TOP UX用語 心理学・行動経済学・脳科学 アーキテクチャ

アーキテクチャ Architecture

人間の行動を物理的に制限・強制するもの

元々は建築様式や工法・構造などを表す言葉で、IT分野では、システムの基本設計や共通仕様・設計思想を指し「システム・アーキテクチャ・インフォメーション・アーキテクチャ」の様に使われる。

行動経済学の分野では、人の行動を物理的に制限するものを指す。
例えば、盗難防止やプライバシーを守るためにドアに鍵をかけて他人が入れなくすることである。システムでは、不正ログインを防ぐことがアーキテクチャにあたる。アーキテクチャの中には、人為的なものに限らず、雨で野球ができなくなることや、渋滞で先に進めなくなるような天気や社会現象の制約も含まれる。

サイバー法の専門家Lawrence Lessigローレンス・レッシグ氏が自著「Code and Other Laws of Cyberspace」で、社会に大きな影響を与える4つの主な規制要因として、法律、規範、市場、アーキテクチャを論じた。

肖像ローレンスレッシグ

Lawrence Lessig
引用元:Wikipedia

アーキテクチャで社会問題を改善

ゴミの分別・食料廃棄などの環境問題、肥満・喫煙などの健康を害する社会問題は、法律や条例で規制するのが難しい。個人の自由を制限し生活に負担を強いるからだ。

法律や罰則で制限しないアーキテクチャを見直すことで、食料廃棄問題が改善された例を紹介する。

コンビニ棚のアーキテクチャ

コンビニやスーパーでは棚の奥の新しい商品から手に取られやすく、手前の商品が残りがちで、結果的に賞味期限切れで捨てられることがある。奥の商品の手前に板でしきりをいれることで、取りにくくなり、手前の商品が売れて廃棄量が削減できる。

おにぎりの棚に仕切りが入っている

しきりを入れて新しい商品を取れにくくすると手前の商品が売れて廃棄量が削減できる

アーキテクチャの規制レベル

情報法の研究者Ryan Caloライアン・カロ氏は、アーキテクチャの規制レベルを「コード・ナッジ・告知」の3段階を定義した。
欧米で実施された、糖分の過剰摂取を防ぐ規制事例を元に3段階のレベルを説明する。

レベル強:サイズを小さくする【コード】

規制レベルが強い「コード」は、ジュースのサイズを小さくすることで大量摂取できなくする。

大きいサイズから小さいサイズの缶へ

小さい容器にすれば糖分摂取量が減る

レベル中:通常サイズも選べるが、小さいサイズに誘導する【ナッジ】

規制レベルが中の「ナッジ」は、自由選択できるが、特定の選択になるよう誘導する。
通常サイズの販売もしつつ、小さいサイズをお得な価格で販売して、購入したくなるようにする。

大きい缶で高い、小さい缶で安い

サイズは選べるが、小さいサイズをお得にして糖分摂取を控えさせる

レベル弱:情報提供で自主規制を促す【告知】

規制レベルが弱の「告知」は、意思決定に必要な情報提供で自主規制を促す。
糖分過剰摂取が健康に良くないことがわかるように、パッケージに注意事項を記載する。

容器サイズはそのままで、注意喚起による自主規制を促す

自由を脅かしうるサイバー空間のアーキテクチャ

レッシグ氏は、インターネットなどのサイバー空間のアーキテクチャは「自由を脅かしうる」と警告している。
どんなアーキテクチャも、犯罪抑止や社会問題の改善など良い目的に使われたとしても、市民にとっては不当と思うことがある。その場合には内容を是正するよう抗議できるが、サイバー空間のアーキテクチャは、ユーザーが認識しづらいために不利益を被る危険性がある。

プライバシーの漏洩に気づけない写真共有アプリの例

特定の友人とスマホ内の写真をシェアするアプリケーションの事例がある。
シェア範囲の設定内容がわかりづらかったため、連絡先を知る全ての人に写真が共有された。ユーザーはしばらくの間、プライバシーが侵害されていたことに気づかず問題になった。

親しい友人以外から閲覧されている

共有設定がわかりづらく、知られたくない人にも写真を共有してしまった

ユーザーにわからない形でWebの閲覧履歴が盗み取られる例

Webサイトが発行するクッキー(Cokkie)を使ってWebの閲覧履歴を盗み取る問題もある。
クッキーの本来の使い方は、ログイン情報をファイルに記録しておき再ログインの手間をなくすなどユーザーの利便性を上げることである。しかし、Web広告がユーザーの閲覧情報を盗みクッキーに保存し、広告に活用することが広まった。

閲覧中のサイト以外が発行するクッキーをサードパーティークッキーと呼び、不当にユーザーの個人情報を利用することが問題になっている。

求人広告が閲覧サイトに表示されている

サードパーティークッキーを使って、過去に見た求人サイトに関する広告を表示している例

Google社やApple社は、サードパーティークッキーの利用を規制する発表をしている。
最近では閲覧しているWebサイトが発行するファーストパーティークッキーであっても、利用の同意を求めるUIが増えている。

クッキー利用の同意を求めるポップアップ

クッキー利用の同意を得るUI
引用元:Web制作会社 フリースタイルエンターテイメント

同意があれば良いわけではない

ユーザー情報を利用する場合、利用目的や範囲を明確にしてユーザーの同意を得るべきである。アプリケーションによっては、同意を得るだけで何がどう使われるのか不明確なものも多い。同意があれば良いわけでもなく、ユーザーが安心して使えるようなシステム設計を心がける必要がある。

利用意図を書かずに写真へのアクセスを求めるアプリ

安易に許可するとプライベートなファイルを外部に公開してしまう可能性もある
引用元:「Androidアプリの権限とは?」安易な許可は危ない。ポップアップのここだけは確認しよう!

参考サイト

参考書籍

関連用語

  • セレンディピティ

ナッジ

BtoB人事業務アプリのコンサルタント→エンジニア→BtoCのWebディレクターを経て、再度BtoB業務アプリとなる物流プラットフォームのUIUXに挑戦。オンライン/オフライン双方でのBtoBUXを改善すべく奮闘中。

「UX用語」のカテゴリー