感情が意思決定に与える影響は明確となり、メリット判断だけではなく、リスク判断も感情によって変化することが証明された。
また、情報の追加により初めに持っていた感情と異なる感情が新たに生まれると、意思決定が変化することも認識された。

実施された実験は、以下のようにいくつかの技術についてのメリットとリスク判断を下すものである。

実験 1:感情による単純なメリット・リスク判断

実験方法

  • 水道水へのフッ素添加、化学プラント、食品防腐剤、自動車などの様々な技術について、被験者個人の好き嫌いを言ってもらい、その後にそれぞれのメリットとリスクを書き出すことを指示した。

結果

  • 自分が好感を持っている技術の場合は、高いメリットを評し、リスクはほとんど思い浮かばなかった。
  • 反対に、嫌悪感を持っている技術の場合は、リスクを強調し、メリットはほとんど思い浮かばなかった。

実験 2:情報提供の時間制約「あり・なし」でのメリット・リスク判断

実験方法

  • いくつかの活動や技術に対して学習を、時間制約「あり、なし」の2グループで行った。

結果

  • 「あり」実験1の結果がより強く強調された。
  • 「なし」認識できるメリットが高い場合はリスクは低く評価され、反対も同様にリスクの認識が高い場合はメリットは低く評価された。

実験 3:追加された感情操作によるメリット・リスク判断

実験方法

  1. 被験者の自己判断で、特定の3つの技術のメリットとリスクを評価をさせた。
  2. 各技術に対して、高メリット、低メリット、高リスク、低リスクの4条件をランダムに選出させ、条件に合わせた一般的な情報を教えた。
  3. 再び、メリットとリスクの評価を行った。

結果

  • メリットとリスクを知覚すると、メリットを増加させるとリスクが減り、リスクを増加させるとメリットが減るという形で評価に変化が現れた。

感情は合理性に勝る

感情によって意思決定が振り回される現象には、2つの思考モードのひとつ、システム2の新しい性格が潜んでいる。規範的反応を示し、ルールに基盤的であるシステム2が、システム1の自由行動も容認しつつ、最終責任を負う、つまり、理論的に判断すると考えられていた。

ところが、感情的な要素が絡んでくると、システム2はシステム1の感情を批判するのではなく擁護に回る傾向が強くなる。システム1の確証バイアスを保証するかのように、”感情から導き出された”結論に合致する情報を探し求めてしまう。

社会心理学者のJonathan Haidtジョナサン・ハイトが、文脈こそ異なるが「感情というしっぽは合理的な犬を振り回す※1」と言ったそうだが、まさにその通りである。

※1Jonathan Haidt, “The Emotional Dog and Its Rational Tail: A Social Institutionist Approach to Moral Judgment”, Psychological Review 108 (2001): 814-34

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参考文献

参考サイト

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