ギャンブラーの誤謬と確率の独立性
ギャンブルに熱中している多くの人に共通するのは、「これだけ続けたのだから、そろそろ当たりが出るはずだ」という思い込みである。
しかし実際には、当たりが出る保証はまったくなく、気づいたときには大金を失っていることが多い。
このように、過去の結果が今後に影響しないにもかかわらず、「次は当たるに違いない」と信じてしまう現象をギャンブラーの誤謬という。
代表的な例が、1913年8月18日にモナコのモンテカルロ・カジノで起きた出来事だ。
ルーレットで26回連続して黒が出た後、多くの客が「次こそ赤が出る」と信じて赤に賭け続け、最終的に何百万ドルもの損失を被った。

カジノのルーレットで、26回連続で黒が出た。その時、多くのギャンブラーは「次こそは赤だ」と信じて赤に賭けた
少数の法則と認知バイアス
ルーレットでは赤と黒がそれぞれ約50%の確率で出るとされている。だが実際の試行では、黒が連続して出るなど、短期的に偏りが生じることがある。このような偏りを見て、「次は赤が出るはずだ」と考えてしまうのが少数の法則による錯覚である。
これは、少ない試行回数から得られた結果を過信してしまう、典型的な認知バイアスである。
「連続する確率」と「1回ごとの確率」の違い
「次こそ赤が出る」と思い込む背景には、連続して同じ結果が出る確率と、1回ごとの確率を混同してしまうことがある。
たとえば、ルーレットで黒が5回連続して出る確率は
0.5⁵ = 0.03125(3.125%)
この数値だけを見ると、「もう黒は出ないだろう」と感じてしまうのは自然だ。
しかし重要なのは、ルーレットの1回ごとの結果は独立であり、過去の出目は次の結果に影響を与えないということだ。つまり、たとえ直前に黒が5回続いていても、次に黒が出る確率は依然として50%である。

5回連続して黒が出る確率
試行の「独立」と「非独立」
確率統計では、過去の事象が未来に影響しないことを独立と呼ぶ。独立性の有無は、次の試行の確率に大きく関わる。
次の例で見てみよう。
【例】赤玉5個・黒玉5個の箱から玉を引く
1回目:黒玉を引く確率は50%

取り出した玉を戻す場合と戻さない場合
-
引いた玉を戻す場合:2回目も黒玉の確率は50%(独立)
- 1回目が黒:黒玉4個 → 2回目の黒は4/9(約44.4%)
- 1回目が赤:赤玉4個 → 2回目の黒は5/9(約55.6%)
取り出した黒玉を戻す場合
取り出した黒玉を戻す場合は、黒玉が出る確率は変わらない
引いた玉を戻さない場合:2回目の確率は状況により変動(非独立)
取り出した黒玉を戻さないと、黒玉が出る確率は下がる。
このように、玉を戻すかどうか(=独立か非独立か)によって、次の確率は変化する。
ギャンブラーの誤謬が起きる理由
ルーレットやサイコロのように独立な試行では、1回ごとの確率は常に一定であり、過去の結果は影響を与えない。
しかし、玉を戻さない抽選のように非独立な試行では、前の結果が次に影響するため、確率は変動する。
ギャンブラーの誤謬が生まれる背景には、この「独立」と「非独立」の違いを正しく理解できていないことがある。
結果的に、「黒が続いたから次は赤」といった誤った予測につながるのだ。
関連用語
マーチンゲールの法則:負けたら賭け金を倍にして、いつか勝てば損失を取り戻せるという戦略。ただし、理論上は破産リスクも高い。
参考文献
- 高橋昌一郎監修、(2021)、情報を正しく選択するための認知バイアス事典