他と比較検討しづらい「閉じる」行動は、選択した行為への満足度を高める。この効果を選択肢の閉鎖という。
例えば、料理の種類が多いレストランで注文した後に、メニューを閉じれば自分の注文した料理に対する満足度が上がる。
「閉じる行動」は他にも「ドアを閉める」「フタをする」といった行動があげられる。
パリの経営大学院HEC Parisのマーケティング准教授であるYangjie GuとロンドンビジネススクールのDavid Faro、Simona Bottiが、論文「Turning the Page:The impact of choice closure on satisfaction(ページをめくる:満足度に対する選択肢の閉鎖の影響)」で選択肢の閉鎖を発表した。
選択肢が多いほど「選択肢の閉鎖」の効果が高くなる
イギリスの大学生159人に対して、いくつかのチョコレートから好みを一つ選んでもらい、自分の選択に対する満足度を調査した。
6種類からチョコレートを選ぶ場合と、24種類から選ぶ場合のそれぞれで、選んだ後にチョコレートにフタをする・しないの計4パターンの実験を行った。
6種類からの選択は、フタをするかどうかで満足度に差がみられなかった。4倍の24種類からの選択は、フタをすると満足度が高くなり、フタをしないと満足度が下がった。
この結果から、選択肢が多くなると「閉じる行動」で選択の満足度を高められ、閉じなければ選択に不満を感じることがわかった。
比較しなければ「選択」への満足度が上がる
閉じることで他の選択肢が見えなくなることから、「比較して再検討しなければ満足度が上がる」という仮説をたてた。
24種類のお茶のメニューから好みの物を一つ選んでもらった後で、選んだものに間違いがなかったか5分間再検討してもらう実験を行った。
「選択するだけ」、「他と比較して再検討」、「比較しないで再検討」の3つのパターンで、メニューを「閉じる・閉じない」の満足度を比較する実験を行った。
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- 選択するだけ
普通にお茶を選択するだけ - 他と比較して再検討
選ばなかったお茶と比較し、選んだものに間違いがなかったか5分間再検討する - 他と比較しないで再検討
選ばなかったお茶と比較せずに選んだお茶に意識を集中して、選んだものに間違いがなかったか5分間再検討する
- 選択するだけ
チョコレートの実験同様にお茶の実験も、選ぶだけのパターンは、メニューを「閉じる」ことで満足度が高くなった。
再検討するパターンでは、比較する方が満足度が下がり、比較しない場合は満足度が上がった。どちらのパターンも、メニューを「閉じる」場合と「閉じない」場合で結果は変わらなかった。
つまり、選ばなかった選択肢と比較しなければ、自分の選択に対する満足度が上がることがわかった。
選択後、自ら「閉じる」ことで無意識に満足できる
他にも、「第三者にメニューを閉じてもらう」実験も行ったが、満足度は上がらなかった。
単に他の選択肢が見えなければ良いわけではなく、選択した後、自ら閉じる行動を行うことで満足できることがわかった。
選択肢の閉鎖は、「閉じることで比較しなくなる」、「比較しなければ満足できる」という自らの経験を無意識に関連付けして起こる現象である。
行動や経験が感情に影響を与える効果を「認知の足場」と言い、怒りの感情を書いた手紙を封筒にしまうだけで感情が治まる現象がある。
顧客に閉じてもらうことで満足度を高められる
多くの顧客を満足させるため多種多様な商品を用意することがある。しかし種類が多いほど、選択後に何度も再考したくなるため満足度が下がる。
レストランのメニューでは、1ページで作るよりもブックタイプにすることで選択肢の閉鎖を利用することができる。選んだ後に「閉じる」ことができ、顧客を満足させることができる。
ブックタイプでも、選択後に迷いがあれば顧客がメニューを閉じないこともある。しかし、ウェイターがメニューを閉じることを強制してはいけない。選択肢の閉鎖を利用するには顧客自らが閉じるような工夫が必要になる。
関連用語
- 認知の足場
- 選択肢の制限
参考サイト
- Choice Closure – Coglode
- “Choice Closure”: An Intervention to Increase Customer’s Satisfaction after a Purchase
参考文献
- Yangjie Gu,David Faro,Simona Botti「Turning the Page: The Impact of Choice Closure on Satisfaction」