ビジネスに利益を生み出すための事業戦略や収益構造設計(モデル化)に必要な顧客へ提案する価値と価値を届ける仕組みを視覚化させるフレームワーク。描くことで、ビジネスの有益性が一目でわかる。
起業家や経営者がビジネスモデルを具現化する、チームでビジネスモデルの共通認識を持つ、ビジネスモデルで企業の分析をするために利用できる。
スイスのビジネス理論家Alexander Osterwalderが2005年に「ビジネスモデルオントロジー」の中で提唱した。
オスターヴァルダー氏が経営するビジネスコンサルティング会社のStrategyzer社では、ビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークをテンプレートで配布したり、フレームワークを解説する書籍の出版も行っている。
中心に「価値提案」、周辺に「届ける仕組み」を描く
顧客への価値提案がビジネスモデルの中心となる。誰にどのように、何をして、どのような収支で、価値を生み出す(価値提案)のかを描くことで、価値を届ける仕組みが明確になる。
「スマートキー」をビジネスモデルキャンバスで考える
スマホで鍵の解錠が可能になる「スマートキー」のビジネスを例に説明する。
誰にどんな価値を提供するか
顧客のニーズや行動に応じてセグメント化し、どのセグメントに対して価値を提供するか決定する。「スマートキー」の顧客は、都市に住むITに精通した20〜40代の男女とした。
価値には、顧客に対して「仕事を終わらせる(Jobs To Be Done)」、「コストやリスクを減らす」、「利用しやすく、使いやすくする」ことを考える。「スマートキー」が顧客に与える価値には、遠方からの鍵解錠を可能にすること、無料で鍵を複製できることで物理的な鍵作りのコストを減らすこと、施錠忘れ時にアラームがなることで鍵の閉め忘れのリスクを減らすことなどがある。
どのように提供するか
顧客とのチャネルや関係性を明確に描くことは、価値提案がどのように届くのかを理解する上で重要である。
「スマートキー」のチャネルは、顧客のITリテラシーが高いなら、Webサイトを使用して認知と購入を促進し、スマートフォンアプリを通じてサービスを提供し、トラブルなどに対応するためのチャットボットを用意することが考えられる。
顧客と関係性を拡大・維持していくために、10日の無料体験(顧客獲得)、利用鍵数やシェアユーザー数に応じた手厚いサポート(顧客の維持)、エンタープライズ契約での安価な価格設定(対象顧客の拡大)、などのプランを検討する。
価値による対価とは何か
価値を提供することで、顧客が何に対して対価を払うのか、どのような形で払われるのか明確にする。
「スマートキー」の収益モデルは、プランに応じたアプリ利用料やドアに取り付ける鍵のレンタル料である。場合によっては、OEMで企業に販売することも考えられる。
誰と何をして提供するか
どんなリソースを使い、誰(パートナー)と何をするのかを描くことで、価値提案をどのように届けられるのか明らかにする。
「スマートキー」の主な活動は、ドアに取り付ける側の鍵(ハードウェア)と、解錠する側のスマホアプリ(ソフトウェア)の両方の開発である。取り付ける側の鍵は生産と流通も行う必要がある。
活動のために必要なリソースは、開発チームの労働力とBLE(Bluetooth Low Energy)技術のような知的財産である。
パートナーは、鍵に内蔵するマイクロチップの購入先となる企業であり、スマホアプリのためのクラウド環境を提供する企業が挙げられる。
どのようなコストがあるのか
どんなコストが生じるのかを描くことで、収益に対して利益を上げられる構造なのか確認する。
コスト構造には、開発チームの人件費、クラウド利用料、ドアに取り付ける鍵の保管費や運送料、広告費がある。
チームの共通認識を作る
共通認識は問題を解決する
うまく行かないチームは、顧客セグメントの認識に違いや営業とエンジニアの収益獲得に温度差があったりする。
ビジネスモデルの共通認識があることで、チームが衝突せずに合意形成や意志決定を行える。また、ビジネスモデルの問題を発見することができるため、チームで改善アイデアや意見を出すことができる。
共通認識を作る方法
共通認識を作るために、壁やホワイトボードに付箋を貼る。チームの誰もがビジネスモデルキャンバスに目が行き、描くことができるようにすることがポイントだ。
フリー(無料)のビジネスを分析する
フリービジネスで代表的なGoogleのビジネスモデルを分析する。Googleの検索サービスは、「無料」で獲得したユーザーの閲覧情報で、ターゲティング広告を提供し収益を得る。パートナーやリソース、広告費などのコストが少ないため、多くの利益を得られる。
サービスデザインにビジネスモデルキャンバスは不可欠
ホリスティック(全体的)に設計を行うサービスデザインでは、ビジネスモデルキャンバスは特に不可欠である。サービスデザインを各種ツールを用いて設計した上で、ビジネスとして収益が成り立つのかビジネスモデルキャンバスで確認できる。
以下のように、どのツールがビジネスモデルキャンバスのどの領域に関係するものか示すことができる。
合わせて使うと効果が高いフレームワークの紹介
ビジネスを成功させるには、ユーザーが真に必要とする価値を提案しなければならない。
価値提案を深めるために、オスターヴァルダー氏が考案した環境マップとバリュープロポジションキャンバスも合わせて使うと効果的である。
環境マップは、ビジネスモデルを取り巻く環境を可視化し、価値提案の実現性や有効性を検証できる。バリュープロポジションマップは、顧客と価値提案が一致しているかを可視化して検証できる。
関連用語
- リーンキャンバス
- 環境マップ
- Jobs To Be Done
参考サイト
- Figure 3. The business model Canvas for the smart door lock
- Strategyzer | Corporate Innovation Strategy, Tools & Training
参考文献
- Alexander OSTERWALDER “THE BUSINESS MODEL ONTOLOGY” Lausanne: University of Lausanne(2004)
- アレックス・オスターワルダー, イヴ・ピニュール「ビジネスモデル・ジェネレーション」小山 龍介(訳) 翔泳社(2012)
- マーク・スティックドーン「THIS IS SERVICE DESIGN DOING」安藤貴子,白川部君江(訳)BNN新社(2020)