インタビューは最初の5分間が重要
目標指向の設計(Goal Directed Design)において、実際のユーザーを直接調査することは欠かせません。調査手法として代表的なものにユーザーインタビューがあります。インタビューの成功において、インタビュアーと参加者の信頼関係(ラポール)を構築できるかどうかは非常に重要です。
インタビューの所要時間が30分であろうが2時間であろうが、ラポールを構築する上で極めて重要なのは最初の5分です。
ラポールを構築できれば、参加者は出来るだけ役に立ちたいと前向きに取り組んでくれます。しかし、有名人や政治家を除けば、インタビューに慣れている人はほとんどいないでしょう。インタビューが始まる前に、気になっていることや不安なことがあっても言葉に出さずに悩んでいるかもしれません。
この記事では、参加者の不安や懸念を解消し、安心感を与えてラポールを構築するための9つのポイントを紹介します。
ユーザーインタビューを始めるための9つのポイント
- 紹介 :自分たちは何者なのか?
- 説明 :インタビューはどのように進むのか?
- 時間 :長くかかるのか?
- コントロール:もし何か知らないことや言いたくないことを聞かれた場合はどうしたら良いか?
- 守秘義務 :知られたくない内容が他の人へ漏れないか?
- 許可 :知る許可を得る
- 同意 :記録の許可を得る
- 質問 :事前に質問を求める
- リラックス :簡単なことから始める
1. 紹介:自分たちは何者なのか?
まず初めに自己紹介をしましょう。名刺を差し出すか、参加者が見やすい所に名前やメールアドレスを記載します。
最初にインタビュアーの連絡先を伝えておくと、追加で質問したい内容が生じた場合に役立ちます。後日改めて問い合わせる際に、誰から連絡が来たのか参加者が理解しやすくなります。
また、インタビュアーは質問をする前に必ず参加者の名前をノートの一番上に書き留めておきましょう。そうすればインタビュー中に相手の名前を思い出す際に役に立ちます。参加者の名前を改めて聞いたり、あからさまに名刺を見て名前を確認することは、ラポールの構築を阻害する要因になりかねません。
自己紹介における重要なポイントは、「”インタビュアーが製品やサービスに深く関与していない”と参加者が思えるようにすること」です。たとえ本来の役割が、コンサルタントであっても、「調査員」として自己紹介することもあります。これはポライトネス効果(=相手との関係が円満になるように考慮すること)を避けるのに有効です。
”インタビュアーが製品やサービスに深く関与している”と参加者が認識してしまうと、インタビュアーの反応に合わせて意見を捻じ曲げたり、製品やサービスに対する不満を隠してしまい、製品やサービスの課題を見出せない可能性が生じます。
もしメーカーに勤めていて、インタビュアーの本来の役割が「製品を設計すること」と参加者に知られている場合は、苦労するでしょう。その場合は、設計している製品から距離を置くために以下のように伝えてみてはいかがでしょうか。
2.説明:インタビューはどのように進むのか?
たとえ事前にインタビューの目的を説明していたとしても、自己紹介後に改めてインタビューの目的を説明しましょう。参加者はインタビューを通じてどのような貢献が出来るかを知りたい場合が多いです。目的は簡潔かつ理解しやすく伝えるため、事前に練習しておきましょう。
ただし、目的を詳細に語ることは控えましょう。設計者や技術者は詳細に議論することを好む人が多いですが、参加者が目的の詳細に関心を持つことはほとんどありません。
もし、参加者が目的に関する詳細な質問をしてきた場合は、インタビューの終わりにきちんと回答することを約束しインタビュー後に対応しましょう。
3.時間:長くかかるのか?
参加者の予定は念を入れて再確認しましょう。インタビューの途中で会議が入るかもしれないし、当初の計画よりインタビューを早く終わらせなければいけないかもしれません。あるいは当初の計画より長く時間を割ける場合もあります。
終了時間を書き留めて、参加者も見える所に時計を置き、インタビュアーが時間を厳守していることを把握できる環境を用意して、参加者を安心させましょう。
4.コントロール:もし何か知らないことや言いたくないことを聞かれた場合はどうしたら良いか?
目的は調査であることを入念に説明しましょう。つまり、間違った答えは無く、「分からない」という言葉さえ、インタビューにおいて良い情報になることを伝えましょう。
ビジネスプロセスに関する、参加者の個人的な意見を求める場合は注意する必要があります。インタビューの場に上司や同僚がいなかったとしても、答えた内容によって不利益を被ってしまうと恐れることもあるでしょう。
答え方を慎重に選ばなければいけないと参加者が感じる質問に対しては、無理に答える必要はないことを伝えましょう。自分の裁量で回答をコントロールできる安心感を参加者に与えて、質問に対して正直に回答しやすい環境を作りましょう。
5.守秘義務:知られたくない内容が他の人へ漏れないか?
参加者はインタビューを通じて自分の悪い面が上司に伝わってしまわないか心配しています。例えば、知っているべき情報を知らなかったり、業務上の課題に対して最善の手段を取らなかった過去の実績などです。
参加者はインタビュー中、録音や録画されていると特に緊張する可能性があります。従って参加者に「どのような回答に対しても守秘義務を貫く」ことを保証しましょう。例えば、インタビュアーの製品チームとだけ共有することや、参加者の会社にインタビューメモを共有しないことを約束しましょう。
このような説明を行なって参加者が安心しても、インタビューを進める前にやるべきことはまだあります。
6.許可:知る許可を得る
専門知識を持っていることを基準に、インタビューの参加者を選ぶことが多いでしょう。しかし参加者は「自分が持つ知識は一般的な知識である」と認識している場合があります。
参加者に対して事前に「意図的に素朴な質問(仕事で作成する資料にはどのようなものがありますか?等)をするつもりです」と伝えておかないと、参加者は一般的な知識や第一原理などの『当たり前の質問』をされていると見なして、「インタビュアーは、当たり前な情報をなぜ知らないのか」と不満に感じてしまうかもしれません。
参加者が当たり前だと思う質問や、場合によっては可能な限り明確に理解するために「どうしてそんなに良いのですか?」と質問を重ねる可能性があると伝えておきましょう。
7.同意:記録の許可を得る
インタビューを録音・録画するのであれば、事前に参加者の同意を得なければなりません。記録されたものを誰がどのように使うのかを説明し、必要ならば放映許可書に署名を求めましょう。許可を得る時に参加者が特に懸念することは「誰に記録物を見られるのか」です。
写真も撮っておくと良いでしょう。参加者の写真があるとインタビューの内容を思い出すのに役立ちます。
しかし、インタビュー前に写真を求めると参加者を躊躇させてしまう場合があります。そのため、私たちはインタビューの最後にスナップ写真の撮影を求めます。信頼関係を構築した後で「手書きノートに写真を付けておけば話を思い出すのに役立ちます」と説明すると写真を撮られることに抵抗を感じにくくなります。必要ならば録音・録画する際と同様に、写真を撮る際にも許可書に署名を求めましょう。
8.質問:事前に質問を求める
インタビューを始める前に参加者から質問があるか確認しましょう。インタビューを受ける人にテストを実施しようとしているのではなく、会話を始めようとしていることを理解してもらうためです。
提示された質問には正直に答えましょう。回答によっては参加者に影響を与えてしまい、インタビュー中に参加者からありのままの回答が収集できなくなる恐れがあっても、率直な回答を参加者に伝えるべきです。
時間の都合上、インタビューを先に始めなければいけない場合は、インタビュー終了後、質問に答えることを説明して、忘れないように質問を書き留めておきましょう。
9.リラックス:簡単なことから始める
インタビューまでの会話は参加者を気楽にさせるだけでなく、インタビューの形式に沿って話してもらうことに役立ちます。そのため、インタビューの本題に入る前に答えやすい質問を投げかけましょう。
たとえインタビューの主題とあまり関係なくても、自由で事実を重視する質問から始めると、”参加者の気分をほぐす雰囲気”を作ることができます。例えば、現在の職場に至るまでの職歴をざっと語ってもらっても良いでしょう。
9つのポイントがインタビューを成功に導く
覚えるべきことがかなり多いように思われるかもしれません。特にインタビューの質問が頭に浮かんでいる場合は尚更多いと感じるでしょう。筆者の経験から、インタビューを始める前に触れるべき話題を忘れないための簡単な覚え方を紹介します。
If Every Thing’s Covered Completely, People Commence Quality Interviews
(全ての事項を完璧に取り上げれば、質の高いインタビューを始められる)
ノートの余白に頭文字を書き留め、実行したら各項目にチェック印を付けましょう。参加者を気楽にさせる最初の話題と、インタビューの本筋である質問をきちんと区別しておきましょう。
これら9つのポイントを本当に5分で伝えきれるのでしょうか?答えは”練習すれば可能”です。また、実際のインタビューの状況や、参加者とすぐに打ち解けたかどうかに応じて、部分的に飛ばすことは問題ありません。熟練したインタビュアーであれば、9つのポイントは素早くこなせます。
多くの貴重な情報を得られるインタビューにするため、最初の5分間を効果的に活用し、参加者が積極的な姿勢で回答できる雰囲気を作りましょう。