プロダクト(製品)・サービスを顧客目線で考えるためのフレームワークで、「顧客に提供する価値(Value)の提案(Proposition)」という意味から「バリュープロポジション」と呼ばれる。新規事業でゼロからアイデアを考案するためにも使えるほか、既存の事業を可視化して顧客のニーズとずれがないか確認するためにも利用できる。
アメリカの企業家のAlexander Osterwalder氏によって考案された。

アレクサンダー・オステルワルダー
引用元:Wikipedia
オステルワルダー氏の経営するストラテジャイザー社によってテンプレートの配布や使い方の紹介がされている。
ストラテジャイザー社のテンプレート配布ページ
顧客にとっての価値と企業が思う価値がズレているとビジネスは失敗してしまう
顧客は自分にとって価値があると思うものだけを利用する。製品やサービスが増え、競合企業との差別化を図らなくてはならない現代では、顧客のニーズに合致した価値を提供できるかがビジネスの成功を左右する。そのため、顧客にとっての価値と企業の提供する価値にズレがないか視覚的に確認できるバリュー・プロポジション・キャンバスへの注目が高まっている。
顧客が価値を見出していることと、企業が価値だと思っていることはズレてしまっていることがある。
例えば、レストランでいうと「美味しい料理」を店主は店の価値だと思っていて、顧客は「料理が早く出てくるので手早くランチを食べられる」ことを価値だと思っている場合がある。ズレた価値の認識で、レストラン側が美味しさを高めるために提供までに時間がかかる凝ったメニューばかりにしてしまうと、顧客ニーズからズレているため顧客の足が遠のいてしまう。
顧客ニーズを可視化して顧客と企業の考える価値のずれを認識できれば、製品やサービスのアイデアを市場に受け入れられるよう改善することができる。

レストランと顧客の考える価値の違い
バリュープロポジションキャンバスの構成要素
バリュープロポジションキャンバスは、顧客のニーズを表した「顧客プロフィール」と企業が顧客のニーズに対してどんな価値を提供するかの「バリューマップ」の2つで構成されている。「顧客プロフィール」と「バリューマップ」の内容がズレていないかを一見できるように対にする。
ビジネスモデルキャンバスに当てはめて利用することもあるため、顧客プロフィールは必ず右に配置し、次に、製品・サービスの提供価値を描く「バリューマップ」を左側に配置する。
顧客のニーズを書き出す「顧客プロフィール」
顧客セグメントのニーズを表面化させたもので、可視化すると顧客がどんなことに価値を見出しているか理解しやすくなる。顧客が何を達成したいか表すジョブとコンテキスト(置かれた状況)に着目することが特徴である。
顧客プロフィールには、顧客が達成したいジョブと、達成するために発生する「ぺイン」と、手に入れることができる「ゲイン」を合わせて記載する。
ジョブは顧客が達成したいことで、Jobs To Be Doneとも呼ばれる。例えば「昼休みに食事をとって休憩する」があてはまる。
ゲインは顧客に利益をもたらすもので、ジョブを達成するときに得られる顧客にとってより良い結果や利益を書く。ゲインの例をあげると、「職場から近い」「注文してすぐ料理が出る」「食べ終わった後くつろげる」「料理が美味しい」といったより良い結果である。
ペインは顧客の抱える悩みで、ジョブを達成する時に発生する苦痛や悩みを書く。ペインの例をあげると「栄養バランスが悪い」「雰囲気が落ち着かない」「値段が高い」といった、ジョブは達成できても不満や悩みが伴うものになる。
プロダクトやサービスを使うことで得られるゲインや解決できるペインがあると、顧客に提供する価値のアイデアにつながる。
自社が提供する価値を書き出す「バリューマップ」
顧客に提供する価値で、自社の製品やサービスが顧客に対してできることを描き出す。新しいビジネスアイデアを出す際に、顧客プロフィールをみながらどんな価値を提供するか書き出すためにバリューマップが利用できるほか、既存のプロダクトやサービスで提供している価値を書き出して、顧客が見出す価値とのズレがないかを探るためにも利用できる。
製品・サービスは提供するプロダクト(製品)やサービスで、機能や顧客サポートも含まれる。例えばレストランの場合「ランチメニュー」が製品・サービスにあたる。
ゲインクリエイターは、製品やサービスを使うことで顧客の利益を増やすもので、顧客プロフィールのゲインと対応している。ランチメニューの例であれば、「食べ終わった後くつろげる」ゲインを満たすために「コーヒー・紅茶のサービス」がゲインクリエイターとして考えられる。
ペインリリーバーは、プロダクトを利用することで顧客の悩みを取り除くもので、顧客プロフィールのペインと対応している。例えばランチメニューであれば、「栄養バランスが悪い」ことがペインの顧客向けに「玄米と野菜中心のメニュー」を加えるといったペインリリーバーが考えられる。
バリュープロポジションキャンバスの作成方法
バリュープロポジションキャンバスは、顧客目線で製品とサービスのアイデアを出すツールであるため、「顧客プロフィール」から先に作成する。先に記載することで、顧客ニーズを無視したものにならなくなる。
顧客のニーズは調査を元に作成し、新たな事実がわかればその都度内容をアップデートする。内容を書き換えやすくするために、ふせんなどを活用して書き出すとよい。
1. 顧客のニーズを見える化させる
顧客のニーズを可視化したプロフィールを作成する。プロフィールには、顧客が成し遂げたいことであるジョブと、ジョブを達成する際に発生する問題や利益を記載して見える化させる。プロフィールといっても都市部に住む30代女性といったデモグラフィック要素による顧客セグメントは行わずに、”何に価値を見出している顧客なのか”に着目して書き出す。
製品で対応するかは気にせず、顧客のニーズは全て書き出すことがポイント
顧客のニーズを可視化する際のポイントは、顧客への理解を深めるために、課題や利益は全て書き出すことである。書き出した後で、サービスで対応するペイン・ゲインを取捨選択をする。企業活動には限りがあるので、全てに対応しようとしないことがバリュープロポジションキャンバスを活用するコツである。
2. サービス・プロダクトの提供価値をバリューマップに書き出す
自社が顧客に提供する価値を、悩みを解消するもの(製品・サービス、ペインリリーバー)、結果や利益をもたらすもの(ゲインクリエイター)の3つの要素で書きだす。文字だけでなく写真やスケッチなどビジュアル的な表現で記載してもよい。
3. 顧客のニーズと自社の提供する価値にズレがないか確認する
自社の価値と、顧客のニーズを可視化して見比べることで、顧客が本当に得たいもの、解消したい悩みに対して、提供する製品やサービスの価値が対応できているか確認できる。

ふせんなどで貼りつけて、位置や内容を変更しやすくすると良い
ビジネスモデルキャンバスと合わせると顧客の理解をより深められる
バリュープロポジションキャンバスに関連するフレームワークに、ビジネスモデルキャンバスがある。ビジネスモデルキャンバスの価値提案と顧客セグメントの欄にバリュープロポジションキャンバスで作成した図を当てはめることができる。組み合わせて使うと、顧客視点で製品やサービスが提供できているかと、ビジネスを成り立たせるために必要なものや障壁、収益の流れを確認できる。
ビジネスモデルキャンバスをスタートアップ・新規事業に特化させたリーンキャンバスでも同様に利用できる。
複数のユーザーがいて成立するビジネスの分析に特に便利
ひとつのビジネスモデルキャンバスだけでは、複数の顧客がいるビジネスモデルの分析を深掘りして表現しにくい。その場合、バリュープロポジションキャンバスを複数作成すると、顧客別に価値の提案を深掘りして分析しやすくできる。
例えば「ハンドメイド作品のマーケットサービス」のビジネスモデルは、作品を売りたい顧客と、作品を買いたい顧客という、2種類の顧客セグメントがいる。
顧客セグメントごとに、バリュープロポジションキャンバスを作成すれば、それぞれのニーズに合わせた価値提案を見える化できる。
関連用語
- リーンキャンバス
- Jobs To Be Done
参考文献
- アレックス・オスターワルダー(2015)、バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る
- Jim Kalback(2018)、マッピングエクスペリエンス ―カスタマージャーニー、サービスブループリント、その他ダイアグラムから価値を創る、75ページ