2018/03/16(金)に実施されたUX DAYS TOKYO2018におけるBoon Sheridan氏によるカンファレンス講演「AR、その熱狂と後にあるもの」のレポートです。
ARの先駆けであり、一般ユーザーがARに初めて触れる機会を作り出した「ポケモンGO」。
そのポケモンGOを通して、ARが私達の生活にどのように浸透していくのかをVRやARの歴史を交えながらお話いただきました。
開発技術と現実のつながり
ここ数年でAR(Augmented Reality)やMR(Mixed Reality)、VR(Virtual Reality)という言葉を聞くことが多くなりました。この技術を総称して XR(Cross Reality)といいます。
現実と仮想現実のつながりを図で表すと上のスライドのようになります。
図の左端には現実(RE:Reality)、右端には仮想現実(VR:Virtual Reality) があります。仮想現実はシステムが制御する世界を歩き回ることができます。しかし現実をコントローラーで制御することは出来ません。
現実と仮想現実の間に拡張現実(AR:Augmented Reality)、複合現実(MR:Mixed Reality)、拡張仮想(AV:Augmented Virtuality)が存在します。
これらの技術や言葉は明確な線引きがありません。
拡張現実の思い出
私は古い教会に住んでいます。ポケモンGOがローンチされた際、なんと自宅がポケモンGOのジムとして指定されてしまいました。
私が何気なくそのことをツイートすると、CNNやABC等のニュースが取材に来たり、他の人からどのように自宅をジムにできるのか聞かれたり、家に泊めてくれ、と頼まれたり…と生活が一変しました。
夜中に水を飲もうと起きると、家の目の前に人が立っていたということもありました。
私が自分の名前を検索すると「自宅がポケモンジムになったデザイナーがいる」という記事がいくつも表示されます。
週末はポケモンジムにならないようにポケモンGOの運営会社に申請したところ、 ファンの反感を買ってしまったこともありました。
VRの歴史とARの普及
1993年に放送されたジェシカおばさんの事件簿というテレビ番組の中で、主人公がゴーグルとグローブを装着してVRを体験するという場面がありました。
その後、1995年にNintendoがバーチャルボーイという端末でVRゲームを発売しましたが、私にとってはそれほど面白い体験ではありませんでした。
さらに20年後、2015年にOculusが発売され、本格的にVR元年の幕開けとなりました。
現在はVRが話題になることが多いですが、今後はARが重要になってきます。
Oculus VR社を買収したFacebookは「ARに主力を投じるため、VRのスタジオは閉鎖します」と発表しています。
その理由は、ゴーグルなど大きな機材を使用する必要があるVRと、スマートフォン一つで利用できるARとの違いでしょう。
現在、全てのスマートフォンにはカメラ・GPS・モーショントラッカーが付いているため、最新の機種でなくてもARを体験することができます。誰でも体験できるようになったので、ARはプラットフォームとして成熟してきました。
例えば、American AirlinesのARアプリでは、スマートフォンをかざすとセキュリティチェックまでのルートや時間が画面に表示されます。
これにより、セキュリティチェックをパスして搭乗するまでの時間とストレスが軽減されるようになりました。
ARによってもたらされる未来
Lowe’s Innovation LABSのARアプリは「どこに行きたいのか」や製品の情報等をARで表示し、IKEAの店内で迷いなく商品にたどり着くための案内をしてくれます。
IKEAに行くと毎度迷うので憂鬱でしたが、このアプリを使うようになってから落ち着いて買い物をすることができるようになりました。
Amazonでは家電を購入する際に、自宅でどう見えるかを確認できるARアプリを提供しています。家に家具や家電を設置すると、実際の部屋に合うのか?幅は大丈夫なのか?などの確認ができ、ネット上だけではわからない情報にもふれることができます。
AppleはARKit、GoogleはAR coreという開発キットを無償で提供しており、だれでも開発できるようになりました。
ARアプリも日常的に使われるようになったため、業界内の収益構造が構築されつつあります。
ARが普及してきた背景には、このように誰でもARアプリを開発できるようになったということが一因として考えられます。
最近のAR技術は、ポケモンGOのようなゲームよりも、ユーザーをサポートするような、より生活に密着したものに使われるようになりました。
多くのアメリカの企業は、ARアプリを開発していると答えており、ARは確実に社会に浸透してきています。
このARが浸透していく流れはiPhoneが発売された当初に似ています。
発売時は使い方もアプリも少数で限定的でしたが、iPhoneを利用するユーザーが増えたことで支払いや金融機関でのサービスまで提供されるようになり、生活に欠かせなくなりました。
徐々に、ARも生活の一部になっていくでしょう。
UXを構築する技術は、AR開発においても役立ちます
ARをより便利に使うためには、先ほど登壇されたAbi Jones氏が発表した「VUI」について考える必要があります。
開発初期の危険性
企業の中で価値が上がりつつあるARですが、初期の開発段階で考えておくべきことは多岐にわたります。
開発初期に考慮する点
- AR開発キットが無くても試作品は作れる。
- スマートフォンのARアプリはモバイルフレンドリーに作る。
- どのようにしたら成功なのかを定義する。
- シナリオは絞る。
- インタラクションデザインが重要。
- 開発した後のテストは慎重に行う。
- 個人の臨場感を尊重する。
- 商品の購入導線は簡単にする。
ARツールが無くてもプロトタイプは作れる
ARのプロトタイピングはストーリーボードやサービスデザインといった既知のUXメソッドを用いることが可能ですが、Adobe EdgeやGoogle Web Designerなどの既存のプロトタイピングツールを使用することで、ARの専門家がいなくても精度の高いプロトタイプを作ることが可能です。
モバイルフレンドリーに作る
もはや当たり前ではありますが、スマートフォンに不慣れなユーザーでも簡単に操作できるよう設計をする必要があります。
成功を定義する
最初にダウンロード数、収益など、なにをもって成功とするのかを決めておく必要があります。ARはインタラクションを伴う特殊な体験ですので今まで利用していた多くの指標は役に立ちません。ですが、取れるデータは多岐にわたります。
どの指標で成功/失敗を推し量るのかはチーム内で共有しておく必要があります。
シナリオを絞る
何でもできるAR、ではなくいくつかの項目に長けたAR、を目指しましょう。
ポケモンGOはポケモンを「探す」、「捕まえる」、「進化させる」という点に絞り込んだゲームして作られています。
ユーザーはポケモンの世界で実装したい機能は沢山あったのでしょう。ですがNiantecはあえて制限することで成功を収めました。
インタラクションデザインが重要
スマートフォンでのARは小さな画面サイズで表示されることを考慮する必要があります。小さなコントロールゾーンの中で、多くのUI要素を表示することは操作の邪魔になります。
実際に操作したとき、ほんの少しタップ位置がずれたとしても、ユーザの意図通りの操作が行われるよう設計したほうがいいでしょう。
画面サイズで表示する、インタラクションデザインには悩まされますが、ポケモンGOのスピン機能のようにインタラクション要素の中に隠し機能を埋め込むのはARの設計の中で面白い部分です。
ポケモンGOは画面上のUI要素が少ないので操作が容易です。
Amazonのアプリはメニューを排除しシンプルな設計しています。ですが、メッセージのUIが面積を取っていて多少見づらいのが難点です。
開発後のテストは慎重にする
ARのインタフェースは周辺環境が多岐に渡るため、スマホアプリにおける通常のテストでは役に立ちません。
例えば、周辺が暗くカメラで写したものがほとんど見えない場合にきちんと機能できるでしょうか?逆に明るい屋外ではどうでしょう?ユーザーのライフスタイルに合わせてマッピングすることが大切です。
また、対象物に対してずっとカメラを向けていることは考えにくいので長時間は使用しないものとして設計する必要があります。
実際の体験を尊重する
ARアプリは周辺環境に影響されるものです。ですから実際の環境で起こることを想定しなければなりません。
ユーザーのライフサイクルの中で、ARがどのようにサポートできるのかみてみましょう。その後、分析してから開発進めることをお勧めします。
ただ機能を追加することが、実際にユーザーの役に立つのかは全く別の話です。
IKEAでの買い物をサポートするアプリ(IKEA PLACE)では、購入前に自分の家と欲しい家具がで家具がどのように合うかどうかを確認することができます。これによってユーザーはIKEAに何度も行かないで購入後のイメージを持つことができます。
眼鏡メーカーWARBY PARKERでは眼鏡を3種類選び、自分の顔で試着することができるので眼鏡を購入する時間が節約できます。
また、SehoraのVirtual Makeup ARTISTはスマートフォンの画面上で色々なメイクを試すことができます。
商品の購入導線はシンプルにしましょう
ユーザーは一度ARから離れてしまうと購入のモチベーションが落ちる傾向にあります。
ARの体験と支払うという行動は、Apple Payなどのようにシステムとの垣根がないほうがよいでしょう。
嬉しいことにARアプリはスマートフォンをかざすだけで使用できます。生活の中に溶け込んでいるので、ARという言葉はあまり使われません。
「ARアプリを作る」という目的ではなく「○○をしよう、そのためにARで作るほうがいいでしょう」という「選択肢の中にあって当たり前」のものになりつつあります。