AIによって、UXリサーチは大きく変わりますが、不要になるどころか、必要性がますます強まっていくものになります。
決して、ユーザーへの調査をAIで代替しないでください。本記事を読むことでその理由を理解することができます。
元記事「AI and UX Research」を翻訳・要約したものです。
AIはUX分野も根本から変えつつあります。この新しいテクノロジーは、UXリサーチにどのような影響を与えるのでしょうか?UXリサーチャーの仕事はなくなるのでしょうか?AIの新時代において、最も需要が高まるリサーチスキルとは何でしょうか?
分かりやすくするために、UXリサーチの手法を3つのセクションに分けて説明します。
- 自動化によって不要になるもの
- 根本的に変化するもの
- ますます価値が高まるもの
そして最後に、UXリサーチにおける「でたらめな」AI活用法、つまり行き詰まりでひどいアイデアについて説明します。これは一般的なUXリサーチの手法や専門分野の一例であり、全てにおいて言えることではないのでご注意ください。そのため、読者の皆様にはある程度の想像力と類推を必要としますが、今後の方向性を示すのに十分なサンプルを提供するよう努めます。
1. 自動化される可能性が高い作業
AIの高度化により、多くの手作業が完全に自動化されます。定型的なテキスト情報の作成と処理に依存するUXリサーチ業務は、最初に影響を受ける分野の一部です。
ユーザビリティ調査
定型のユーザビリティ調査の自動化は、過去10年間ですでにトレンドであったため、今さら驚くことではありません。ユーザビリティ調査のスクリプト作成から、初期プロトタイプの作成(「UXは死んだ」を参照)、フィードバック収集に至るまで、すべてが定型的で、確立された共通のパターンに基づいています。
また、Gregが3冊目の著書『1ドルプロトタイプ:モバイルUXデザインと迅速なイノベーションへの現代的アプローチ』で主張しているように、定型的なユーザビリティ調査はRITE(Rapid Iterative Testing and Evaluation)調査と比較して効果に限りがあります。このトピックについては、今後の記事でさらに詳しく取り上げます。
NPS調査やアンケート
NPS調査やアンケートも同様に、人間の介在がますます少なくなります。アンケートの質問作成からデータ分析、プレゼンテーションに至るまで、AIは基本的な作業をこなすのに十分です。もしNPS、アンケート調査があなたの主な仕事であれば、この先を読むことをお勧めします。
リサーチデータの収集と整理
データの扱いこそ、私たちの専門分野で最も根本的に変化する部分になります。以前は、専任担当者が(顧客との会話やドキュメント、調査を自動的に分析し、戦略を強化するツール)Dovetailのようなツールを使って行なっていましたが、新しいAIであれば、データの照合や報告、さらにはインサイトなどの様々な種類のグルーピングが可能です。さらに経営戦略に関する深いインサイトへの問い合わせも自動で行えます。古いデータを新しいAIツールにインポートする際の問題もほとんどないはずです。AIは最初は高価ですが、その幅広い人気と明らかな有用性により、価格競争によってすぐに適正値になるはずです。
単なる定量的なインサイト調査だけでなく、定量・定性インサイトの三角測量(triangulation)という究極の目標、そして新しいインサイトや製品能力の創出が、あらゆる新規プロジェクトの標準となります。良いことは、「暴走しがちなPM」が個人的なプロジェクトに数百万ドルを費やさなくなることです。悪いことは、それがあなたの専門分野なら、スキルの再構築が必要になるかもしれません。
もしあなたの主な仕事が定型的またはテキストベースのワークフローであるなら、「調査自動化のスーパーバイザー」としてスキルを再構築するか、ここで言及するより高度なUX調査の分野にスキルアップすることを強くお勧めします。
2. 根本的に拡張されるUX手法
AIによる自動化がメディアの注目を最も集めていますが、最大の利益は、現在のプロセスを拡張してスピードと効率を高められることです。戦略的に言えば、AIは「人工知能(Artificial Intelligence)」ではなく「拡張知能(Augmented Intelligence)」と考えるのが最善です。この機械による拡張は、UXリサーチやデザインを含む多くの分野で現れるでしょう。
競合分析
競合分析も同様に、AIによって根本的に変化します。AIはドキュメント、ビデオフレーム、ナレーションから個々のスクリーンショットを迅速に探索し、関連する画面を抜き出して機能性を推測することができます。まだ、実用化されていませんが、いずれ根本的に変化するでしょう。自動化と、労力・コスト・時間の削減によって、あらゆる本格的なプロジェクトで、今より深い競合調査が定型的かつ必須になります。
多くの小さな独立した非同期検索エージェント(デーモンとも呼ばれる)にデータ収集を分割することで、並列処理によって情報収集と分析が高速化されます。完了までに数週間かかっていたものが、数時間、あるいは数分で終わるかもしれません。しかし、典型的なNPS調査を完全に自動化するのとは異なり、競合分析はAIによって拡張されるものとなり、一見無関係なデータ間のより大きな論理的飛躍や、現在の高度なAIのレベルを超える類推を人間が行う必要があります。
新たなユースケースの特定
人間のコアスキルに近いものがビジネススキルですが、新たな収益源、市場機会、ユニークなニッチな提供物を特定することは、AIツールによって大幅に拡張されるでしょう。AIは、前述の競合分析に基づいて、新たな機会や市場の非効率性を指摘することができるようになります。この種のAI拡張型ビジネス分析は、経営陣が迅速かつ自信を持って意思決定を下すのに役立つ、あらゆるビジネス要件定義書(BRD)の標準となるでしょう。
RITE(Rapid Iterative Testing and Evaluation)
RITEとは、従来のユーザビリティテストのように、すべてのテストが終わってから問題点を報告書にまとめるのではなく、問題が見つかったら、その場ですぐにプロトタイプを修正する迅速な検証アプローチです。
AIを使えば、短期間のうちに、顧客のフィードバックを解釈し、代替のデザインパターンをリアルタイムで提案できるようになります。企業の設計システムや直接の競合他社から探索された既存のデザインパターンのセットを使用して、リサーチャーがデザイン空間を非常に迅速に探求できるツールが登場します。顧客に新しい機能を見せたところ、顧客が100%満足していない、あるいは何かについて混乱していると想像してみてください。
AIはその混乱を検知し、そのページやフローの代替デザインをリアルタイムで生成し、リサーチャーに複数のデザインオプションを提示できるはずです(今日のMidjourneyの/imagine機能のように)。そしてリサーチャーは次に顧客に見せるバージョンを選択できます。このようなワークフローを使用し、AIによる拡張のおかげで、RITEリサーチのスピードと効率は次のレベルに達するでしょう。
数週間かけて議論し、反復するのではなく、リサーチャーは1日で合格点のソリューションに到達できるようになります。重要なスキルは、調査の正しい方向性を見抜く直感と、「ドラゴンの埋まっている場所(問題の核心)」、言い換えれば、新機能の問題を探る必要があるかを判断できる経験です。時間とともに、AIはこれらのパターンを認識し、解決策を提案する能力をさらに高めていくでしょう。初心者デザイナーでさえ、最初から正しい推測をするのをますます助けるようになります。
高度な拡張が必要となるため、AIとの連携方法を理解し、その経験を持つリサーチャーやデザイナーが、この新しいテクノロジーを最大限に活用することになるでしょう。これが、新しいAI拡張技術に習熟し、快適に使いこなす「AIの魔獣使い」という新たな専門家層です。
3. ますます価値が高まるUX手法
AIが定型的なUX業務を自動化または拡張するにつれて、AIが理解し模倣するのが難しい特定のスキルは、実際に価値を高めるでしょう。その中には、次のようなUXスキルが含まれます。
人と協力して実行する力
開発者、PM、UX担当者が小チームで新しい機能のリサーチ、特定、構築に取り組むという従来の「3人一組(3 in a box)」モデルが、データサイエンティストやAIスペシャリストを加えて新しい製品機能を作成するために必要な人材となる「4人一組(4 in a box)」モデルに急速に進化すると予測します。計画を立て、合意を形成し、消費者に新しい製品を届ける実行力を持つ「ナレッジリーダー」がより求められるようになります。
合意形成、交渉、そして単一の目標に向かって協力しながら人々に良い気分をもたらすというコアスキルは、AIに取って代わられることはありません。実際、様々な専門職がさらに深く専門化するにつれて、これらのスキルはますます重要になるでしょう。テクノロジーを理解し、それをビジネスや人道的なニーズのために活用する能力が、このUX担当者グループの鍵となります。
ワークショップのファシリテーションも同様に、近い将来に自動化されたり拡張されたりすることはないでしょう。ブレインストーミングを促進し、斬新なアイデアを出し、多様な意見から合意形成を導き出す能力は、AIが効果的に拡張することがほとんど不可能な、非常に価値のあるスキルとなるでしょう。
現場の中で得るインサイト
形成的リサーチ、フィールド調査、エスノグラフィー、直接観察も同様に、AIが拡張したり置き換えたりするのは非常に困難です。AIはまだ、ロボットビジョンを効率的に使用したり、様々な感覚入力を統合して、以前に書かれていない、あるいは複雑に統合された視覚的・テキスト的入力に基づかない新しいインサイトを生成することができません。
例えば、医師、配管工、工場や農業用途のツールなど、人々が複雑な機械システムや他の人間と相互作用するのを観察し、複雑な結論を導き出すことを伴う、実践的な専門職のためのユーザーリサーチは、定型的なユーザビリティリサーチが完全に自動化されるにつれて、その重要性を増すばかりでしょう。
創造的なひらめきと今までにないプロトタイプ作成
ビジョン・プロトタイピングは、様々なリサーチからの入力、市場のニーズ、そして経験則を統合して、斬新な製品や機能のプロトタイプを作成する重要な手法です。(この不可欠な手法については、今後の記事で詳しく取り上げます。)これは本質的に、これまでになかった新しいものを作り出し、それを既存のデザインシステムコンポーネントを使って表現することです。
このスキルはモデル化が難しく、自動化はさらに困難です。これらのプロトタイプの制作を高速化するために拡張が多少役立つかもしれませんが、スピードは今日でさえめったに問題になりません。重要なのは、AIが再現することが困難、あるいは不可能に近い創造的なひらめきです。AIは一連の指示に基づいて多種多様なアプローチを生成できますが、新しい製品や機能の正しい方向性を見抜くことは、AIが簡単にできることではありません。実際、今日では、それは最も「でたらめな」AI機能の一つです(下記参照)。
UX設計でビジネスを支援する力
最後に、経営戦略の拡張に関わるUXスタッフも同様に安泰でしょう。様々なリサーチレポートが自動化され、大幅に拡張されるかもしれませんが、そのすべてのデータの中から「干し草の中の針」を見つけることはこれまで以上に難しくなり、テクノロジー、ビジネスユースケース、市場の成長方向、消費者の需要、そしてUXが独自に適している共感と人間の価値観の交差点での学際的な分析が必要になります。ビジネスとテクノロジーへの理解を活用し、その理解を斬新なソリューションに統合できるUX担当者は、そのスキルが大いに求められることに気づくでしょう。
あなたの主要なスキルがすでにここに該当していたなら、素晴らしいことです。そうでなくても、まだこれを構築する時間はありますが、競争は激しくなる可能性が高いため、長く待たないことをお勧めします。
AIに関するデタラメ
UXリサーチへのAI応用例のうち、突飛で、過剰に宣伝され、過度に複雑であるか、あるいは単にUXデザインの初歩的な原則を理解していないために誤解されやすい例をお伝えします。これらの事例はごく一部です。
【デタラメ1】ニーズをかなえるアイデアやユースケースを考えられる
このUX戦略応用は近い将来に大幅に拡張されると述べましたが、AIは経験、共感、そして人間のニーズや欲求の理解に代わるものではありません。人間の決定の代わりにAIの決定を採用することは、ロボットのニーズで製品を作ることになります。AIを「人のニーズを叶える商品」として販売することは、治ると言って治らないインチキ薬を売るのに似た、愚かな考えです。
【デタラメ2】ユーザーテストは不要になる
ロボットの踊りは、踊っているという事実に感心しますが、ロボットの踊り自体に感心をしているわけではありません。同じように、今まで研究されてきたヒューリスティックの原則を元に、AIがシステムを評価したり考察できるようになることは凄いことです。しかし、ユーザーテストの必要性がなくなる(あるいはデザイナーを完全に置き換える)と主張するのは、まったくのでたらめです。
ヒューリスティック分析は、事前にプロダクトをチェックする上でのガイドにすぎません。結局は「絵に描いた餅」であり、最終的に顧客が実際に購入したいと思う機能的な製品を、時間と予算内で提供できているかは別の問題です。ヒューリスティックだけで全ての問題が解決すると主張することは、誰のために何が構築できているのかという現実世界を無視しています。だからこそ、「4人一組」の精鋭チームや、本物の人間とのユーザーリサーチ調査は、少なくとも現在のAIレベルでは、本質的にかけがえのないものなのです。
ヒューリスティックを使ってユーザーリサーチを置き換えるという考えに密接に関連するのが、AIがユーザーの代わりを務めるというアイデアです。
【デタラメ3】ユーザーの代わりにはならない
現在、一部の見当違いのベンダーによって「AIがユーザーの代わりになって、ユーザビリティ調査ができる」と売り込まれています。AIがユーザーのふりをすることは、AI分野から生まれた最も見当違いで、でたらめなアイデアの一つでしょう。はっきりさせておきます。実際のユーザー調査をAIモデルで置き換えることは、あなたが実際の顧客のためではなく、AIのために製品を構築することと同じです。
人間のニーズに関するリサーチには、テクノロジーへの理解、ビジネスニーズの知識、そして目や耳、心までをオープンにして顧客に共感することが大切です。それらがあってこそ、優れたユーザーリサーチや、神々が時折恵んでくださる創造的なひらめきが降りてくることになります。
ユーザーテストを通して顧客に共感することは、「休暇をとる」ことに似ています。自分が休むからこそ、リフレッシュして頑張れたり、頭が冴えてくることがあるのに、誰かに休暇を代行させてしまっては意味がありません。
AIを使ってペルソナを作成すると主張する、でたらめなツールについても同じことが言えます。ペルソナの重要性は、ペルソナ作成を通して合意形成、議論、そしてチームメンバーの教育を行うプロセス自体に意味があるということです。AIを使ってそこに早くたどり着いても、何の利点も得られません。それは、休暇中の楽しみ、くつろぎを省いて、旅行先で写真だけを撮ろうとするようなものです。
最悪なことに、この最も重要な部分をショートカットしようとするものは、簡単にUXの項目をチェックしたがる経験の浅いビジネスパーソンに売り込みます。
インタビュー練習に使うならAIは良い相手
一方で、「AIがユーザーの代わりをすること」の優れたユースケースは、私たちの友人で元同僚のMadeleine Leが、リサーチャー向けの「コバヤシマル」訓練演習と名付けたものです。AIが、ユーザビリティテストを失敗させようと決意し、経験の浅いリサーチャーを動揺させようとする、気難しい人間の顧客のふりをすることができます。
ときにそういった顧客がいてもリサーチが行えるよう練習するにはAIは格好の相手になるでしょう。
ワークショップのご案内
AIが現れても、UXリサーチの本質を理解しておけば、仕事がとって変わることはありません。とはいえ、AIを活用したUXリサーチについてもっと深く理解しておく必要があります。
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