人は抽象的な言葉を聞いた時、自分の解釈に当てはめて理解する。言い換えると、曖昧な言葉で相手の解釈に委ねることができる。そのため、抽象的な言葉は、意識抵抗なく無意識レベルで同意を得られやすい。
抽象的で曖昧な表現の言語を用いることによって、人々の内面のプロセスや心理的な状態を最適な解釈へ導く心理学。
セラピーやコーチングで主に用いられている。また、広告やキャッチコピー、政治家のスローガンにも用いられることがあり、リサーチや営業にも一部の手法が使われている。
心理学者ミルトン・エリクソン氏から由来
ミルトン・モデルとは、催眠療法家として知られる精神科医、心理学者のミルトン・エリクソン氏の巧みな言葉の使いを研究・分析・体系化することで生まれた。彼は、重篤な身体障害に悩まされていた。特に17歳の時にポリオにより目を除く全身が麻痺したことは彼に重大な影響を及ぼした。
例え、身内であっても願望を実行してもらうには言葉を上手に使う必要があったのだろう。こういった経験から、‘ダブルテイク’(言葉が2重の解釈を持つこと)、‘トリプルテイク’(言葉が3重の解釈を持つこと)や、例えば「窓が開いてますね」が「窓を閉めてください」との命令を含意しうること言葉であることを発見し、言語学にも精通していった。
催眠療法において非常に優れた技法を開発し、患者の言葉遣いや身体的反応に注目し、それに基づいて言葉をかけることで、患者の内面的な自己変容を促すことができると考えた。この抽象的な表現を体系化した言葉の使い方のアプローチを「ミルトンモデル」と呼び、コミュニケーションや心理療法の分野で広く応用されるようになった。 ちなみに、ミルトンモデルを踏襲する人のことをエリクソンニヤンと呼ぶ。
ミルトン・エリクソン氏の家族や周囲の人の情報から、書籍「ミルトン・エリクソン/アメリカン・ヒーラー」などが出版されている。
「省略」「歪曲」「一般化」「やんわりと言い換え」・物語で表現
「よろしくお願いします」は、よく使われる言葉だが、何に対してよろしくなのか省略されている。「暑いのでビールが美味しいです」は、絶対的な因果関係ではない歪曲だが、言われると納得してしまう。1〜2回手伝っただけなのに、「いつもありがとう」と一般的(化)に使われる言葉でもうれしく、また何かをしてあげようと思うようになる。
期待の新人に「未来の星」と表現することでイメージしてもらうやすい。また、物語(寓話)は言いたいことを関節的に伝えることができるため、ミルトンモデルで利用される。
ミルトンモデルのサンプル
現在のあなたは素晴らしいですが、それまでには人には簡単に言えない苦労や試練を乗り越えてこられたのでしょう。
誰でも当てはめまる様な、とても抽象的な言葉であるため、多くの人が自分ごとのように受け取る。曖昧な表現は、相手の警戒や批判、判断などの注意心を減らし・防御を弱め、結果的にラポール形成が完成する。
ミルトンモデルは、まるで催眠「トランス」に導いているかの状態にし、意識の壁を薄くし、無意識にアクセスすることによって、良好なコミュニケーションを築く。言葉のフレーズによって、新たな気づきや肯定的に捉え、自分にふさわしい答えを自らが導き出すことを想定している。
ミルトンモデルには、エリクソニアン・ダブルバインド、曖昧な表現、逆メタモデル、間接誘導・接続詞、前提、メタファーなどのアプローチがあり、多くのパターンが導き出されている。
ミルトンモデルを活用した広告(キャッチコピー)スローガン(政治家の演説)
マクドナルドのミッションを表現したキャッチコピーは「“I’m lovin’ it”(私はそれを愛しています)」は、ハンバーガーショップのものとは思えない内容だが、この商品を手にするとその効果があると感じてしまう効果がある。政治家のスローガンが抽象的なのは万人に、そのイメージを伝えることができるからである。
ミルトンモデルのメリットとデメリット
メリット
- コミュニケーションの改善: 相手の言葉の意味や感情にアクセスし、より深い理解と共感を得るために利用できる。コミュニケーションが改善され、齟齬がないコミュニケーションを取ることができる。
- 様々な状況で使用可能: コーチングやセラピーなどの専門的な状況だけでなく、日常的なコミュニケーションにも適用できる。
例えば、人が相手の言葉にうまく反応できないときに表現をかえることで伝えることができる。 - 自分自身の内面にもアクセス可能: 自分自身の内面にアクセスすることでより客観的に自分を見つめることができる。自分自身に問いかけることで、自分の言葉の意味をより深く理解することができる。
デメリット
- 誤用の危険性: 相手の言葉の意味や感情にアクセスすることができるが、時に、誤用する人がいる。相手の内面にアクセスしすぎて、プライバシーを侵害し、それらを悪気なく公開・他言してしまう可能性がある。
- 長時間にわたる会話に向かない: セラピストによって、相手が話をするたびに、いちいち質問を繰り返すことがある。このような行為は話の本質が失われたり、腰が折れてしまったり、話のリズムに乗れず疲れることもある。
- 学習に時間がかかる: 学習に時間がかかる場合が多い。正確な手法を身につけるには、トレーニングと練習が必要。