UX DAYS TOKYOスタッフの川合です。今回は、UX DAYS TOKYO 2016 のスピーカー2名の書籍「SF映画で学ぶインタフェースデザイン」、「今日からはじめる情報設計」にも関わった安藤幸央さんにインタビューさせていただきました。その他にも、「デザインスプリント」監訳など多数の書籍に携わられています。
安藤さんは昨年のカンファレンスに一番はじめにお申し込みいただいた方です。国内外のカンファレンスやセミナーにも多数参加されており、エネルギーに満ち活動的な方で、日本のUX界で著名な方です。
UX書籍を多く翻訳した安藤幸央さんって?
株式会社エクサでスタートアップから大手企業までUXを軸にしたコンサルティングをしています。B2BからB2C、B2B2C、最近はF2C(Factory-to-consumer)まで幅広い事業に従事しています。
UXを学ぶ方法
はじめに、安藤さんはUXをどう学ぶと良いと思いますか?
月並みな回答ですが、まずは書籍やWEBサイト上のコンテンツから学ぶことができると思います。
一方で、そもそもUXは学べるものではない、と感じています。UXを理解したり、観察したり、考えたりすることはできるけど、座学だけで学ぶものではないはずです。つまり、学ぶのではなく、ざまざまな体験を通して感性を養うことで得られるスキルではないでしょうか。
短期的に学べることは短期的でしか役立たないことが多く、長期的なスキルを得られるような学習が重要です。
UXを学ぶことにより、次の日いきなり実践し成果を得られるようなことは少ないでしょう。そのため、書籍だけでなくカンファレンスやワークショップ、日頃の生活を通して得られる長期的な経験や知識の積み重ねこそが、ユーザー視点で物事を客観視し、良いUXを実現できるスキルになるはずです。
また、UXを学ぶには他分野も
含めて様々な事柄を広く知る姿勢も重要です。UXの歴史はまだまだ浅くこれから発展していくと思います。それに比べて、哲学、心理学や人間工学などは歴史のある学問のため、実はこれらの学問からUXを学ぶことができるのではないでしょうか。
UXデザイナーは言葉が必須スキル!?
UXデザインで、今後は何が必要になると思いますか?
デザインとテクノロジー、そしてビジネスを組みあせて展開することを推し進めているジョン前田氏の、最近の提言、Design in Tech Report 2017 によると、今後、デザイナーに必要とされる大事なスキルは「言葉」であると言われています。
■ Verbal Design (口から出る)言葉のデザイン
■ Words as Material 言葉は素材そのもの
■ Why UX Design is a Lot Like Writing UXデザインは、まるで文章を書くのと同じこと
たとえば、日頃使っているアプリや様々なWebサービスでも、言葉遣いが変だと違和感があったりネガティブな気持ちになってしまいますが、逆に語句や文章の表現が良いと、親しみを持って使ってもらえます。
また、ジョン前田氏は、「単なる職種としてのデザイナーではもう不十分。組織としてのデザイナー軍団が必要」と言っており、世の中の様々な課題は、優秀なデザイナー(たち)にデザインされることを待ち構えているのだそうです。
UX DAYS TOKYO への参加動機
先ほど、カンファレンスに参加すべきとお聞きしましたが、昨年の UX DAYS TOKYO 2016 に興味を持ったきっかけはなんでしょうか?
昨年は、私の翻訳や監訳に関わった2名がスピーカーであったため、すぐに参加を決めました。
また、海外から著名な方をカンファレンスに招待するのは、手間もお金も掛かります。UX DAYS TOKYO は、毎回優れたスピーカーが揃っていて、これほどのスピーカー達を揃えるのは、たやすいことではなく、それも日本で直接お話を聞けるので非常に魅力的でした。
UX DAYS TOKYO 2016 での体験をふまえ、今年のUX DAYS TOKYO 2017 も行こうと考え、申込しています。
おそらく、UX DAYS TOKYO 2016 に参加した方はUX DAYS TOKYO 2017 も必ず参加する、というくらい満足度も高く、リピーターも多いカンファレンスなのではないかと思います。
UX DAYS TOKYO 2016 カンファレンスを振り返って
UX DAYS TOKYO 2016 のセッションでより満足された理由は?
全体的に充実し、満足したカンファレンスでした。とても印象に残ったのは、1つ目のセッション Jesse James Garrett さんです。
UXの概念を古くから啓蒙してきた彼の発表は、16年の経験から16個のポイントを一つ一つ丁寧に解説されていました。この哲学的なセッションが、自分自身でいろいろと考えさせられる機会になりました。
この分野で長い期間第一線で働き続けている Jesse James Garrett さんの話しを聞いて、自分も”もっと頑張ろう”と刺激を受けました。今思うと、このカンファレンスで一年分ぐらいの仕事に対するモチベーションをもらった気がします。
Chris Noessel さんの書籍の翻訳を手がけたこともあってか、2つ目のセッションも素晴らしく良かったです。
翻訳した書籍にはAI(人工知能)の内容は比較的少ないのですが、SFがテーマなので、いくつかAIの話題がでてきます。その中でも「ナローAI:弱いAI」という話は面白かったです。
人間の知能に匹敵する、グイグイと主張するような「ジェネラルAI:強いAI」だけではなく、みんなが気づいていない中にもAIがあることを知りました。これは、AIに対する考えを改めるきっかけになりました。
おふたりのセッションは、既にWebや書籍で知っていたことでしたが、実際に話を聞くとより理解が深まりました。なによりその後で、生活している中で様々な視点から物事を考えるようになったのも良かったです。スピーカーの話を聞くと、今までの知識がより強化されて、一つ一つの手法や考え方が詳細に理解できたように感じます。
また、参加者同士での交流もあるためセッションの内容を議論できる点も嬉しかったです。
参加後、生活の中の視点が変化した
カンファレンスを聞いてから、具体的にどのような変化がありましたか?
その後の体験で、「これは弱いAIだろうか」のように、日々の生活の中で視点を変えさせられた気がします。先ほど述べたように、UXを学ぶには日常での経験や観察が非常に重要で、新しい視点や気づきが得られます。
私は Abby Covert さんの「今日からはじめる情報設計」を翻訳を担当し、本の内容をある程度まで理解したつもりでした。しかし、カンファレンスで本人の話を聞いてさらに内容を深く理解できましたし、人に説明しやすくなりました。
また、カンファレンスで講演するスピーカーは全員が書籍を出版しており、本の形で経験を記録として共有することは非常に良いことだと感じました。私も言語化し共有する重要性を改めて感じ、自分自身の書籍に携わる際のモチベーションにもなっています。
さらには、カンファレンスの合間に Chris Noessel さんが「SF映画だけでなく、日本のアニメーションからも参考になるUI, UXがあるのでは?」という意見を直接いただき、実際に日本でも関心のある方々に声をかけて、そのような活動も考え始めました。
参加を勧める人物像は?
UX DAYS TOKYO 2017 には、どんな人が参加すると良いと思いましたか?
通常、海外のカンファレンスだと渡航費や宿泊費もかかるため諦めてしまうことが多いと思います。関心のある方は個人で参加しても良いですが、会社で予算があるならば上司を説得して一緒に参加できると良いと思います。
UX DAYS TOKYO の魅力
多数のカンファレンスに参加されている安藤さんから見て、UX DAYS TOKYO の魅力を教えくてください。
海外で開催されているカンファレンスが、そのまま日本に来ている感じがします。実績も経験もある海外のスピーカーが揃っていることもあり、日本で開催される一般的な展示会場が中心のカンファレンスやセミナーとはクオリティー、得られる視点や人脈も異なります。
また、海外のカンファレンスに参加する場合は、ある程度の英語は理解できる必要がありますが、UXDTでは日本語で同時通訳してくれるため、言語の壁も心配ありません。
現場で気を付けていること
お仕事で気をつけていることとかありますか?
アウトプットの質はインプットの量の総量で決まると考えています。インプットを定期的にしないと、アウトプットが段々と貧弱になるため気をつけています。
例えば、1画面デザインするにしても10画面以上は見るようにしたり、500文字の文章を考える場合は5000文字以上は読み込んだりします。インプットにかける時間は忙しさによってもことなりますが、1つのアウトプットのためには10倍以上のインプットをするよう心がけています。
また、座学ではなく、実際に経験することにより学べることもたくさんあると思います。日頃から何事も経験してみるように心がけています。あえて面倒だと思うこと、失敗しそうなことや時間を要することにチャレンジして、いろんな角度で経験するとたくさんの発見があると考えています。
UX関係で最近のオススメの本
UX関係で最近のオススメの本とかありますか?
近年、オライリーからデザイン関係の良質な書籍、ローゼンフェルド・メディアから Eye Tracking the User Experience や Designing Interface Animation などのニッチなテーマの書籍が多く出版されています。より専門的な内容を学ぶにはこれらの本を活用すべきだと思います。
その中でも、以下の本は最近のオススメです。
■ Calm Technology
Principles and Patterns for Non-Intrusive Design
Calm Technology は穏やかな技術と訳されます。ユーザーの生活の一部となる技術を、押しつけがましくないように設計する原理やパターンを解説しています。この書籍では、うまく動作し、うまく起動し、サポートしやすく、使いやすく、目立たない製品を設計する方法を学ぶことができます。
■ Mapping Experiences
A Complete Guide to Creating Value through Journeys, Blueprints, and Diagrams
カスタマージャーニーマップについて詳しく書かれています。ジャーニーマップの例として頻繁に引用される、Adaptive Pathが公開した「Rail Europe」の資料などがありますが、日本で実際に作成してUXデザインに活用できている企業はまだ少ないと思います。こちらの本は、カスタマージャーニーマップを実践的かつ体系的に学ぶことができるためオススメです。
■ Org Design for Design Orgs
Building and Managing In-House Design Teams
組織の中でデザインをどのように根付かせ、実践できるかを学ぶことができます。
その他にも、最近はSF小説などからも学びを得てます。SF小説の中にはUXに対する未来的になヒントがたくさん詰まっています。特に、海外のSF小説の未来的なものがオススメです。例えば、1999年に公開された「クリプトノミコン」という作品は、今で言うビットコインの世界が既に描かれていて、現代の社会で仮想通貨が今後どのように浸透するか考えるきっかけになっています。
インタビュー後記
安藤さんは、様々な方法で情報をインプットされている非常に意欲的な方でした。
私も日々、電車を使うところを歩いてみたり、いつもは作らない料理を作ってみたり、あえて普段の生活と異なる体験を心がけています。
今回のインタビューを通して、日頃の生活や体験を通して学ぶ大切さを改めて感じました。