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利用可能性ヒューリスティック Availability heuristic

思い出しやすい事例を優先させて判断や意思決定に利用し、判断を下してしまうこと

心理学におけるヒューリスティック(経験則)のひとつで、直前に見たものなど、思い出しやすい事柄に影響を受けることを指す。

Amos Tverskyエイモス・トベルスキーDaniel Kahnemanダニエル・カーネマンが1971〜72年に行った研究により、このヒューリスティックの存在が明らかになった。1973年には、「Availability: A Heuristic for Judging Frequency and Probability」という論文も発表している。

ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキー

左:ダニエル・カーネマン、右:エイモス・トベルスキー(出展:http://grawemeyer.org

この研究によると、人は2つの思考モード、システム1とシステム2を持っている。システム1は、直感的に早い思考を行うモードであり、いわゆるショートカットを好む。利用可能性ヒューリスティックも、そのショートカットのひとつだ。

利用可能性ヒューリスティックが作用するとき、人は、思い出しやすい事例を優先させて判断をする。例えば、「記憶にある限り、この地域には大きな台風は来ていない。だから、ここは安全だろう。」と判断してしまう。しかし、実際にはそのようなことがあり得ないことは、昨今の気象事情から見て取れるだろう。

このような災害対策においては、個人はおろか政府でさえも、過去の経験値から最悪の事態を想定して設計を行うことを、経済学者のHoward C. Kunreutherハワード・C・クンルーサーが指摘しているほどである。

美容室、歯科医院、コンビニ、どれが一番多い?

ひとつ、興味深い検証を紹介する。日本人の社会心理学研究者であるKodai Kusano(@kodai_kusano)が、Twitterで「美容室、歯科医院、コンビニの中で、日本で最も数が多いのはどれか?」という趣旨の質問を行った。

利用可能性ヒューリスティックは、接触頻度とも関連する。そこで、彼は「一般的によく利用するのはコンビニであるから、コンビニと回答する人が多いだろう」と仮定をした。

結果は以下の通り。

 

また、彼はこの結果と利用可能性ヒューリスティックとの関連性を示すために、以下の質問もしている。

最も回答が多かった「コンビニ>歯科医院>美容院」と、頻繁に行く場所の比率が相関していることも着目すべき点である。つまり、思い出しやすい(接触頻度が高い)順に店舗数が多いと判断したということが推察されるからだ。

利用可能性ヒューリスティックを形成する要因

利用可能性ヒューリスティックを形成する原因は、すぐに思い浮かぶ具体例を挙げてみると分かる。それらの事例における主要なポイントには、以下がある。

想起容易性

記憶する際に大きなインパクトを受ける情報がこれにあたる。
例えば、芸能人の離婚や政治家の不倫スキャンダルなど注意を引きつけるような目立つ事象や、飛行機事故や台風・地震被害、高齢者の自動車事故など世間の注目を集めるような事象など。

具体性

個人的に直接経験したことや見た写真、生々しい事象であったり、身近な人間から聞いた具体的な事象などがこれにあたる。
個人の経験を例にすると、自分が行政支援を受けられなかった経験を持っていた場合、同じような報道をテレビやネットで触れた場合よりも行政支援に対する信用は大きく揺らぐだろう。
なお、人から聞くよりも自身が経験したことの方が、記憶に残りやすいために利用可能性が高まる。

検索容易性

「いつものあれを買えば、間違いはない」など、記憶の中から検索しやすい事象がこれにあたる。

UXの現場と利用可能性ヒューリスティック

UXの現場では、利用可能性ヒューリスティックによるバイアスが発生していることを認識することが重要である。また、ユーザー心理に作用しているだけではなく、自分自身にも作用している可能性も考慮する必要もある。

例えば、2〜3人の20代によく使うSNSを聞いたところ「インスタグラム」だったという定量的な事象から、「一般的に20代はインスタグラムをよく利用している」と結論付けるのは注意すべきだ。

このような場合は、「果たして、2〜3人に聞いたというファクトだけを理由として、そのように決めつけて良いのか?」という質問を自分に問いかけて、バイアスを防ぐための監視を行うと良い。この場合、その結論では時期尚早である、ということが判明するだろう。

バイアスへの監視を毎回行うのは面倒に思うかもしれないが、それによって引き起こされる致命的なエラーが防げることを考えると、充分に価値のある行為である。

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参考文献

  • ダニエル・カーネマン, ファスト&スロー(上), 早川書房, 2014

参考サイト

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