歩行や自転車の乗り方、キーボードのブラインドタッチなど、体で覚えている記憶を「手続き記憶」という。手続き記憶は動作を繰り返すことで習得でき、記憶した内容は自動的に動作に変換されるため、言葉で表現することが難しい。
手続き記憶は潜在記憶のうちのひとつ
人の記憶には、長い間覚えている「長期記憶」があり、そのうち内容を意識的に言葉で表現することができない記憶を「潜在記憶」という。潜在記憶の中でも体で覚える記憶が「手続き記憶」である。
自転車の乗り方の場合、何回も転びながら練習して習得する。一度自転車に乗れるようになると、数年のブランクがあってもスムーズに乗ることができる。ただし、「自転車の乗り方を文章で説明してください」と言われると上手に説明できない。
大まかな動きと細かな動きを組み合わせて記憶する
手続き記憶の習得は、大脳基底核
や小脳が関わっている。大脳基底核は、体の筋肉を動かしたり止めたりする大きな動きの記憶に関与する。小脳は筋肉の動きの調整やバランスを保ちつつ動かすといった細かい動きの情報の記憶に関与している。
例えば、自転車の乗り方を習得する場合、ペダルを足で踏み込むことやハンドルを手で握ることなどを大脳基底核に記憶し、足の踏み込み加減やバランスの取り方などを小脳に記憶すると考えられる。
大脳基底核で記憶すること | 小脳で記憶すること | |
ペダル操作 | ペダルを足で踏み込む | 踏み込み加減の調節 |
ハンドル操作 | ハンドルを手で握る | ハンドルで倒れないようバランスを取る |
自転車の乗り方を習得する場合に、大脳基底核と小脳が記憶する範囲の一例
動作を繰り返すと記憶に残りやすい
単語や歌の歌詞など、情報を見て覚えようとするだけでは、記憶に定着しにくい。
書いたり、声に出して覚えるなどの動作を繰り返すことで、記憶が定着しやすくなる。
身近な例として以下の現象が挙げられる。
- 単語を何回も書いて覚えると、頭の中で文字の形をイメージするよりも先に手が動く。
- 曲を何回も歌って覚えると、歌い出ししか覚えていなくても、声に出すと、一曲通して歌えてしまう。
関連用語
参考文献
- 池谷裕二、記憶力を強くする、講談社、(2001)