電話番号を聞き、登録するまでの数十秒間は番号を覚えているが、すぐに忘れてしまっていることが多い。このように、短い時間だけ覚えていられる記憶を短期記憶という。
感覚器官から得た情報のうち、注意が向けられたものだけが短期記憶に保持される。短期記憶で情報が保持される時間は数十秒から1分以内と非常に短く、それ以上経過すると消去されてしまう。
短期記憶は記憶の多重貯蔵モデルのなかで定義されている。
記憶の多重貯蔵モデルは心理学者Richard C. Atkinson氏とRichard Shiffrin氏によって1968年に提唱された。
覚えられる数には限りがある
短期記憶では記憶できる数も限られており、一度に覚えられる数は7±2(5から9)と言われている。この7±2という数をミラーの法則という。数字の桁数や単語の数そのものを意味するのではなく、チャンクと呼ばれる情報のグループ数を意味している。
例えば、125987654という数字を覚えるとき、「1,2,5,9,8,7,6,5,4」のように1桁ずつ覚える場合は9つのチャンクになるが、「125」「987」「654」に分けて覚える場合は3つのチャンクになり、覚えやすくなる。
短期記憶を考慮してユーザーに優しくUIを作る
短期記憶の性質を考慮してユーザーに優しい機能を実現する。
例えば、携帯に送られたクーポンコードを入力する場合に、必要以上に長いコードが記載されている画面を見て、文字や数字の入力を要求されると、ユーザーは覚えているのが難しくイライラする。
そのような場合は、SMSに送られたコードがキーパッドに表示され、タップすると入力できる機能があると、ユーザーがパスコードを忘れて不快になることもない。
覚えていられる時間によって記憶の種類が区別される
記憶は情報を保持する時間によって区別されており、短期記憶のほか、数日から数週間以上覚えている長期記憶がある。
個人の経験にもとづく出来事や、覚えるために繰り返しリハーサルした情報は長期記憶に定着される。長期記憶で保持した情報は、検索(想起)から短期記憶へ移動し思い出す。
「記憶の多重貯蔵モデル」が提唱された当初は、短期記憶と長期記憶の2種類に分けられていたが、その後、短期記憶の中でも、感覚器官から受け取った情報を一時留めておく感覚記憶が提唱された。
また、短期記憶を処理するワーキングメモリの存在も明らかになった。ワーキングメモリは、その名の通り「数字を覚える」記憶だけでなく覚えた数字で暗算するような情報を処理することを指す。
関連用語
参考文献
- 服部雅史 小島治幸 北神慎司(2015)、基礎から学ぶ認知心理学