発生した情報は人の心や脳にコピーされ時には改変しながら、模倣という過程を媒介にして伝わっていく。その方法は会話・物語・テレビ・ネット・文章・絵・風習・儀式・立ち居振る舞いなど多岐にわたる。
この記事を読むあなたが身に着けている「服」も、誰かの産みだした情報の結果であり、この記事自体もいわば「ミームという用語を読み手に伝えるミーム」である。
身近な言葉で表現されていたり、分かりやすく意味の通じやすいミームは早く広まるとされる。
ミームの発案者
遺伝子が「複製、伝達、変異」という進化を遂げていくのと同じように、情報も「複製、伝達、変異」を繰り返し進化していくとして、イギリスの進化生物学者・動物行動学者 Clinton Richard Dawkinsが1976年の著書「利己的な遺伝子」にて「meme(ミーム)」という概念と言葉が産みだした。
ミームの語源はギリシャ語の「模倣」を表した「mim(ミム)」である。
ミームの分類
日本の進化学者の佐倉統(さくらおさむ)氏は、ミームを以下に分類した。
- 流行ミーム…世の中に広まっているもの、長期化すると習慣ミームや、伝統ミームへと移行する。ファッションや流行の歌など。
- 習慣ミーム…流行ミームが定着し、意識することなく繰り返されるもの。
- 伝統ミーム…意識的な活動により維持されるもの。四季折々の伝統行事など。
- 掟ミーム…法やルールのこと。
- 仕掛けミーム…拡散されることを目的とした人為的に作られたもの。テレビCMなど。
- 伝道ミーム…他者にも伝えるという呼びかけが含まれるもの。宗教の布教活動や企業PRなど。
- 伝説&物語ミーム…事実かどうか判断しにくいもの。またはフィクション。
- メタミーム…ミームに関するミーム。
- 識別ミーム…物事を認識するためのラベルのようなもの。たとえば、コカ・コーラのブランドロゴの識別ミームを持っているとしたら、店頭で他ブランドの見慣れないコーラより目に入りやすく、買う可能性が高くなる。
- 関連付けミーム…ある出来事を思い出すと同時に、別の感覚や考えが心に浮かぶこと。あるメロディーを聞いたら、恋人と過ごしたクリスマスを思い出すなど。
本能に関わる情報は拡散されやすい
生物として、生き残り子孫を増やしていく本能と紐づく情報は拡散されやすいとされ、「危険・食べ物・生殖に関すること」の情報は早く広まる傾向がある。
その一方で、間違った情報でも単純でわかりやすいものは広まりやすいことがある。例えば、UX格言として公開した「間違った情報だと判断できる力をつけよ」という記事の中で、”とある飲食店で起きた大学教員らの貸し切りドタキャン事件”というものを紹介している。
ドタキャン事件自体は巧妙なフェイクニュースだったが、ニュースを見た人たちは気が付かず飲食店への同情と、事件に対する怒りで情報はどんどん拡散されていった。
ミームには「作られた料理が大量に無駄になった」という食べ物に関すること、「予約をドタキャンした大学の教員、およびそんな教員が所属している大学は信用できない」という危険に関する事が含まれていたため、多くの人が安易にミームを広めてしまったと考えられる。
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人に伝えるための情報設計
大本あかね氏の著書「ノンデザイナーでもわかる UX+理論で作るWebデザイン」でも
文章でも、発言者によって意味が異なる場合があります。例えば、寝違えた人が言う「首が回らない」という言葉と、家計が苦しい人が言う「首が回らない」とでは、意味が異なります。
~中略~
発言者の属性によって同じものでも呼び方が変わります。例えば、“ハンガー”のことを、年配の方は“えもんかけ”と呼ぶかも知れません。
~中略~
情報は身の回りに溢れ、複雑に入り組んでいます。ユーザーはこの複雑な情報を頭の中で瞬時に理解し処理しています。この複雑な情報を整理しユーザーに情報を届けることで「使いやすい」「分かりやすい」Webサイトに繋がります。
とあり、同じ言葉や名称であっても情報は発信者の属性や、情報の文脈や受け手の理解度や解釈によって意味合いが変化する。
サービスやサイトをデザインし、人に情報を伝えるにはユーザーが利用する環境や文脈を考慮して伝わる言葉、伝わる表現で誤解のない「UX設計」を行う必要がある。