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思考発話法 Think Aloud Protocol

ユーザーの思考プロセスを言語化させる調査手法。

思考発話法は、ユーザーがプロダクトを操作しながら、頭に浮かんだことをリアルタイムで話してもらう定性調査手法である。この手法の最大の価値は、アクセス解析などの定量データが示す「何が起きたか」という結果の裏にある、「なぜそれが起きたのか」という思考のプロセスを直接的に解明できる点にある。ユーザーの期待とプロダTクトの挙動との間に生じるギャップを特定し、真に直感的な体験を設計するための鍵となる。

「感想」ではなく「思考の生中継」を捉える

思考発話法は、ユーザーテスト終了後に行うインタビューのように「どう思いましたか?」と感想を尋ねるものではない。その本質は、タスクを遂行しているまさにその瞬間の、ユーザーの頭の中にある「思考の断片」を、解釈や要約を挟まずにそのまま言語化してもらうことにある。「次はこのボタンを押しそうだ」「この言葉の意味がわからない」といった、フィルターのかかっていない生の声を捉えるのが目的である。

この手法は、人間が作業中に使う短期記憶(ワーキングメモリ)にある情報を声に出すことは、思考そのものに与える影響が少ないという認知心理学の知見に基づいている。そのため、記憶の歪みや後付けの解釈といったバイアスを最小限に抑え、設計者が意図した通りにプロダクトが理解されているか、あるいは意図しない誤解を生んでいないかを正確に把握することが可能となる。

語源・提唱者

この手法の起源は1980年代の認知心理学に遡る。人間の問題解決プロセスを研究していたHerbertハーバート Aエー. SimonサイモンKケー. Andersアンダース Ericssonエリクソンが、被験者の内的な思考をデータとして収集する手法として体系化したのが始まりである。彼らは、短期記憶にある情報を言語化させることで、思考の道筋を客観的に分析できることを示した。

この心理学の手法をコンピュータの使いやすさ評価に応用し、UX分野に広めるきっかけを作ったのが、当時IBMに在籍していたClaytonクレイトン Lewisルイスである。その後、ユーザビリティの第一人者として知られるJakobヤコブNielsenニールセンが「ユーザビリティテストで最も価値のある単一の手法」と位置づけて広く提唱したことで、UXデザインにおける定番の調査手法として確立された。

定量データでは見えない「なぜ」を解明する

Webサイトのアクセス解析などから得られる定量データは、「どのページで多くのユーザーが離脱したか」といった「何が起きたか」という事実は教えてくれる。しかし、ユーザーが「なぜそのページで離脱を決意したのか」という根本的な原因までは示してくれない。思考発話法は、この「なぜ」というブラックボックスを解明するために極めて重要である。

ユーザーの生の発話を聞くことで、以下のような質的なインサイトを得ることができる。
* 課題の根本原因の特定: ユーザーがどこでつまずき、何に混乱し、どのような期待を裏切られたのかが具体的にわかる。これにより、表層的なデザイン修正ではなく、本質的な問題解決につながる。
* 設計者の思い込みの排除: 設計チームが「分かりやすいだろう」と考えていた専門用語やアイコンが、実際にはユーザーに全く異なる意味で解釈されている、といったギャップを明らかにできる。
* 共感に基づく改善: ユーザーのフラストレーションや喜びを直接的に感じることで、チーム内にユーザー視点が醸成され、より的確で納得感のある改善案の合意形成が促される。

ユーザーの独り言を引き出すテストの進め方

思考発話法を用いたユーザビリティテストは、単にユーザーにプロダクトを使ってもらうだけではない。良質な発話を引き出すためには、計画的な準備と進行が不可欠である。実務における基本的な実施フローは以下の通りである。

1. 目的の明確化とタスクの設定
最初に「新規ユーザーが会員登録を完了できるか」など、テストで検証したいことを明確にする。その目的に沿って、ユーザーに実行してもらう具体的なタスクシナリオ(例:「トップページから商品を探し、カートに入れて購入手続きを開始してください」)を作成する。

2. 参加者へのアナウンスと練習
テスト開始前に、参加者へ「これから作業をしながら、頭に浮かんだこと、考えていること、感じていることを、独り言のようにすべて声に出してください」と依頼する。意見や感想を求めるものではないことを伝え、簡単な練習タスクで発話に慣れてもらう。

3. 観察と発話の促進
ファシリテーターは基本的に観察に徹し、ユーザーの行動や発話を妨げない。もし参加者が黙り込んでしまった場合は、「今、何を見ていますか?」「何を考えていますか?」といった、答えを誘導しない中立的な質問で、再び発話を促す。

4. 記録と分析
テストの様子は録画・録音し、観察者も気づいた点をメモする。テスト終了後、発話内容と行動記録を照らし合わせ、ユーザーがつまずいた原因や期待とのギャップを分析し、具体的なデザイン改善点へとつなげる。

「なぜここで離脱するのか」を特定する

あるECサイトが、購入手続き中の「配送先入力ページ」における離脱率の高さに悩んでいたとする。アクセス解析データからは問題のページは特定できていたが、その原因は不明であった。そこで、数名のユーザーを対象に、実際に商品を購入してもらうタスクで思考発話法を用いたテストを実施した。

すると、多くの参加者が郵便番号を入力した直後に操作を止め、「あれ、住所は自動で入力されないのか」「最近のサイトはだいたい自動で入るのに、面倒だな」といった趣旨の発話をした。この結果、離脱の根本原因は、単なる入力の手間ではなく、「郵便番号を入力すれば住所は自動補完されるはずだ」というユーザーの事前の期待が裏切られたことによるフラストレーションであることが判明した。この発見により、開発チームはフォームの見た目を修正するような的外れな改善を避け、「住所自動入力機能の実装」という最も効果的な施策にリソースを集中させることができた。

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BtoB人事業務アプリのコンサルタント→エンジニア→BtoCのWebディレクターを経て、再度BtoB業務アプリとなる物流プラットフォームのUIUXに挑戦。オンライン/オフライン双方でのBtoBUXを改善すべく奮闘中。

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