ナッジ
Nudge

控えめな合図や注意を使って、選択などの行動の傾向を設計すること

注意や合図のために、人をひじで軽く突くことを意味する英単語nudgeナッジに由来する。他人に注意を喚起させたり、気づかせたり、控えめに警告することで、相手にほとんど意識されることなく行動の傾向を変えることをいう。

2008年にアメリカの行動経済学者のRichard Thalerリチャード・セイラーCass Sunsteinキャス・サンスティーンの著書「実践 行動経済学 (原著タイトル: Nudge: Improving Decisions about Health, Wealth, and Happiness)」により広く知られるようになった。

リチャード・セイラーは、行動経済学に関する功績によって2017年にノーベル経済学賞を受賞した。

リチャード・セイラー
(引用元: https://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Thaler)

自由に選択行動できる状態での誘導

人は意思決定を行う時、自分の意思で自由に決定していると思っているが、提示されている選択肢の構造によっては特定の選択肢を選んでしまう傾向がある。
ナッジは、人の意思決定に影響を及ぼすように作られた選択肢の提示の仕方のひとつで、活用することで、禁止や命令、経済的なインセンティブを与えることなく、人の行動を予測どおりに変化させることができる。

例えば、学食の運営者が学生に健康的な食事を食べてもらいたいとすると、果物や野菜を目に入りやすい高さに置くことで無意識のうちに選ばれるように誘導することがナッジであり、ジャンクフードを禁止するのはナッジではない。自由に選択できる状態を損なわないことがナッジでは重要である。

ナッジの利用事例

男子トイレに狙いを定めさせたデザイン

ナッジの有名な成功事例がオランダのスキポール空港の男子トイレである。床の清掃費が高くついていた男子トイレの便器の内側に、一匹のハエの絵を書いたところ、床を汚す利用者が減り清掃費は8割減少した。
「人は的があると、そこに狙いを定める」という行動分析に基づいて、トイレの適切な利用方法を促した。

難しい意思決定を後押しする、デフォルトやおすすめプラン

デフォルトプランやおすすめプランは、「家を買う」「保険や投資商品を契約する」といった、難しい意思決定を後押ししてくれるナッジである。

次のような特徴を持つ意思決定の場面で、特にナッジが役に立つ。

  • 稀にしか起こらない
  • 判断が難しい
  • 選択した結果のフィードバックがすぐに得られない
  • 選択対象の説明を簡単に理解できる言葉に置き換えるのが難しい
  • 選択によって最終的に何が得られるか、よく分からない選択肢がたくさんある

デフォルトの選択肢は強力なナッジになる

デフォルトの選択肢には、損失回避性現状維持バイアスという2つのバイアスが関係している。このバイアスによって、すでに選択されている要素を変更しない傾向が生まれ、デフォルトの選択肢は無意識に選択されるナッジとして作用する。

損失回避性

何かを手放さなければならなくなったときの痛みは、まったく同じものを手に入れたときの喜びよりも大きく感じる傾向。変化を起こすことが非常に大きな利益になる場合でさえ、変化を起こさないような圧力になる。
関連:プロスペクト理論

現状維持バイアス

現在の状況に固執してしまう傾向。利害がはるかに大きいときでさえ現状維持バイアスがかかることがあり、様々な問題が生じかねない。

損失回避性と現状維持バイアスが組み合わせられると、選択肢の内容によらずデフォルトとして指定されたものは、大きな市場シェアを集める可能性が高くなる。

選択肢を設計する際は、何がデフォルトの選択肢になるのかを意識することが大切である。デフォルトの選択肢を意識せずに作成してしまった場合、意図せず良くない結果に誘導してしまう可能性があることを考慮する。

デフォルトによってドナー登録率が変化した例

デフォルトの選択肢によって、臓器移植の同意率に大きな変化があることが、2003年にヨーロッパの各国を対象に行われた調査によって明らかになった。
グラフでの各国比較は以下で、臓器移植の同意率が低い国のグループと、臓器移植の同意率が高い国のグループにはっきりと分かれていた。

(翻訳出典: Do Defaults Save Lives?)

同意率が低い国のグループでは、デフォルトの選択肢では何も選択されていないオプトイン方式で臓器移植同意の質問がされていた。一方で、同意率が高い国のグループでは、デフォルト状態が臓器移植同意となっていて選択によって拒否ができるオプトアウト方式で質問がされていた。

オプトイン・オプトアウト方式の例

ちなみに、日本の臓器提供の同意率は2017年時点で12.7%である。日本の臓器提供同意の選択方法も、オプトイン方式であるため、デフォルトの選択肢をオプトアウト方式に変えることで同意率は増加すると予想できる。

日本のドナーカード
(出典: 日本臓器移植ネットワーク)

良い選択に導くナッジを設計するには

書籍『実践 行動経済学』では、良い選択肢構造(選択アーキテクチャ)にするための6つの基本原則を、ナッジのスペルになぞらえてNUDGESとして提唱している。
この原則に基づき、直感的に理解しやすくすることで、人々を良い選択に導くことができる。

良い選択肢構造の6つの基本原則

N: インセンティブ(iNcentives)
利用する人、選択する人、コストを払う人、利益を得る人を考える

U: マッピングの理解(Understanding mappings)
マッピング(選択と結果の対応関係)を理解する

D: デフォルト(Defaults)
良い選択がデフォルトとなるようにする

G: フィードバックを与える(Give feedback)
選択したものが及ぼす結果に対して適時、適切なフィードバックを与える

E: エラーの予期(Expect error)
エラーが起こる前提で、エラーを防止・検知し、最小化する

S: 複雑な選択の体系化(Structure complex choices)
複雑な選択を体系化して、良い選択をする難しさを減らす

関連する認知バイアス用語

ナッジの仕組みには、認知バイアスが関連していることが多い。認知バイアスの知識を増やすことで、意図した選択肢以外にナッジされていないか確認できる。

この記事を書いた人:イケダマリカ

千葉大学・大学院でプロダクト・サービスデザインを学び、現在はメンバー5名の小さなスタートアップで1人デザイナーとして調査、UX設計、UIデザインとフロントエンド実装をやっています。UXも技術も日々勉強中!趣味は片付け、インテリア小物とゲームです。