長期記憶(いわゆる「記憶した」段階にある情報)を思い出すには、2種類の方法がある。
- 再生:経験したことを、そのまま思い出すこと
- 再認:経験したことを、提示された選択肢の中から思い出すこと
そのまま思い出されたものは再生記憶、提示されたものをきっかけに思い出されたものは再認記憶と呼ばれ、一般に再生記憶よりも再認記憶のほうが容易であるとされている。
選択肢の中から選んで答える方が簡単に感じる
テストでは、記述式問題で解答を考えるよりも、選択式問題で選択肢から正解を選ぶほうが容易と感じやすいことが例に挙げられる。
ユーザーの興味関心に合わせてコンテンツを表示するサイトを例に、「どのようにユーザーから興味がある分野を答えてもらうか」を考えてみる。
「あなたは何に興味がありますか?」と単に聞かれた場合は、経験を記憶から直接思い出す再生記憶を用いており、記憶の検索範囲が広いため考え込んでしまう。
「インテリア、メイク、ファッション、レシピの中であなたが興味があるものはありますか?」という質問では、選択肢がキーワードとなって思い出す再認記憶になっており、記憶の検索が限定され、思い出しやすいため答えやすい。
再認記憶でUIの使い勝手が向上した例: GUIとCUI
初期のコンピュータでは、文字のみが表示・入力できるコマンド・ライン・インターフェース(CUI)が用いられていた。利用には何百ものコマンドを覚える必要があり、使いづらいものだった。コマンドを思い出すには、記憶の中から直接思い出す再生記憶が使われる。
1984年にAppleのMacintoshによって世に広められたグラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)では、画面の要素を選択してから操作のオプションを提示するなど、認識した選択肢の中から操作を実行できる再認記憶を活用できるようにした。
コマンドを覚えていなくても操作できることでコンピュータの使い勝手が向上し、急速な普及につながった。
見慣れた選択肢は選ばれやすい
最善の選択肢がわからない場合、選択肢がなじみ深い(再認できる)というだけで、選択してしまう傾向がある。
ピーナッツバターの味比べに関する消費者調査を例に挙げると、調査参加者は無名ブランドよりも有名ブランドのほうが美味しいと評価した。しかし、先に行ったブラインド・テストでは、無名ブランドを一番美味しいと評価していた。
ユーザーが選びやすい「再認できる選択肢」は、ユーザーにとってより良い選択になるナッジとして活用できる。情報設計やユーザーインタビューでの質問提示の際には、意図せず偏った選択肢の提示になっていないか注意する必要がある。
再認記憶で使い勝手を向上させる設計ポイント
- 選択肢を提示して、再認記憶による操作を促すことを意識する。ユーザーの負担を軽減するために、極力再生記憶が必要となる場面を少なくしたほうがよい。
- 選択肢の表現がユーザーにとって馴染みのあるもので統一されていることも重要である。表現にブレがある、専門用語や英語を使っているなどで「言葉に馴染みがない」という理由で、選択肢が選ばれないこともある。
例:ユーザー切り替え操作
ユーザーを切り替えるために、ログアウトして再度ログインするとき、再認記憶を活用した方法のほうが、操作が簡単に感じやすい。
再生記憶のみの方法: IDとパスワードを思い出してフォームに入力する
再認記憶の方法:以前ログインしたことがあるアカウントの選択肢が提示され、選択したアカウントのパスワードだけ入力する