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MAYA段階 MAYA principle

先進性と馴染み感の両立を超えた領域が、人は最も魅力的に感じるというデザイン理論

人はよく知らないものに対し反発する一方、新しいものに惹きつけられ受け入れる性質をもつ。魅力的で先進的な領域をMAYA段階という。

MAYAとは「Most Advanced Yet Acceptable(先進的ではあるが、なんとか受け入れられる)」の頭文字を取ったもので、「先進性と馴染み感のバランス」の段階を越えることで魅力的なデザインにつながるというデザイン理論である。MAYA段階は、時間経過・時代と共に変わってくる。

MAYA段階イメージ

魅力的で先進的な領域がMAYA段階となる

1940年頃「インダストリアルデザインの父」と呼ばれたRaymond Loewyレイモンド・ローウィが、自身の経験則からユーザーが受け入れられる「新しさ(独自性)」と「恐れ」の臨界点で、ユーザーの感じる魅力が最大に高まる傾向があることを見出し提唱した。

レイモンド・ローウィ

レイモンド・ローウィ氏
(引用:レイモンド・ローウィ公式サイト

MAYA段階は、見た目や機能を伴うデザインだけでなく、音楽・お笑い・企画やアイディアのような形のないものにも広く当てはめることができる。MAYA段階を考慮することで、新しいサービスやプロダクトをユーザーに受け入れてもらう切り口になりえる。

見慣れないものは受け入れにくい

人はサービスやプロダクトを含む事柄に対して「新しいものに惹きつけられる」反面、「親しみのない物に不安を覚える」という相反する2つの感情を抱く。製品アイディアが先進的すぎると、見慣れないと不安が先行してMAYA段階を過ぎてしまい、ユーザーはデザインを受け入れられなくなる。

MAYA段階を超えたイメージ

対象物への興味が「新しいものが気になるけど受け入れにくい状態」であれば、MAYA段階を超えてしまったと言える

デザインの魅力をユーザーに感じさせるには、親しみやすさの要素を入れる必要がある。デザインがいくら洗練された見た目のプロダクトであっても、ユーザーにとって見慣れない要素ばかりだと、Googleグラスやセグウェイのようにユーザーにとって受け入れにくいものとなる。

先進的なプロダクトであるがユーザーに受け入れられなかったセグウェイ

MAYA段階の条件はユーザーの属性や環境によって異なる

MAYA段階に達する条件は、ユーザーの年齢や環境によっても左右される。他にも地理的な条件や気候、四季、収入水準、文化といった要因でも変化する。例えば、都会では人気のマッチングアプリがあったとしても、人口の少ない地域では受け入れられないということが発生する。

例として、1998年に発表されたホンダのHR-Vがある。先進的な3ドアのデザインで欧州では売れたが、日本では先進的すぎて受け入れられなかった。改良され最終的には5ドアに変更されたと言われている。デザイナーは、ユーザーによって受け入れられる段階が違うことを考慮してデザインする必要がある。

AppleやSpotifyもMAYA段階を考慮している

段階を踏んでボタンの数を減らしたAppleの例

初期のiPodは複数の物理的なボタンを配置していたが、段階を踏んでボタン数を減らしていった。それをさらに合理化した例がiPhoneである。
iPhoneXからは物理的なボタンが消えている。最初は反発もあったが、今では受け入れられつつある。
iPodもiPhoneも、最初から物理的なボタンがほとんど存在しない形だと、ユーザーに全く受け入れられなかったことが予想される。

慣れ親しんだ曲と新しい曲を混ぜて提供するSpotifyの例

Spotifyではホーム画面のプレイリストで新しい曲を提供してくれる。全く新しいものだけを提供するのではなく、普段から聞いていて馴染みのある曲と新しい曲を混ぜているため、違和感を感じることなく新しい曲に触れることができる。

Spotifyの例

Spotifyで過去に聞いた曲と新しい曲を混ぜて提供する例

MAYA段階を考慮すると新しいUIでも受け入れやすくなる

MAYA段階に類似した考え方として「ユーザビリティに関する10のヒューリスティクス(10 Usability Heuristics for User Interface Design)」の“Match between system and the real world(システムと現実世界のマッチ)”がある。

この中で、「デザインは、専門用語ではなくユーザーがよく知っている用語、イメージ、アイコンを用いるべきである。 」と解説している。

ユーザーが普段から親しみのある言葉やアイコンを用いることにより、新しいUIでも直感的に使えて受け入れてもらいやすいという点で、MAYA段階と近い考えである。

UIのアップデートを予定している場合には、突然新しいアイコンを配置したり、レイアウトを大幅に変更すべきではない。ユーザーが操作に慣れているUIから変えすぎないようにすると、親しみやすさと新しさのバランスが取れるので受け入れてもらいやすい。

LINEのMAYA段階を考慮したアップデート

LINEでは2020年12月にUIのアップデートを行ったが、アイコンの種類やレイアウトを大きく変更していないため、以前のUIに慣れているユーザーでも受け入れられた。

新しさと親しみやすさのバランスを考慮する

新しいもの好きなイノベーターアーリーアダプターには、MAYA段階は、今までにないような先進的なデザインは受け入れられやすい。しかし、新しいものを比較的慎重に採用するアーリーマジョリティ以降の大衆には受け入れられない。

一般的には受け入れられないデザインもある

ファッションショーで発表されるような先進的なデザインは、新しいもの好きには受け入れられるが一般人には受け入れられない

大衆(マジョリティ)に受け入れてもらうには、馴染みのある要素を入れ、また、見慣れることで馴染み感が増すため、単純接触効果(ザイアンスの効果)を活用することもできる。街頭広告やCMなどの認知により受け入れやすくなるのはそのためだ。

単純接触効果

最初は受け入れがたいデザインでも単純接触効果により親しみを感じるようになる。

人は自分を差別化したいという欲求スノッブ効果(差別化するために他者と違う製品やサービスを選ぶ)という現象がある。あまりに保守的・一般的すぎるデザインだと、ユーザーが他者との差別化を実現できないため惹かれない可能性がある。

一方で、新しい挑戦をせずに保守的な決定を続けることは企業や業界の衰退に繋がる。MAYA段階を認識することでプロジェクトを客観的に設計することができる。

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参考記事

参考書籍

北海道出身、大阪在住のデザイナーです。よく東京の勉強会にも参加しています。 UXについてまだまだ勉強中ですが、学んだことをシェアしたり関西圏での勉強会を開催していきたいと考えています。 読書・着物・旅行・美術鑑賞・ゲームが好きです。

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