Figmaタイタニック号からの脱出:Part3 — 「RAGレジストリ:AIの秘密の食材庫」
生成AI向けに設計されたUXバージョン「ミザン・プラス(料理の準備)」について詳しく解説します。さらに、代替情報を効率的に整理するためのシンプルかつ実用的なRAGレジストリの作成方法を、分かりやすくご紹介いたします。
Part1・Part2・Part3・Part4
原文:https://www.uxforai.com/p/escape-from-the-figma-titanic-part-3-magic-rag-registry
はじめに:Magic RAGとは
パート2では、初めての Magic RAGファイル の作り方を紹介しました。Magic RAGファイルとは、AIエージェントやLLM駆動型アプリケーションに対して、正確でタイムリーなUXコンテンツを供給するための「構造化されたドキュメント」です。
今回のパートでは、さらに一歩進んで 「レジストリ」というシンプルな概念 を導入します。これによって、Magic RAGは初心者向けの仕組みから、プロフェッショナルが使える実践的な仕組みへと進化します。
イメージとしては「プログラミングに似ているけれど、コードではなく言葉で書かれる仕組み」と考えてください。専門的すぎず、誰でも楽しく扱える設計なので、UXデザイナーやプロダクトマネージャーにも親しみやすく、すぐに実務に活かせる内容になっています。
実例:グルテンフリー対応のタイ料理を作る
- 「グルテンフリーにしてください」
- 「甲殻類アレルギーなんです」
- 「Figmaはもう使っていません」
Part2で作成した「Life Copilot」をベースに、今回は 「タイ料理をグルテンフリーにアレンジする機能」 を追加してみましょう。
この事例は筆者にとってもとても身近です。私はタイ料理が大好きですが、グルテンに敏感で、この10年間ずっとグルテンフリーの生活を続けています。
例えば、一般的な醤油には小麦(グルテン)が含まれています。しかし「たまり醤油」を使えば、同じような風味を保ちながらグルテンフリー対応が可能です。ところが、AIに「たまり醤油」という選択肢をあらかじめ伝えておかないと、AIは通常の醤油を使い、結果として グルテン入りのパッタイ を提案してしまうかもしれません。
これは単なるレシピの問題にとどまらず、ユーザー体験に大きな影響を与える可能性があります。特に食事制限やアレルギー対応では、こうした小さな違いが UX上の重大な問題 につながりかねません。
RAGレジストリとは何か?
RAGレジストリ とは、再利用可能なパターンをまとめて共有できるリストのことです。AIが参照する際に役立ち、具体的には次のような情報を含みます:
- よくある代替(例:食材の置き換え、UIパターンのバリエーション、モデル応答のテンプレート)
- 標準表現(例:トーンやアクセシビリティのルール、文章量の目安、構造の統一ルールなど)
- 検索性の高いメタデータ(ファイル名ではなく、実際のニーズや文脈に応じて探し出せるタグや属性)
ここで重要なのは、AGレジストリは「データベース」や「スプレッドシート」といった複雑な仕組みではない、という点です。
LLMがそのまま読み取れるシンプルなテキストファイルとして設計されており、扱いやすさが特長です。
イメージするなら、これはまるで 「おばあちゃんのレシピカード」 のような存在です。シンプルだけれど実用的で、必要なときにすぐ役立つ。違いは、料理ではなく UXのために 用意されている、ということです。
RAGレジストリ例:タイ料理のグルテンフリー代替
私たちが作業用コパイロットで使用したレジストリファイルがあります。
これは、https://gluten.org/2021/08/15/exploring-thai-cuisine-on-a-gluten-free-diet/ からの洞察を使用して、グルテンフリーの食事に合わせたタイ料理用のものです。
https://gluten.org/2021/08/15/exploring-thai-cuisine-on-a-gluten-free-diet/ から
RAGレジストリファイルを作成します。 添付されたRAGファイルのレシピを変更して、
グルテンフリー消費者に適したものにするように構築してください。
この新しいRAGレジストリをテキスト形式で作成し、JSON形式ではなくしてください。
特定の材料の代替品を含めてください。
もし、グルテン入りの醤油を置き換えるための食材が記載された文書をすでにお持ちの場合、レジストリの作成は非常に簡単です。ここでは、第2部で認識可能なプロンプトを使用します。下記のプロンプトは、個別のRAGファイルを作成する際に使用したものと非常に似ています。
id: thai_gf_substitutions_v1
title: タイ料理のグルテンフリー対応食材レジストリ
source: https://gluten.org/2021/08/15/exploring-thai-cuisine-on-a-gluten-free-diet/
---
id: soy_sauce_sub
category: 調味料
summary: 醤油には小麦が含まれる
recommendation: グルテンフリー認証済のタマリ醤油を使うこと
note: すべてのタマリがグルテンフリーとは限らない
---
id: oyster_sauce_sub
category: 調味料
summary: オイスターソースに小麦が使われていることがある
recommendation: グルテンフリー認証済の製品か、椎茸の炒めソースで代用
---
id: rice_noodles_check
category: 主食
summary: 米麺は基本的にグルテンフリーだが、包装を確認すべき
recommendation: バルク品は避け、認証ブランドを選ぶ
---
id: fish_sauce_safe
category: 調味料
summary: ナンプラーは一般的にグルテンフリー
recommendation: 小麦由来のカラメル色素が含まれる場合があるので、表示を確認
---
id: sweet_chili_sauce_sub
category: 調味料
summary: 市販のスイートチリソースに小麦が含まれることがある
recommendation: 自作するか、グルテンフリー製品を選ぶ
RAGファイルとレジストリの連携方法
新しいレジストリを最も効率的かつ正確に運用するためには、すべてのRAGファイルが適切にレジストリを参照していることを確認する必要があります。このプロセスは非常に簡単です。
ファイル名をRAG_REGISTRY.txtと仮定した場合、LLMがそれを認識するためには、RAGファイルの冒頭で次のように参照を追加するだけで済みます(Part2で作成したRAGファイルを更新してください)。
対象となるRAGファイルの冒頭に以下の1行を追加します:
REGISTRY: RAG_REGISTRY.txt
以下は、RAGファイル「tom-yum-goong-creamy.txt」の一部例です
REGISTRY: RAG_REGISTRY.txt
以下は、RAGファイル「tom-yum-goong-creamy.txt」の一部例です
# RAG DOCUMENT
id: tom-yum-goong-creamy
title: クリーミー・トムヤムクン(ต้มยำกุ้งน้ำข้น)
description: 海老・きのこ・ハーブの香る、濃厚でクリーミーなトムヤムクン
tags: タイ料理, スープ, スパイシー, クリーミー, 海鮮
## INGREDIENTS
- 水 5カップ
...
これで準備完了です。あとは、以下のようにプロンプトを作成してください:
プロンプトの例
グルテンフリーのタイ風スープレシピをください。
添付ファイル:
[RAG_REGISTRY.txt] [tom-yum-goong-creamy.txt]
このプロンプトを実行すれば、AIが自動的にレジストリを参照し、レシピをグルテンフリー対応に変換してくれます。
次回予告
これを「プログラミング」と感じた方もいるかもしれません。実際、これはテキストで行う軽量なUXプログラミングです。Magic RAGは単なる手法ではなく、「考え方」そのものです。
UXデータの共通言語であり、生成AIとユーザー体験をつなぐ重要な橋渡しとなります。
次回Part4では、以下の内容をご紹介する予定です:
- よくあるエラーへの対処方法
- パラメータやバリエーションの管理
- 出力のトーンやフォーマットの変更方法 など
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