ユーザーだけでなく、サービスを提供するスタッフといったユーザー以外のステークホルダーの視点からもサービス提供プロセスを記述する、サービス運用、設計ツール。従業員や顧客の体験を改善するためにビジネスリソースを計画して組織化するサービスデザインで使用されるツールの1つである。
1980年代前半にG. Lynn Shostack氏が提唱した。なお、ブループリントとは、日本語では「青写真」とも呼ばれ、設計図の複写に用いられていたことから転じて「将来の計画」「完成予想図」という意味を持つ。
サービスブループリントの特徴
ユーザーの行動とスタッフ・システムの働きを視覚化する
カスタマージャーニーマップは顧客がサービスを利用する際のプロセスをマッピングするツールであるのに対して、サービスブループリントは顧客とサービス提供者のやり取りに焦点を当てていることが特徴である。
顧客のアクションに合わせて、ユーザーが直接接するフロントステージやユーザーが見ることができないバックステージのスタッフやシステムがどの様に連携して作用するのかを視覚化できる。
サービスがユーザーに提供されるプロセスを、顧客のアクション、タッチポイント、提供現場におけるスタッフの行動、サービスの支援や運営するシステムに関わるスタッフの行動などを時系列で記述する。
カスタマージャーニーマップを作成し、それに対応するユーザーゴールが共有された後に、サービスブループリントは作成される。
1つのサービスブループリントは、特定のユーザーシナリオに対応している。空港のサービス体験の中で、荷物を預けるシナリオと、機内で過ごすシナリオ、荷物を受け取るシナリオというように、単一のサービスの中で提供するシナリオが複数存在する場合は、サービスブループリントを複数作成する必要がある。
設計した体験が実現できるか検討するときに用いる
サービスブループリントは、計画したユーザー体験を実現させるためのオペレーションやシステム設計の際に、情報を視覚化するために用いられる。サービス全体の基本設計がおおよそ固まった後に、スタッフのオペレーションやシステム設計、タッチポイントの設計が実施される。
サービスブループリントは主に2つの場面で利用される。
1点目は、カスタマージャーニーマップなどを用いて顧客体験を定義した後、その実現に向けたリソースの活用方法を検討する場面である。
2点目は、組織設計や業務プロセスを改善するために、日常業務のフローから問題点を抽出し、解決策を検討する場面である。
サービスブループリントに含まれる主な要素
表示形式は様々であるが、以下の主要素によって構成される。
ステークホルダーには、人間のスタッフとシステムの両方が含まれる。
- 顧客のアクション (customer actions)
ユーザー自身が実施する活動 - フロントステージのアクション (frontstage actions)
ユーザーの目に見えるステークホルダーの活動 - バックステージのアクション (backstage actions)
ユーザーの目に見えないステークホルダーの活動 - プロセス (processes)
上記のアクションをサポートするステークホルダーの活動。
各主要素は、境界線によってクラスターに分けられており、以下の境界線が存在する- インタラクションの境界線 (line of interaction)
ユーザーとステークホルダー間の直接的なやりとりを表現する - 可視境界線(line of visibility)
ユーザーに見える活動と見えない活動を区別する。フロントステージの内容を線より上に、バックステージの内容を線より下に表示する - 組織内のインタラクションの境界線(line of internal interaction)
ユーザーとスタッフ間のやり取りを直接的にはサポートしないスタッフを区別する
- インタラクションの境界線 (line of interaction)
例) 空港カウンターで、荷物を預ける体験
顧客のアクション(customer actions)
リサーチやカスタマージャーニーマップから導き出された、サービスの中で特定のユーザーゴールの達成に向けて実施するやり取りやステップ、選択を指す。
ユーザーゴール:乗る予定の飛行機に荷物を預け、現地で受け取りたい
アクション:空港のカウンターに行き、ボーディングパスと荷物をカウンタースタッフに渡す。到着後、荷物受け取りカウンターで自分の荷物を探して受け取る。
フロントステージのアクション(frontstage actions)
ユーザーから直接見える場面で発生する活動を指す。ユーザーと顧客窓口対応スタッフ間での人間対人間でのアクションと、ユーザーとモバイルアプリなどの間における人間対コンピュータのアクションが存在する。
バックステージのアクション(backstage actions)
ユーザーの目が届く場所での出来事をサポートするために、裏側で発生する活動を指す。バックステージのスタッフや、ユーザーの目に入らない作業に従事するフロントステージのスタッフにより実行される。
- ユーザーのボーディングパスの認証システム
- ボーディングパスと荷物をリンクするシステム
- ユーザーが預けた荷物を、ユーザーが乗る飛行機に積み込むスタッフ
プロセス(processes)
顧客、フロントステージ、バックステージのアクションをサポートするために必要とされる、組織内でのステップおよび、スタッフによるサービス提供に関するやり取りを指す。
バックステージのアクションとの違いとしては、例えば、バックステージのアクションとしてスタッフが製品の品質をチェックすることに対して、プロセスとしては品質テストの作成が挙げられる。
サービスブループリントに含まれる副次的要素
必要に応じて、以下の要素が追加される。
- 矢印: 要素間の関係、依存関係を表す。片矢印は一方向だけのやり取り、両矢印は合意の必要性や共依存関係を表す
- 時間(time): デリバリーサービスなど、時間経過がサービス体験にとって重要である場合は、ユーザーのアクションごとの見込み時間を表示する
- 規制や指針(regulations or policy): システム全体の最適化にとって変更可能なことと可能でないことを明確化させる
- 感情(emotion): ユーザーだけでなく、スタッフの感情も表現することで問題点を見つけやすくする
- 指標(metrics): 成功指標を設けて、将来的な成功に向けた現状プロセスの不足点を明確にする
サービスブループリントの利点
サービスブループリントには、以下のような利点がある。
- 顧客体験の裏側で、何が行われているか把握できる
- 顧客体験を提供する上での課題を可視化できる
- サービス改善施策のための情報源にできる
- システム全体を可視化できる
UIの欠陥の様な見えやすい課題のみならず、システム全体での依存関係を記述することで、各要素の結びつきにおける弱点を発見することができる。
また、システム全体を視覚化するため、部門単独では分からない可能性のある依存関係に関する知見が得られ、人員の配置最適化やプロセス短縮化に繋げられる。
サービスブループリントの弱点
サービスブループリントは利点ばかりではなく、弱点も存在する。
- 顧客やスタッフなど対象の体験をめぐるコンテキスト(環境・状況)が読み取りにくく考慮から欠けてしまいがちになる
- ブループリントという名称は設計図をイメージさせるため誤解を生みやすい。建築の設計図というよりフロー図に近い
利点と弱点の両面を考慮し、適切に利用することが望ましい。
UX DAYS TOKYO 2019でも紹介
サービスブループリントの実践的な資料としてA Guide to Service Blueprintingが知られている。
2019年にUX DAYS TOKYOでは、A Guide to Service Blueprintingの作者Nick Remis氏を招聘し、「サービスデザインを用いた楽しませる規模を拡大させる体験の設計について実践的に学べるワークショップ」を開催した。
関連用語
- カスタマージャーニーマップ
- サービスデザイン
- ステークホルダーマップ