ビジネスに利益を生み出すための事業戦略や収益構造設計(モデル化)に必要な顧客へ提案する価値と価値を届ける仕組みを視覚化させるフレームワーク。描くことで、ビジネスの有益性が一目でわかる。
起業家や経営者がビジネスモデルを具現化する、チームでビジネスモデルの共通認識を持つ、ビジネスモデルで企業の分析をするために利用できる。

スマートキーを例にしたビジネスモデルキャンバス
スイスのビジネス理論家Alexander Osterwalderが2005年に「ビジネスモデルオントロジー」の中で提唱した。

アレクサンダー オスターヴァルダー
引用元:Wikipedia
オスターヴァルダー氏が経営するビジネスコンサルティング会社のStrategyzer社では、ビジネスモデルキャンバスなどのフレームワークをテンプレートで配布したり、フレームワークを解説する書籍の出版も行っている。
中心に「価値提案」、周辺に「届ける仕組み」を描く
顧客への価値提案がビジネスモデルの中心となる。誰にどのように(顧客接点)、何をして(インフラ)、どのような収支(財務)で価値を生み出す(価値提案)のかを描くことで、価値を届ける仕組みが明確になる。
「スマートキー」のビジネスを例に説明
スマホで鍵の解錠が可能になる「スマートキー」のビジネスを例に説明する。

スマートフォンで鍵を操作するスマートキー
価値を生み出す(価値提案)
顧客へ価値を生み出す(価値提案)には、「顧客の仕事を終わらせる(Jobs To Be Done)」、「コストやリスクを減らす」、「利用しやすく、使いやすくする」ことが考えられる
「スマートキー」が顧客に与える価値には、「遠方からの鍵解錠を可能」にする、「無料で鍵を複製できる」ことで物理的に鍵を作るコストを減らす、「施錠忘れ時にアラームがなる」ことで鍵の閉め忘れのリスクを減らす、などがある。
誰にどのように(顧客接点)
具体的な顧客(顧客セグメント)と顧客との関係性やチャネルを描くことで、価値提案がどのように届くのか明確になる。
顧客セグメント(誰に)・顧客との関係性・チャネル(どのように)
「スマートキー」の対象は、大都市に住むITに精通する20〜40代の男女になる。顧客の関係は、10日の無料体験(顧客獲得)、利用鍵数やシェアユーザー数に応じた手厚いサポート(顧客の維持)、エンタープライズ契約での安価な価格設定(対象顧客の拡大)、などのプランで関係性を築く。
接点であるチャネルは、顧客のITリテラシーが高いことから、Webサイト(認知・購入)で認知させ、スマホアプリでサービス提供し、トラブルなどにも対応できるチャットボット(カスタマーサポート)を用意する。
何をして(インフラ)
どんなリソースを使い、何を活動するのかを描くことで、価値提案をどのように届けられるのか明確になる。
主な活動・リソース・パートナー
「スマートキー」の主な活動は、ドアに取り付ける側の鍵(ハードウェア)と、解錠する側のスマホアプリ(ソフトウェア)の両方の開発である。取り付ける側の鍵は生産と流通も行う。
活動のために必要なリソースは、開発チームの労働力とBLE(Bluetooth Low Energy)技術のような知的財産である。
パートナーは、鍵に内蔵するマイクロチップの購入先となる企業であり、スマホアプリのためのクラウド環境を提供する企業である。
どのような収支(財務)
顧客接点でどのように収益を得られるのか、インフラでどんなコストが生じるのかを描くことで、収支が説明できる。
収益モデル・コスト構造
「スマートキー」の収益モデルは、プランに応じたアプリ利用料やドアに取り付ける鍵のレンタル料である。場合によっては、OEMで企業に販売することも考えられる。
コスト構造には、開発チームの人件費、クラウド利用料、ドアに取り付ける鍵の保管費や運送料、広告費がある。
チームの共通認識を作る
共通認識は問題を解決する
うまく行かないチームは、顧客セグメントの認識に違いや営業とエンジニアの収益獲得に温度差があったりする。
ビジネスモデルの共通認識があることで、チームが衝突せずに合意形成や意志決定を行える。また、ビジネスモデルの問題を発見することができるため、チームで改善アイデアや意見を出すことができる。
共通認識を作る方法
共通認識を作るために、壁やホワイトボードに付箋を貼る。チームの誰もがビジネスモデルキャンバスに目が行き、描くことができるようにすることがポイントだ。

チームでビジネスモデルキャンバスを作るイメージ
フリー(無料)のビジネスを分析する
フリービジネスで代表的なGoogleのビジネスモデルを分析する。Googleの検索サービスは、「無料」で獲得したユーザーの閲覧情報で、ターゲティング広告を提供し収益を得る。パートナーやリソース、広告費などのコストが少ないため、多くの利益を得られる。

Google検索サービスのビジネスモデル
合わせて使うと効果が高いフレームワークの紹介
ビジネスを成功させるには、ユーザーが真に必要とする価値を提案しなければならない。
価値提案を深めるために、オスターヴァルダー氏が考案した環境マップとバリュープロポジションキャンバスも合わせて使うと効果的である。
環境マップは、ビジネスモデルを取り巻く環境を可視化し、価値提案の実現性や有効性を検証できる。バリュープロポジションマップは、顧客と価値提案が一致しているかを可視化して検証できる。

オスターヴァルダー氏が考案した3つのフレームワークの関係性
関連用語
- リーンキャンバス
- バリュープロポジションキャンバス
- 環境マップ
- Jobs To Be Done
参考サイト
- Figure 3. The business model Canvas for the smart door lock
- Strategyzer | Corporate Innovation Strategy, Tools & Training
参考文献
- Alexander OSTERWALDER “THE BUSINESS MODEL ONTOLOGY” Lausanne: University of Lausanne(2004)
- アレックス・オスターワルダー, イヴ・ピニュール「ビジネスモデル・ジェネレーション」小山 龍介(訳) 翔泳社(2012)