記憶の種類の中には忘れずに覚えている長期記憶があり、覚えていられる情報量に限界がないことが特徴である。
思い出すことを検索(想起)といい、思い出せないことを忘却という。
長期記憶は、覚えようと意識的に努力したものだけでなく、空間や匂い、音楽など普段の生活の中で経験した無意識に覚えた記憶も含まれる。スポーツや料理・自転車に乗ることも長期記憶に含まれる。
長期記憶は、心理学者Richard C. Atkinson氏とRichard Shiffrin氏によって1968年に提唱された記憶の多重貯蔵モデルで定義されている。
長期記憶は時間と共に変化する
長期記憶は時間と共に変化していく。「受験勉強で苦しかった」記憶でも時間が経つと「勉強できていい経験だった」と変わる事が例として挙げられる。また、昔流行っていた音楽を聴くと当時のことがよみがえって来るように、忘却してしまった情報をあるきっかけで思い出すこともある。
覚えやすさは情報によって異なる
情報の出し方によって長期記憶になりやすいかが変わることも特徴である。最初と最後に見た情報は覚えやすい系列位置効果や、画像の方が文字より記憶に残りやすい画像優位性効果などがある。
覚えたての記憶は使わないと忘れてしまう
覚えた情報を忘れてしまう度合いを表す忘却曲線によると、短時間で再び覚え直すと長期記憶に定着しやすくなる。例えば、一夜漬けでテスト勉強をしてもテストが終わった後復習しなければ忘れてしまうが、何度も繰り返し教科書を読んで覚えた記憶は長い間忘れずに覚えていられる。
長期記憶には体得したものや覚えたものなども含め様々なものがある
頭の中でイメージしたり言葉にできたりする顕在記憶と、体得や経験から得られるような潜在記憶の2つに大きく分かれる。
人に説明できる顕在記憶
顕在記憶は2つに分かれており、入学試験やイベントといった個人の経験に基づくエピソード記憶と、キリンは首が長いという事実に基づいた一般的な知識の意味記憶がある。
身体で覚えた潜在記憶
記憶の内容を言葉やイメージで人に説明できないものを潜在記憶という。潜在記憶は主に3つに分類される。
自転車の乗り方のように、運動や動作で覚えた手続き記憶、テレビのグルメ番組で紹介された料理が食べたくなるように、見聞きした情報で無意識に影響されるプライミングがある。また、パブロフの犬に代表される、経験や訓練によって特定の刺激に反応する古典的条件付けも潜在記憶である。
記憶したことを何もない状態から思い出すのは難しい
長期記憶に保持した情報は、何もない状態よりもヒントや選択肢があったほうが思い出しやすい。
記憶したことを思い出すことを再生といい、中でも、ヒントなどの手がかりがあるものを手がかり再生、ないものを自由再生という。
マークシートの問題よりも記述式の問題の方が難しいように、手がかり再生よりも自由再生の方が難しい。提示された選択肢の中から思い出すことを再認という。再生よりも再認の方が簡単で、選択肢の表現が馴染みのあるもので統一されていると、さらに再認しやすくなる。
「何に興味がありますか?」と聞かれただけよりも、見慣れた選択肢などのヒントがあると思い出しやすい。
関連:再生記憶より再認記憶
関連用語
参考文献
- 服部雅史 小島治幸 北神慎司(2015)、基礎から学ぶ認知心理学