1万円を得る喜びよりも、1万円を失う苦痛のほうが大きく感じられるという現象を指す。
この概念は、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)と、エイモス・トヴェルスキー(Amos Tversky)によって提唱された「プロスペクト理論」の中核的要素である。
提唱者
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ダニエル・カーネマン
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2002年にノーベル経済学賞を受賞。
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ダニエル・カーネマン 引用 https://ja.findagrave.com/
デザインへの活用方法
損失回避バイアスはデザイン上でも利用できるが、あくまでナッジでの利用をオススメする。
以下に効果を乗せるが、UXの観点からは決して良いデザインではない。
◎ 1. 誘導・選択肢設計(ナッジ)
損失を強調することで、行動変容を促すことができる。
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例:「この機会を逃すと〇〇のチャンスを失います」といった文言
◎ 2. フォームの離脱防止
途中でやめることで「損をする」印象を与えると、完了率が上がる。
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例:「ここまで入力した内容は保存されません」と明記することで、継続率が高まる。
◎ 3. 有料プランへのアップセル
無料プランで得られていた機能が失われる可能性を提示する。
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例:「このままではXX機能がご利用できなくなります」
◎ 4. ユーザーの継続率の向上
継続の価値を「失うリスク」で伝える。
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例:「続けなければ、これまでの記録が失われます」
具体的な事例
■ Duolingo(語学学習アプリ)
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連続学習日数が「ストリーク」として表示され、継続を途切れさせると警告が出る。これは「努力が失われる」という心理が働く。
■ Amazonプライム
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「〇〇日以内に解約しなければ課金開始」という表現よりも、「無料期間が終了すると特典が失われます」という表現のほうがユーザーに強く働く。
■ eコマースの在庫表示
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「残りわずか」や「本日中に注文しないと明日には売り切れる可能性がある」など、今すぐ買わないと損をする感覚を刺激して購買を促す。
その他:日常生活の損失回避バイアス
損失回避バイアスで、自然と行動が変わってしまう。
普段の生活でバイアスに左右されない場面を理解すると行動を変えることができるかも知れない。
勉強会・学習における損失回避バイアス
1. わからないことを質問できない
- 「的外れなことを言ってしまうかもしれない」という不安が、損失として認識される。
- 結果、学習の機会を逃してしまう。
2. 新しい学習スタイルを避ける
- 今のやり方を変えることによって、これまでの努力が無駄になる(と感じる)ことを避けたい。
- 例:手書きノート派がデジタル学習に切り替えるのをためらう。
スポーツにおける損失回避バイアス
1. 「勝ちを守る」プレー
- 試合でリードしているチームが、急に守備的になる。
- リスクを取るよりも、「今のリードを失いたくない」という気持ちが優先される。
2. ペナルティキックの選択
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サッカーのPKでは、「失敗してチームに迷惑をかけたくない」という損失回避がプレッシャーとなり、定番のコースを選ぶ傾向がある。
3. 選手の交代をためらう監督
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交代によって状況が悪くなるリスク(=損失)を避けようとし、明らかに疲れていても選手交代が遅れる。
投資における損失回避バイアス
1. 含み損の株を売れない心理
- 損を確定させるのが怖くて、「回復するかも」と期待し続ける。
- 損失を確定するよりも「今持っている株を手放したくない」という心理が働く。
2. 利益確定が早すぎる
- 少しでも利益が出るとすぐに売却してしまう。
- 「利益を失いたくない」気持ちが、長期的に伸ばせる可能性を潰してしまう。
3. 投資商品への過剰なリスク回避
- 過去に損失を経験したことで、将来のチャンス(利益)を逃すことがある。
- 新しい投資機会に対して「損するかも」という恐れが先に立つ。
損失回避例
- ポイントカードを捨てられない:「せっかく貯めたのに…」という気持ちが働く。
- サブスクをやめられない:サービスを使っていなくても「やめたら特典がなくなる」と感じる。
- 時間をかけたからと続ける:いわゆる「コンコルド効果(サンクコスト)」も損失回避の一形態である。
損失回避バイアスは「やめる」「切り替える」「新しいことを始める」といったチャレンジする行動を妨げる非常に強力な心理である。このバイアスを理解し、意識的に行動することで、より柔軟で前向きな意思決定が可能になる。