現状維持バイアス
Status Quo Bias

現状を基準とし、変化を受け入れず固執する心理傾向

たとえ有益であったとしても、知らないものや経験したことのないものを受け入れることに心理的な抵抗が生じ、現在の状況に固執してしまう傾向(バイアス)。
人が意思決定をするときに強い影響力を持つ心理傾向であり、現状から未知の状態に変化することを「安定した現状が無くなってしまう損失」と認識する心理が影響している。

Richard Zeckhauserリチャード・ゼックハウザー氏とWilliam O. Samuelsonウィリアム・サミュエルソン氏が1988年にStatus quo bias in decision-making(意思決定における現状維持バイアス)という論文で提唱した。

リチャード・ゼックハウザー
(画像引用元: Wikipedia)

現状維持バイアスに陥る背景

現状を維持したいと思う傾向には複数の心理作用が影響している。

損失を回避したい傾向

利益と損失が全く同じでも損失の方が大きく感じるというプロスペクト理論によると、リスクを負ってでも損失を回避したいと考える傾向がある。

未知の変化に対しては、ポジティブな情報よりもネガティブな情報を重要視するネガティブ・バイアスが働き、必要以上にリスクを強く感じてしまう。

すでに手に入れた物の価値を高く感じ、手放すことに心理的な抵抗が生まれる「保有効果」も、現状を変化させたくないという現状維持バイアスに影響を与えている。

デフォルトから変更しない傾向

デフォルト(既定)の選択肢が与えられると、変更できるにも関わらずデフォルトの選択肢を受け入れ、変更しない傾向がある。

2003年、ヨーロッパ各国を対象に行われた調査によると、ドナーカードの表記内容によって臓器移植の同意率が変化することが明らかになった。
調査の結果、同意率が高い国と低い国に分かれた。その違いはデフォルトの選択肢が「同意する」になっているかどうかであった。
デフォルトの選択肢が「同意しない」のオプトイン方式の国は同意率が平均して15%ほどと低い一方で、デフォルトが「同意する」のオプトアウト方式の国は、同意率が平均して90%以上だった。

オプトイン・オプトアウト方式の例

(翻訳出典: Do Defaults Save Lives?)

参考:ナッジ

慣れ親しんだものを好む傾向

人は、経験していない事・よく知らない事・不確実なことに不安を感じる。

現状維持バイアスが働く身近な例では、レストランでよく知らないメニューが多い時、以前食べて美味しかったものを選んでしまう傾向がある。

慣れ親しんだものを好む傾向に関連する心理作用に、「繰り返し接すると好意度や印象が高まる」という効果の単純接触効果がある。

現状維持バイアスは誰でも陥る可能性がある

現状維持バイアスは、人間の進化に必要な要素として備わっている潜在的な心理傾向である。現状が安心安全であるとわかっているときに、未知の選択をすることで命を落とすといったリスクを回避するのは、「種の存続」という観点においては合理的な選択である。

命に関わるリスクが少なくなった現代では、現状を維持することよりも、未知の選択をすることで状況を改善できる場面も多い。

ビジネスで用いられる茹でガエルという寓話があり、「カエルはいきなり熱湯に入れられるとすぐに逃げ出すが、水に入った状態でゆっくり温度を上げていくと、いつの間にか出られない温度になって茹で上がってしまう」と言う内容である。この寓話ではビジネスにおける「環境の変化に対応して、現状を変化させることの大切さ・難しさ」を伝えている。まさに、現状維持バイアスの警鐘である。

現状維持バイアスを回避するには自覚することが重要

現状維持バイアスを回避するためには、自分が現状維持バイアスに陥ってしまっていることを自覚することが重要である。

ダイエットを例に、自覚するための考え方をいくつか紹介する。

現状維持バイアスがあることを知る

現状維持バイアスという心理作用が人間にあると知ることが、自覚のための一歩となる。

ダイエットでの例:

「根拠なく、運動を全然しない今の生活を続けていても大丈夫と思っていたけど、この状態って現状維持バイアスがかかっているかもしれない」と気づく。

数字やデータ、第三者の力を借りて自分を客観視する

自分の状況を客観視することで、現状から変化しないと不利益が生じることを認識できる。現状をバイアスで歪めずに見るためには数字やデータが助けになり、時には第三者にアドバイスを求めることも有効である。

ダイエットでの例:

健康診断の結果の数値を見る。全身を写真に撮って見る。友人に、太ったかどうか正直な印象を教えてもらう。

現状を変えた場合の最も悪い結果を具体的にシミュレーションする

現状維持バイアスに陥る要因の一つは、現状から変化を起こした場合のリスクを必要以上に感じることである。変化を起こした時に起こりうる最も悪い結果を具体的に洗い出し、リスクを明確にすれば、リスクを回避するための対策を考えることができる。漠然としたリスクを感じている時は不安を感じて行動できないが、対策を立てることで現状を変えるための行動に取り組みやすくなる。

ダイエットでの例:

「ジムでお金をたくさん使っても、続けられず挫折してしまうかもしれない。」

→ いきなりお金をたくさんかけずに、簡単に取り組めそうなダイエット方法の本を1冊だけ買ってみる。三日坊主にならないように毎日家族に報告する。

小さなことから取り組んでみる

現状を変化させるには行動が必要になる。行動のための計画を練り過ぎるとリスクばかりに目がいってしまい計画を実行できない恐れがある。簡単にできそうなことから取り組むことで、徐々に現状を変化させることができる。

ダイエットでの例:

「まず家で毎日腹筋を5回だけやってみよう」

関連用語

参考サイト

この記事を書いた人:イケダマリカ

千葉大学・大学院でプロダクト・サービスデザインを学び、現在はメンバー5名の小さなスタートアップで1人デザイナーとして調査、UX設計、UIデザインとフロントエンド実装をやっています。UXも技術も日々勉強中!趣味は片付け、インテリア小物とゲームです。