人が効率よく物事を覚えるために意味がわかる情報のかたまりや単位をチャンクと言う。提唱者George A. Miller氏は、1956年に出版した著書「魔法の数7、プラスまたはマイナス2:私たちの情報処理能力の限界」で、人が短い時間で記憶する(短期記憶:約15秒~30秒)の中で一度に覚えられる限界数があると紹介している。この書籍のタイトルである「マジカルナンバー7」という言葉が有名になった。
のちの2001年に、ミズーリ大学の心理学教授Nelson Cowan氏が研究を重ね、短期記憶の限界数は約7±2ではなく約4±1であると新たに、マジカルナンバー4を提唱した。
ミラーの法則 マジカルナンバー7±2
記憶には個人の知識差があるため、マジカルナンバー7は、短期記憶の限界数という意味だけではない。単純な文字量ではなく、意味のある言葉の単位というのが特徴だ。
「mouse」という単語は、同じ文字数の数字を羅列しただけの「32450」よりも多くの情報を含んでいる。英単語の「mouse」は「ねずみ」「臆病者」「(コンピュータの)マウス」の意味を持つ。意味のある文字列(単語)であればストレスなく覚えられる。
例えば、FBICIAUSAという文字列は、単語の意味を知っている文化圏の人であれば、3チャンクに分けることができる。アメリカの政府機関「FBI」「CIA」とアメリカの略称「USA」だ。この「FBI」「CIA」「USA」というかたまりがチャンクである。
(出展:Core verbal working-memory capacity / Legend of magical number7)
ネルソン・コーワン氏のマジカルナンバー4
「マジカルナンバー4」を提唱したコーワン氏は、単語の数と短期記憶(ショート・タームメモリー)の容量の限界に着目した。
被験者に単語(シングルトン)と複数単語(ペア)のリストを渡し、覚えられるまで繰り返し、どれだけ覚えているかの実験をおこなった。結果は、単語(シングルトン)を思い出した数は複数単語(ペア)より多かったが、単語の前に「the」を挟み単語同士の繋がりを阻害した場合は、単語(シングルトン)、数単語(ペア)ともに3チャンクが限界だった。
日常の生活の中にも多くのタスクが存在している。例えば、アイデアの保持、計算、スケジュールなどである。そのため、日常のタスクと何らかを記憶する場合は、「マジカルナンバー4」の方が短期記憶の容量の限界数として実用的であるとされている。
ネルソンコーワン氏の短期記憶の実験方法
チャンクは物事を覚えやすくする工夫
日常、気づかないうちにチャンクを目にする機会は多い。例をあげると、電話番号やキャッシュカード、確認コードだ。文字列を意味のある情報のかたまりに分けると、作業中に記憶するストレスが減る。
電話番号
例えば、飲食店を予約したとする。予約の当日に、店までの道順を地図アプリで確認しながら歩いている時、予約メールに記載されたお店の番号を探し一度に記憶して、電話するのは難しい。
しかし、0663758795Xという電話番号を(066)3758 795X と3チャンクに分けたとしよう。「066」は市外局番、「3758」は地域の番号、「795X」は個別番号だ。地元のお店なら最後の4桁だけ覚えればいいので、記憶するのが簡単になる。
キャッシュカード / クレジットカード
銀行のキャッシュカードやクレジッットカードに記載される番号もチャンクである。多くは「①銀行番号」「②支店番号」「③口座番号」だ。
ECサイトに、クレジット番号を入力するときにカード番号がチャンクに分かれていると、入力するためにカードとサイトを繰り返し確認する回数が少なくなる。
サイトから送られてくる確認コード
安全性を保つために、コードを入力する時間を設定していることが多い。確認コードの有効時間が数十秒で切れて使用できなくなる時にもチャンクを意識すると、簡単に記憶できる。例えば、Yahoo!は4桁、Googleは6桁の確認コードが送られてくる。どちらも送付されたあと、有効時間内にサイトに入力する必要がある。
参考文献
- UX TIMES -短期記憶に関するミラーの法則
- UX TIMES ,2017人の記憶の仕組み:UXデザイナーへのヒント
- Cowan,2000 The magical number 4 in short-term memory
- ‘ s personal copy What ’ s magic about magic numbers ? Chunking and data compression in short-term memory
- George Miller’s Magical Number of Immediate Memory in Retrospect: Observations on the Faltering Progression of Science
- The Magical Mystery Four: How is Working Memory Capacity Limited, and Why?