本記事では、UXデザイナーが信頼性の高いAI体験を設計するためのAIエージェントの基本構造と、実践的な設計フレームワークを紹介します。
筆者はAIエージェントを「自律性をもつ存在」として捉え、その設計を支える4つの中核能力――知覚・推論・記憶・自律性――に基づいたモデルを提案しています。
AIエージェントのワークフローは、人間がSupervisor(スーパーバイザー)エージェントにタスクを依頼し、それが複数のWorker(ワーカー)エージェントに分配されるという構造をとっています。まるでアリの巣のように、各エージェントが協調しながら問題解決にあたります。AWS CloudWatchを用いた障害調査の実例を通じて、その仕組みが具体的に説明されています。
最終的に筆者は、エージェントUXの新しいデザイン原則として次の3点を提示します。
- 柔軟で繰り返し可能なUI設計
- AIの自律性を安全に制御する機能
- セキュリティと継続学習を前提とした運用設計
英語原文
Designing for AI Agents means crafting UX for digital ant colonies that think, reason, and solve problems alongside humans.
日本語訳
AIエージェントのデザインとは、人間と並んで考え、推論し、問題を解決する「デジタル蟻のコロニー」のためにUXを作り上げることを意味します。
AIエージェントは業務に入り込んでいる
AIエージェントは、すでに社会や業務に導入され現実のものとなっています。ただし、その普及状況には企業によってばらつきがあります。AIエージェントという近未来的な存在とどのように対話し、どのようなユーザー体験が優れているのかを示す事例は多く存在しません。
筆者は、AWS Re:Inventで開催されたカンファレンスにおいて、AIエージェントとの対話体験で非常に優れたUXの実例に触れる機会がありました。この記事では、そのビジョンを皆さまと共有いたします。
その前に、AIエージェントとはどのような存在なのかを明らかにしておきましょう。
AIエージェントとは何か?
AIエージェントとは、人間と並んで考え、推論し、問題を解決する「デジタルのアリのコロニー」のような存在です。アリ一匹は単純でも、全体では驚くほど複雑な行動をとります。
AIエージェントも同様に、Supervisor(指揮役)とWorker(作業役)が連携し、集合知として課題を処理していきます。
従来のAIとの最大の違いは、自律性にあります。
AIエージェントは人間の指示を逐一待たず、タスクを柔軟に遂行します。ユーザーは細かな操作を意識することなく、Supervisorとの対話に集中するだけで、全体を制御できます。まるで女王アリが巣全体を統率するような仕組みです。
エージェント型ワークフローの仕組み
AIエージェントによるワークフローは、以下のようなステップで構成されています。
- 人間のオペレーターが、指揮役(統括役)であるSupervisor AIエージェントに大まかなタスクを依頼します。
- Supervisorは複数のWorkerエージェントを起動し、それぞれがシステムの異なる領域を調査します。
- 各Workerは調査結果をSupervisorに報告し、それが「提案」として人間に提示されます。
- オペレーターが提案を取捨選択すると、それに応じてSupervisorが追加のWorkerを起動します。
- Supervisorは仮説を構築し、最終的な判断を人間に提示します。
指揮役はチームの指揮を執る存在であり、各作業役に対して指示を出したり、情報に応じて判断を修正したりすることができます。すべての作業が完了した後には、結果が人間のオペレーターに返されます。必要に応じてフィードバックや新たな依頼を出すことで、プロセスを再び開始できます。
このように、オペレーターは内部処理を意識せず、指揮役エージェントとの対話だけで、全体をコントロールできます。これは、女王アリが他のアリたちを統括するような構造によく似ています。
実例:CloudWatchを使ったAIエージェントの障害調査
AWS Re:Invent 2024では「CloudWatch × AIエージェント」による障害調査の事例が紹介されました。「Don’t get stuck: How connected telemetry keeps you moving forward(COP322)」
Supervisorが指示を受け、複数のWorkerがそれぞれの領域を調査。得られた情報を集約・分析して、最終的に仮説を提示します。
*Amazon CloudWatch は、AWS上のリソース(例:EC2、Lambda、DynamoDB、RDSなど)や、アプリケーションのパフォーマンス、インフラの状態、ログ、メトリクス(数値指標)を リアルタイムでモニタリング・分析・アラート通知 できるサービスです。
ステップ1:障害数の急増を検知し、Supervisorエージェントに調査
ユーザーは、チャットボットのような「bot-service」で障害数の急増を検知し、Supervisorエージェントに調査を依頼します。
ステップ2:Supervisorが複数のWorkerエージェントを起動
Supervisorが複数のWorker(手足のようなもの)エージェントを起動し、システム内のさまざまな構成要素を非同期に調査します。調査開始直後には、提案リストには何も表示されていません。
ステップ3:提案を整理し提示
Workerエージェントが調査結果として「観測提案」を提出し、Supervisorがその提案を整理して、ユーザーに提示します。たとえば、あるエージェントはサービスのメトリクスに基づいた提案を行い、別のエージェントは分散トレーシングの観点から提案を行います。
ステップ4:新たな視点からより深い調査の実施
ユーザーが提案を「受け入れる」と、Supervisorはそのフィードバックをもとに、新たな視点からより深い調査を行います。この段階では、ログ分析など異なる情報ソースに基づく提案が新たに表示されます。

ステップ5:収集し、仮説の提示
Supervisorが十分な情報を収集したと判断した段階で、仮説を提示します。これはまるで推理小説の探偵が最終的な結論を述べる場面のようであり、AIエージェントが問題の根本原因を示す瞬間です。

このプロセスは、まるで人間の推理チームがリアルタイムで動いているかのようです。
AIエージェントは学びながら、効率的に問題を解決します。
新しいエージェントUXの3原則
1. 柔軟でループ可能なUI設計
人とAIが協働するには、タスクの開始から仮説形成、次の行動までをスムーズに往復できるUIが必要です。
2. AIの自律性を理解し制御する
AIは自ら仮説を立て、証拠を集め、コードを書き、ツールを生成します。
この強力な能力を安全に活用するため、「開始・停止・一時停止」などの制御インターフェースが欠かせません。
3. セキュリティと継続学習の管理
AIエージェントは多くの情報にアクセスします。
そのため、アクセス権限管理・バージョン管理・学習制御が重要です。
また、AIが継続的に学び、最も熟練した存在となる可能性も考慮する必要があります。
AIを「雇う」という新たな概念
AIエージェントは、単なるツールではなく推論能力を持った知的存在です。
今後は、Supervisorの下に副監督エージェントやチームリーダーが存在し、人間と直接やりとりするアカウント担当エージェントが配置されるといった、複数階層の構造が登場する可能性があります。
まとめ
AIエージェントは、現実世界で動き始めています。UXデザイナーがこの新たな存在を理解し、人とAIが協働できる安全で創造的な体験を設計することが求められています。
AIエージェントの設計とは――
人間の思考とAIの自律性を組み合わせ、次世代のデジタル体験を育てる仕事です。
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