AIプロジェクトの成否を分ける最も重要な要素の一つが、適切な「ユースケース(活用事例)」を選ぶことです。間違ったユースケースを選ぶことは、プロジェクトが失敗する最初の原因になりがちです。失敗しないユースケースを選ぶために、本記事を読んでください。
元の記事「How to Pick an AI Use Case」を日本語に翻訳・要約し、読みやすく整理したものです。
AIプロジェクトを成功に導く鍵は、適切なユースケースの選定にかかっています。20以上のAIプロジェクトを率いてきたグレッグの経験上、この選定ミスこそが、どのプロジェクトにも共通する失敗の最大の原因でした。
彼が経験した精密灌漑(かんがい)1会社のコンサルティング事例から、AIのユースケースをいかに選び、また、いかに選ぶべきでないかをご紹介します。
- 灌漑(かんがい)とは、農作物の生育に必要な水を、川、地下水、溜池などの水源から用水路などを通じて人工的に農地へ供給する農業技術のこと ↩︎
農家を助けるはずだったAI
その会社は、AIを活用することで、農作物に水をやるタイミングと量がわかるサービスを開発していました。
しかし、グレッグが調査を進めると、農家たちは土壌の水分量の判断には全く困っていないことが判明しました。ブーツで土を蹴り、その感触で水分量が分かる「キックテスト」で十分判断できたのです。
何世代にもわたって農業を営んできた彼らにとって、「水やりのタイミングをAIに教えてもらう」という提案は、侮辱的ですらありました。AI会社が自分たちの仕事のやり方に口出ししている、と受け取られたのです。
これは重要な危険信号です。
ここから得られる教訓は明確です。人間の専門家をAIで置き換えようとしてはいけません。専門家であれば、AIが見つけられない例外(エッジケース)を察知することができますし、それ以上に、専門家が持つプライドや、機械に指示されることへの根源的な抵抗感が、プロジェクトの大きな障壁となるケースも少なくありません。
本当に「夜も眠れない悩み」とは?
では、どうすればよかったのでしょうか。答えは簡単で「別のユースケースを探すこと」です。グレッグは農家たちに、こう尋ねて回りました。
「本当に夜も眠れないほどの悩みは何ですか?」
インタビューから浮かび上がってきたのは、彼らの経験だけではどうにもならない、もっと深刻で構造的な問題だったのです。例えば、淡水供給の減少、水の使用に関する厳格な政府の新規制、そして気候変動による乾燥が、彼らの愛するカリフォルニアの土地をゆっくりと、しかし確実に生命のない砂漠に変えていること、などです。
これらの問題は実際に、AIの力を発揮するのに適したユースケースだったのです。
適切なユースケースは、
AIを使って作物が十分に水やりされていることを確認し、収穫を失わないようにしたい。 |
ではなく、
AIに、現在与えているよりも実際に少ない水を必要とする畑の部分について推奨事項を作成してもらいたい。そうすることで、最適な収穫量を損なうことなく水を節約でき、結果的に収益を増やし、政府の規制を遵守できる。 |
ということでした。
会社の仕事に集中すべき適切なユースケースに関する重要な洞察が、AIベースの精密灌漑を実用的なものにしたのです。ヤコブ・ニールセンの言葉に「望遠鏡を土星に向けたら、それが環を持っていることがわかるだろう」(https://www.nngroup.com/articles/banner-blindness-original-eyetracking/)があります。正しい方法(正しい質問、共感、オープンマインド)で十分な数の人々に調査を行えば、誰でも同じ結果になるという意味です。AIの正しいユースケースを見つけることも同じです。
UXとは、その核心において、非常にシンプルな学問分野です。他の専門家が求められた情報を提供することでお金を稼ぐ一方で、UX担当者は、無自覚に求めていることを明らかにすることでお金を稼ぎます。
言い換えれば、UX担当者は本質的な問いができるということです。
文脈調査、フィールドスタディ、ユーザーインタビューなどの既存のUXメソッドは、基本的にすべて、顧客が何を望んでいるかを体系的に解明することに行き着きます。そして、UX担当者は、アフィニティマッピングやカスタマージャーニーモデリングなどのツールを使用して、AIプロジェクトにとって確かな金の卵となる知恵の断片、つまり収益性の高いユースケース、収益の改善、新しい市場機会などを引き出すことができます。
朗報なのは、ガリレオ・ガリレイが作った古い望遠鏡のように、これらの由緒あるUXリサーチ手法がAIプロジェクトにもそのまま使えるということです。ただ、それらを使えばいいのです。
しかし、質問を怠り、その代わりに傲慢な「ブルーオーシャン/レッドオーシャン」のようなたわごとに頼って、AIのユースケースを決定する行為は、巨大な溶接手袋をはめて、真っ暗な部屋で黒猫を捕まえようとしているようなものです。
これでは、誰にとっても(猫にとっても)嬉しい結果になりません。
ワークショップのご案内
何を解決するべきかを決めるのは、AIではなく人間です。人間が何を考えて設計し、AIに何を任せるべきなのかを正しく判断する必要があります。
2025年11月15日「AIと共創する次世代プロダクトデザイン」のワークショップに参加して、AIと人間の境界を見極める人材になりましょう!
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