エンダウドとは「与えられた」、プログレスは「進捗」という意味である。進捗が何もない状態よりも、初めに進捗を与えると目標に到達したくなる、「誘い水」のような心理効果である。例としてスタンプカードがある。スタンプのついたカードをもらうと、まっさらなカードよりも、最後まで集めようとする傾向が高まる。

スタンプカードのイメージ
一度始めると途中で止めたくない心理や、ゴール達成が目に見える形で近づくと、モチベーションが高まる心理傾向があるとされる。
USCマーシャル経営大学院のJoseph C. NunesとUCLAアンダーソン経営大学院のXavier Drezeが、2006年に発表した論文 ”The Endowed Progress Effect: How Artificial Advancement Increases Effort” で、エンダウドプログレス効果を明らかにした。

ジョセフ・C・ヌネス(左)とザビエル・ドレーズ(右)
引用元:Joseph Nunes | USC Marshall
引用元:Keeping the Luxury Market Profitable – Xavier Drèze
ゴールまでの距離が同じでも効果がある
エンダウドプログレス効果はゴールまでの距離が同じだとしても効果を発揮する。論文 ”The Endowed Progress Effect: How Artificial Advancement Increases Effort”では、ポイントカードを使った実験が紹介されている。
実験では洗車場に来店した利用客300人のうち、半数には「8個のスタンプを貯めるカード」を配布し、残りの半数には「10個のスタンプを貯めるカードで、予め2個のスタンプが押されているもの」を配布した。どちらのカードも1回の洗車でスタンプが1個押され、あと8個スタンプが貯まれば洗車を1回無料とした。

実験で使用されたポイントカードのイメージ
実験の結果、スタンプが予め押されているカードを持つ客の方が、最後までスタンプを貯める割合が高かった。ゴールまでの距離が同じでもエンダウドプログレス効果が働くことが証明された。

予めポイントが付与されていると達成率が高まる
内容が同じでも、見せ方や表現で印象や意思決定が変わる フレーミング効果 が起きていると考えられる。
目標を達成しようとする要因
エンダウドプログレス効果が目標達成のモチベーションを高める要因として、目標達成が目に見える形で近づくと、モチベーションが高まる心理と、手に入れたものを無駄にしたくない心理が働くと考えられる。
目標達成が近くなるほどモチベーションが高まる心理
洗車場のスタンプカードのように、目標が近づくことが目に見えて感じて、やる気が高まることを目標勾配効果という。目標勾配効果によって、少しでも進歩を感じるとモチベーションが上がり、目標達成に近づくほどモチベーションは高まっていく。
効果を発揮するには、視覚的に進捗を感じることが必要である。行動や購入(コンバージョン)を、ポイントやスタンプなどに置き換えると進捗を感じやすくなる。
手に入れたものを無駄にしたくない心理
もらったポイントやスタンプでも、保有効果により、ポイントやスタンプを無駄にしたくないという損失回避が働く。
ゴールとの距離は適度に離しておく
ゴールに近いほど、自分の力で目標を達成したい気持ちが高まる。しかし、外部から進捗を与え過ぎると、目標達成へのモチベーションを下げてしまう。ゴールまでの距離が近すぎても遠すぎてもいけない。進捗の手助けは、10~25%を目安で付与するのが効果的である。

進捗の手助けの目安
学習アプリでの活用例
言語学習アプリ「Duolingo」では、エンダウドプログレス効果を用いて学習意欲を高めている。
学習を習慣化させるために、アプリから1日1回、5問程度の問題を解くよう促される。問題画面上部にプログレスバーが存在し、まだ1問も解いていないのにプログレスバーが進んでいる。プログレスバーにより視覚的に進捗を見せ、進捗を無駄にしたくない心理を利用することで問題を解くモチベーションを高めている。

まだ問題に答えていない状態でもプログレスバーが進行している
引用元:Duolingo
関連用語
- 目標勾配効果
- 損失回避性
参考文献
- Joseph Nunes,Xavier Dreze, “The Endowed Progress Effect: How Artificial Advancement Increases Effort”, Journal of Consumer Research, Vol. 32, March 2006