TOP UX用語 心理学・行動経済学・脳科学 セレンディピティ

セレンディピティ serendipity

自己の興味・関心以外から情報を得て、多角的に物事を考えられるようになること

思いもよらない事柄から人の成長や科学が進歩することを意味し、ニュートンが、りんごの落下から万有引力を発見したことや、アレクサンダー・フレミングが、誤って培養した細胞から抗生物質「ペニシリン」を発明したことなどがある。

行動経済学者のCass R. Sunstein(キャス・サンスティーン)氏の著書「選択しないという選択」では、興味・関心以外の情報で多角的に考えることが、誤った行動・判断を防ぐために重要としている。

肖像 キャス・サンスティーン

キャス・サンスティーン
引用元:Wikipedia

アクシデントで人が成長する童話からできた造語

セレンディピティは、1754年にイギリスの政治家・小説家のホレス・ウォルポール氏が作った造語であり、「セレンディップと3人の王子」という童話にちなんでいる。セレンディップとはアラビア語で、王子たちの出身国であるスリランカを意味する。
童話は、​​3人の聡明な王子が、旅中の偶然のアクシデントから学び、成長する姿が描かれている。

表紙「セレンディップと三人の王子」

童話「セレンディップの三人の王子たち」

セレンディピティは偏った思考を防ぐ

インターネットでは、個人が情報を取捨選択するので、知識が偏りがちになり、閉鎖的な考えで判断を間違えることがある。セレンディピティで多角的な情報を取り入れることで良い判断がしやすくなる。

現代は偏った情報に溺れやすい

SNSが盛んな現代では、自己の興味・関心のある人をフォローして情報を得る。同じような興味・関心のある人同士で情報を交換し、やりとりもできるため、同調して盛り上がりやすい。

「いいね」や「シェア」で、その投稿が優先して表示されるため、投稿が目に入りやすくなる。
結果、共感し合う限られた人たち同士で「いいね」が繰り返される「反響室(エコーチェンバー)」という現象が起こる。

Twitterのおすすめ機能の画面

ユーザーの興味・関心に近いツイートが通知され、フォローするユーザーをおすすめしてくるTwitter
引用元:Twitter

自分の発言に肯定的な反応ばかり見ると、見聞きしている記憶を事実と考える利用可能性バイアスにかかり、自分の意見が正しいと判断する。その結果、閉鎖的な考え方になり、誤った判断や間違った情報を拡散してしまう。この事象をサイバーカスケードという。

エコーチェンバーの図

同意見の人から共感の反応が返ってくる(エコーチェンバー)ため、
自分達の意見が正しいと思い込む(サイバーカスケード)

偏った集団が「誤った炎上」を起こす

SNSの誤った炎上は、サイバーカスケードが引き起こしやすい。有名人や企業の発言がSNSで非難されると、同意見の過激なコミュニティに拡散されてニュースになり、偏った意見が瞬く間に広まる。

外国人向け投稿が炎上した例

NHKは、2019年10月に台風19号の警告をTwitterに投稿した。外国人でもわかりやすいように、全てひらがなで平易な日本語で投稿したが、「外国人を馬鹿にしている」と批判を受け炎上した。

【がいこくじんのみなさんへ】
たいふうが つぎの どようびから にちようび、とうかいちほう や かんとうちほう の ちかくに きそうです。

とても つよい かぜが ふいて、あめが たくさん ふるかもしれません。きをつけて ください。

NHKのツイッターの画像

すべてひらがなで書かれたNHKのツイート
引用元:「バカにしてる」総ひらがなツイートが炎上した理由と日本の未来

批判者の意見は「Twitterの翻訳機能があるので、英語もしくは普通の日本語でよい」、「不要に親切心を出して、いい人アピールしている」などがあった。
しかし実際には、Twitterの翻訳機能の精度や対応言語が十分ではなかったので、ひらがなツイートが採用されていた。
自分たちの意見が正しいと思い込んで偏った考えに陥り、誤った情報が拡散された。

新しいものに出会うセレンディピティ・アーキテクチャ

人は、偏った考えや狭い視野で正しい判断ができないが、無数の情報から何が正しいのか判断するのも難しい。
「ナッジ」は、人が正しい判断ができるように設計するものである。サンスティーン氏は、設計者が正しいと思う判断を促すだけでなく、選択者自身で何が正しいのか判断できるように促すべきとしている。
ユーザーが偏った考えではなく、正しく判断できるようにするために、新しいものと出会う仕組み「セレンディピティ・アーキテクチャ」の例を紹介する。

本との出会いをテーマにする書店

Amazonが普及して、書店で本を買う人が減少している中で、変わった生き残り戦略を行う「文喫」という書店がある。

この書店は「想像し得ぬ本との巡り合い、偶然の出会いができる場所」として、入場料をとって書店の本が全て読み放題というビジネスモデルとなっている。

文喫の画像1

文喫の画像2

入場料で本を読み放題にし、新しい本に出会いやすい書店「文喫」
引用元:文喫 BUNKITSU

選択が楽しいことなら新しいことを取り入れやすい

セレンティビティを取り入れるなら、選択することが楽しいものがよい。書籍「選択しないという選択」でも、本や車を選ぶことは楽しいことであり、人が積極的に選択するものとしている。
楽しく選択できれば、普段自分とは縁がないものでも、取り入れてみようとする。そこから刺激や学びを得られ、新しい考え方や視点をもつことができるようになる。

参考サイト

参考書籍

関連用語

アーキテクチャ

ナッジ

BtoB人事業務アプリのコンサルタント→エンジニア→BtoCのWebディレクターを経て、再度BtoB業務アプリとなる物流プラットフォームのUIUXに挑戦。オンライン/オフライン双方でのBtoBUXを改善すべく奮闘中。

「UX用語」のカテゴリー