AI駆動型プロダクト(AIを活用したプロダクト)の設計は、従来のソフトウェアやWebサイトの設計とは根本的に異なります。この新しい設計領域では、線形のプロセスや静的なプロトタイピングツール(Figmaなど)が通用しなくなりつつあります。
本記事では、AI駆動型プロダクトを成功させるために不可欠な人間中心の考え方と、なぜ設計プロセス自体を変革しなければならないのか、その3つの重要な認識について解説します。
AI駆動型プロダクトのテストにおける「Figmaの限界」
AI駆動型プロダクトの設計とテストを行う際、従来の設計ツールであるFigmaのような静的なモックアップでは対応が不可能であるという認識が重要です。
問題の核心:AIの不安定性と予測不可能性
AI駆動型プロダクトは、ユーザーからの同じ問いかけ(プロンプト)に対しても、回答が毎回微妙に異なります。例えば、法律相談サービスのようなプロダクトで、AIが毎回異なる判断結果(50万円の損害額、1000万円の損害額など)を出す可能性がある場合、検証すべきはUIの見た目ではなく、AIの精度と価値そのものです。
Figmaで作られたモックアップには、そもそもAI(エンジン)が入っていません。そのため、プロダクトの核となる「AIの検証」ができないのです。このため、AI駆動型プロダクトのテストは、AIが動作している状態(イン・ザ・ブラウザや実際のリアクトコードなど)で行う必要があり、迅速な反復手法の必要性が高まっています。
【ポイント】 AI駆動型プロダクトのテストでは、静的なモックアップではなく、AIが稼働している状態で、その回答の安定性や精度を確認する必要があります。
人間中心のガードレール:AIの「嘘」と人間の「信用」
AI駆動型プロダクトを設計する上で、常に念頭に置くべきは「AIは不安定である」という前提です。AIの権威でさえ、LLMがどのように構造化され、どのような結果を出すのか予測できないことがあると述べています。また、モデルによってその精度は変わってきます。
人間の認知負荷とワークフロースリップ
人間は、AIを「便利な秘書」だと認識すると、自然と信用しきってしまう傾向(自動化バイアス)があります。その結果、たとえ確認をしたつもりでも、脳が確認しきれていない「ワークフロースリップ」が発生し、AIの誤った出力をそのまま受け入れてしまうリスクがあります。
UXデザイナーの新たな責任:ガードレール設計
AIが嘘をつく(幻覚を起こす)のは避けられない事実であるため、UXデザイナーは、ユーザーがAIを過信しないための仕組み(ガードレール)を設計しなければなりません。
これには、以下のような機能が求められます:
1. ファクトチェック機構: 出力された情報に真実性が含まれているかを確認するガードレールを設ける。
2. 責任の明記: エンドユーザーに対して「これはあなたの責任です」という通知を出し、AIの回答を絶対的なものとして扱わないよう促す。
AIをコントロールすることはできないという前提のもと、ユーザーの行動をコントロールするための人間中心の設計が重要になります。
3. スケールと感情:心を「虜にする」設計の倫理的側面
AI駆動型プロダクトの設計では、ユーザーの心を取りこにするような、高度なパーソナライゼーションが求められます。
映画『Her/ハー』の例が示唆するように、ユーザーはAIとの関係を「僕だけの彼女」のようなパーソナルでユニークなものとして捉えたがります。設計者は、ユーザーにそのように感じてもらえるような設計(共感と繋がりを深める設計力)を施す必要があります。
しかし、AIは産業革命後のプロダクトのように、大量生産・大量提供が可能です。ユーザーが「僕だけの」特別な存在だと思っていても、実際にはそのAIは世界の何十億人にも対応できる存在であるという倫理的ジレンマを理解しなければなりません。
【結論】AI駆動型プロダクトの設計は、学習とチューニングの連続
AI駆動型プロダクトの設計は、UI、AIモデル、データの間の継続的な学習と反復(チューニング)のプロセスです。デザイナーは、従来のUXスキルに加えて、AIが何であるか、どのようなモデルが良いのか、そしてどのように倫理的に利用するのか(MOEなどのモデルチューニングを含む)を深く理解し、常に学び続ける姿勢が必要です。
AIの力を活用しながらも、その怖さや限界を年頭に置き、ユーザーに価値を届けつつも責任ある利用を促すような人間中心の設計を行うことが、これからのAI時代におけるUXデザイナーの使命となるでしょう。
上記の動画で紹介されているルークはアプリではありません。AIのハルシネーションで、本当は、Luke Wroblewski氏が作ったAI駆動型プロダクトを指します。
ワークショップのご案内
2025年11月15日「AIと共創する次世代プロダクトデザイン」で学ぼう!
>>特設ページでお申し込みください。

