前提となる知識やスキル、経験があると、より効果的に学習を行うことができる。Readinessは直訳すると「準備」という意味で、心理学では「特定の活動に従事する能力が整っている」状態を指し、とくに子供の教育を研究する際に使用される言葉である。
1952年に、アメリカの臨床心理学者Arnold Lucius Gesellが提唱した。
成熟度合いによって学習できることは変化する
子供は産まれてから急速に脳や体が発達し、発達度合いによって物事を理解する能力や、できることが変化する。
例えば、産まれたばかりの赤ん坊に、単語や文章を教えたとしても理解できない。年齢を重ねるにつれ、簡単な単語を理解できるようになり、名詞や過去形などの文法や、長い文章を理解できるようになる。
一卵性双生児による訓練と発達の実験
1929年に、ゲゼル氏の研究チームは、生後46週目の一卵性双生児の赤ん坊を被験者とした実験を行った。実験では、赤ん坊に対して階段を上る訓練を行なって、どのくらい早く上れるようになったかを計測した。
赤ん坊Aは生後46週目から7週間かけて訓練を行い、26秒で上れるようになった。赤ん坊Bは生後53週目から2週間かけて訓練を行い、10秒で上れるようになった。結果から分かったことは、早期に長時間の訓練を行うよりも、適切なタイミングで短期間の訓練を行う方が、学習効果が高いということである。
訓練開始時期 | 訓練期間 | 上るのにかかった時間 | |
赤ん坊A | 46週目 | 7週間 | 26秒 |
赤ん坊B | 53週目 | 2週間 | 10秒 |
なお、55週目以降、双子に対して様々な実験を行なったところ、ほぼ同じ結果だったため、個々の能力に差はなかった。脳や体が発達し、学習に最適な時期に達するまでは、どれだけ早く訓練や教育を行っても、効果は期待できないとゲゼル氏は結論づけた。
効率的に学習を行うには準備が必要
スキルや知識を効率的に習得するためには、ある程度の基礎を事前に学んでいる必要がある。
ゲゼル氏の実験のように、習熟できるほどに心身が成長していない段階で学習を行うことは、効率が悪いだけでなく、モチベーションを失うなどマイナスの効果をもたらす。
新しいサービスをリリースした時や、既存製品に新機能を追加したときにも、使い方や価値が分からず、利用継続へのモチベーションを失ってしまう現象が起こる。
対応策として基本的な機能を学習し、利用に慣れてもらうまでのプロセス「オンボーディング」が活用できる。
オンボーディングは、ユーザーにサービスの価値や機能を説明し、操作スキルを身につけてもらうことで、魅力を感じ、効果的に利用できるようサポートをする一連の導入プロセスを指す。
ユーザーの「理解度」と、操作スキルの「習得度合い」に合わせ、段階的な導入体験を設計することで、本当に伝えたかった製品本来の価値を感じてもらいやすくなる。