メディアによる苛烈な自殺報道が大衆に影響を与え、後追い自殺の連鎖を引き起こす現象。影響を受けた相手と同じ自殺方法、自殺場所を選択する傾向が強いことが特徴である。
インターネットが普及した現在では、自殺防止のために報道内容に十分配慮するよう、メディアガイドラインが制定されている。インターネット上でも、自殺に対して前向きな検索に対し、支援先の情報がトップに表示されるようになっている。
1974年にアメリカの社会学者、David P. Phillipsが提唱した。
フィリップスは、「自殺は伝染する」という仮説を立て、1947年から67年の間で、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された著名人の自殺報道に着目し、報道から2ヶ月後の自殺率を調べた。
報道数が多いほど、自殺率が上昇するパターンを発見し、「ウェルテル効果」と名付けた。
ウェルテル効果の由来
名前の由来は、ゲーテが1774年に刊行した小説「若きウェルテルの悩み」である。
「主人公がかなわぬ恋に絶望した末に自殺する」という小説のストーリーに影響を受けた若者たちが、主人公を真似て自殺し、ヨーロッパ各地で発行禁止になるほどの社会現象となった。
ウェルテル効果は、別名「Copycat suicide(模倣自殺)」とも呼ばれる。
人や場所の報道が
自殺を引き起こす
ウェルテル効果は、人から受ける影響と、場所から受ける影響がある。
人から受ける影響
著名人の自殺や、自分と同じ悩みを抱えた一般人の自殺報道に影響を受ける。
「憧れの人と同じになりたい」「自殺は社会的に認められる」「自分の悩みは自殺で解決できる」と感じ、自殺衝動を正当化して自殺が誘発される。自殺報道が影響した実例として3名を取り上げる。
マリリン・モンロー
アメリカの女優、モデル。1962年8月5日、自宅にて大量の睡眠薬の服用により死亡した。メディアの死亡報道後に月平均自殺者が12%増加した。
岡田有希子
日本のアイドル歌手。1986年4月8日、人気絶頂のさなか投身自殺を行う。マスコミによる連日の自殺報道後、それまでは男性が行うと言われてきた投身自殺が、若い女性を中心に増加。自殺者が前年より44%増加した。
彼女の愛称から「ユッコ・シンドローム」と呼ばれる社会現象となる。
hide
日本のミュージシャン。1998年5月2日、自宅寝室のドアノブに掛けたタオルにて、首吊り状態で発見され、搬送先の病院で死亡した。告別式の報道後、ファンの後追い自殺が増加した。
同じバンドのメンバーらが、自殺を思いとどまらせるため、記者会見を開くほどの社会現象になった。
場所から受ける影響
自殺に使われた場所の報道を見ると影響を受ける。「死ぬことができる場所だ」と感じ、同じ場所で自殺を行う人が増加する。
三原山
1933年に、東京都の伊豆大島にある火山、三原山の火口で女学生の投身自殺が報道された。同年に129人が同じ方法で自殺を行っている。
新小岩駅
2011年7月12日に、東京都葛飾区にある新小岩駅のホームで、投資に失敗した女性の飛び込み自殺が報道された。今まで同駅で年に1、2件だった人身事故が、同年7月~9月だけでも5件に増加した。
メディアで自殺報道を取り扱う際には、影響を与えないように配慮する必要がある。
メディアガイドラインで
自殺を抑止する試み
メディアを適切に活用すれば、自殺を抑制することができる。自殺報道の正しい取り扱い方法を周知するべきである。
抑止の方法としてメディアガイドラインがある。
センセーショナルで苛烈な自殺報道を防ぐだけではなく、自殺対策や支援先へのアクセス方法を伝えることで、ウェルテル効果を抑止している。
1987年、オーストラリアでメディアガイドラインを導入したところ、地下鉄での自殺者が6ヵ月で80%以上減少した実績がある。
日本でも、世界保健機構(WHO)から発布された、「メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き」が厚生労働省のホームページに掲載してある。手引きには、自殺報道に対し「やるべきこと」「やってはいけないこと」がまとめられている。
参考リンク:メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き
メディアガイドラインはTVや新聞など、情報の発信側が気をつけるべき点がまとめられている。一方、インターネットの情報に対しては、技術を活用して自殺抑止をする工夫が必要である。
インターネットで
自殺を抑止する試み
さまざまな人が利用するインターネットの世界では、ガイドラインだけで規制することは難しい。代わりにウェルテル効果を抑制する方法として、死にたい気持ちを抱く者が自殺に関する情報参照を防ぐ試みがある。
例えば、検索エンジンに「死にたい」といった自殺に前向きなキーワードで検索すると、相談ダイヤルや、支援を受けるページへのリンクが目立つように表示される。
ウェルテル効果を防ぐだけでなく、立ち直るきっかけづくりを提供し、自殺抑止を試みている。
「死にたい」のように直接、自殺願望を表す言葉以外でも、抑制が必要な場合がある。例えばGoogleで「自殺への道」と検索をした場合、自殺方法を探していると判断して窓口を表示している。
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