元の記事「https://www.uxforai.com/p/ux-abides-how-to-create-a-rag-centered-process-that-really-pulls-your-ai-product-together」を日本語に翻訳・要約し、読みやすく整理したものです。AIプロダクトに関わるUX/UIデザイナーやPdMの方にとって実践的な内容です。
「RAG」が組織とプロダクトを一つにするプロセス
UX for AI の Greg Nudelman 氏は、RAG(Retrieval-Augmented Generation)をAIプロダクトの中心に据えたプロセスを設計すれば、チームのサイロ化を解消し、ユーザー体験を迅速に改善できると述べています。この記事は、典型的な問題例とそれをどう解決するかのワークフローを紹介しています。
現状分析:The Big L Shopの不安定なAI検索アシスタント
例えばですが、Big Lショップは、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用したAI検索アシスタントを導入しました。検索アシスタンのローンチ初日こそ経営陣を驚かせましたが、2週間後には問題が明らかになりました。
- 顧客: 「お値打ちの赤いランニングシューズ」で検索したら、300ドルのスニーカーが出てきたんだけど、どうなってんの?!
- サポート: チケット対応に追われています。
- 営業: 購入意欲の高い顧客を逃しています。
- エンジニアリング: 未処理の作業が山積しており、再現手順も不明確です。。
各部署がそれぞれデータを保有しているにも関わらず、組織全体の状況を俯瞰できる人材が存在しません。これは組織における典型的な「サイロ化」です。
登場人物たち
こうした状況で関わる典型的な役割は:
- UXリード:ユーザーの声を代弁し、ユーザーが望む成果にチームの焦点を合わせさせる
- AI/エンジニアリング:プロンプトや取得ルール(retrieval rules)、ドキュメント(grounding docs)をリアルタイムで調整
- カスタマーサポート:ユーザーが実際に抱えている痛みや言葉遣いを持ってくる
- セールス/プロダクト:収益視点で、どの修正がどれほどカート放棄・売上につながるかを見積もる
- QA(テスト):(必要な場合)ライブでの修正を自動テストに落とし込む
(重要:会議の参加者は最大5〜6人に制限してください。会議の議題のバグ修正に関係がない人は、録画したビデオをみてもらってください)
このアプローチがもたらすメリット
- 修正にかかる時間を「何週間」から「何時間」に短縮できる
- サポートやエンジニアが同じ画面を見ながら改善することで部門間のサイロ化を解消
- ユーザーの不満をその場でモデル改善に結び付け、即時の改善が可能
- チーム内の連携が強まり、ユーザー中心の判断が標準になる
UXデザイナーの登場:RAGを中核としたチームリーダー
UXは、質の高い問いかけで、あらゆる分野に精通したコラボレーターとして機能します、究極のゼネリストのUXデザイナーは、的確な問いかけによって各専門分野の知見を引き出し、横断的なコラボレーションを促進する究極のゼネラリストです。そのため、UXリーダーがRAGを軸にチーム全体を統率し、顧客の課題をリアルタイムで協働解決することは極めて合理的なアプローチといえます。
- RAG共同セッションの提案: 「メールやSlackでの非同期コミュニケーションは避け、30分の時間をもらいましょう。RAGのプロンプトと関連ドキュメントをリアルタイムで共同編集し、修正内容を即座に検証しましょう。」
- スケジュール設定: 毎週30分間、固定のZoomリンクで定例会議をおこないます。議題は、FigJamに溜まった課題があるプロンプトとその出力結果のセットとし、全メンバーがアクセス可能な状態で管理します。
- 実行(ミニユーザーテストとエンジニアリングチームの朝会を兼ねる): その週の代表的な顧客の失敗クエリを再現し、その場で修正し、チームで再テストします。実際のコードに影響する場合を除き、Jiraチケットは発行しません。
協調型RAGセッション ── 次世代のブレイクスルー
AIドリブン型製品は「プログラム」されるのではなく、「トレーニング」されます。ある程度の曖昧さやハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成すること)は、特定のクリエイティブな応答においては許容され、むしろ良い結果を生むこともあります(どの程度の「創造性」が許容されるかは、「Value Matrix」を使って算出できます)。
AIドリブン型アプリケーションの特徴的な優位性により、従来は数ヶ月を要していた問題解決を数分で実現できる柔軟性を獲得しています。
- RAGの修正 ≠ 完全なSDLC(ソフトウェア開発ライフサイクル): プロンプトの微調整や新しい基礎文書の追加は、数分で本番環境に反映できます。次のリリースを何週間も待つ必要はありません。
- 共通ダッシュボードによる透明性確保:サポート部門がエンジニアによるレトリバー更新とその効果をリアルタイムで確認できることで、部門間の情報格差が解消される。
- 1回の通話で完結するサイクル: ユーザーが不満を表明し、サポートが共有し、UXが問題を整理し、エンジニアリングが修正し、QAがテストし、セールスが喜ぶ。これで完了です!
実際の30分 RAG セッションの流れ(Big Lショップの例)
チーム横断的な協働により、AI検索アシスタントの課題を30分で解決する実践的プロセスです。AIを取り入れたプロセスを参考にしてください。これは、迅速なクロスファンクショナルなAI作業に最適な青写真となります。
時間 | 内容 |
---|---|
00:00 | UXが先週失敗したクエリを再現(例:“affordable red running shoes” で不適切な靴が出る) |
05:00 | チームでブレインストーミング → エンジニアがプロンプトを修正 |
12:00 | 修正後をテスト:出力結果が改善されるか確認 |
18:00 | サポート担当が修正を記録、QAが自動テストに落とし込む |
25:00 | セールス担当が、この修正で解約/離脱がどの程度改善するか確認 |
30:00 | セッション終了。成果と次のアクションを共有。改善は即日リリースされることも。 |
その日の午後にはリリースノートが公開され、金曜日までにコンバージョン率が向上します。
これは、UXが主導したRAGセッションがチーム全体をまとめた勝利です。
ブランドとプロダクトに与える影響
UXは “画面をきれいにすること” 以上の仕事である。UXプロフェッショナルは、顧客の声、ビジネスの必要性、AIテクノロジーを統合し、AIプロダクトをまとめ上げる役割を果たすべきだと言われています。
RAGセッションをうまく使えば:
- 開発サイクル全体を高速化できる
- ユーザー苦情をモデル改善の機会にできる
- 部門間のコミュニケーションと協働を標準化できる
結果として、ユーザー満足度が上がり、ブランドの信頼性も向上する可能性が高まります。
実践のヒント:AIプロダクトに UX が関わるために
- UXリードとして、RAGやプロンプト設計、ドキュメント(grounding docs)のメンテナンスをチームに取り入れる
- 問題・失敗クエリを可視化し、チーム全員で共有できる仕組みを作る
- 定期的なセッションを設けて、小さな修正をすぐに反映する習慣を持つ
- サポート、セールス、QAといった他部門も巻き込んでフィードバックループを閉じる
まとめ
AIプロダクト開発では、RAGを中心としたワークフローを導入することが、UX/プロダクト/エンジニアリングが一体となる鍵である。
UXデザイナーやPdMとして意識すべきことは:
- チーム間のサイロ化を壊すこと
- ユーザーからの声をリアルタイムで取り込むこと
- 改善を迅速に行い、ブランドの信頼性を高めること
RAGセッションを組織文化として取り入れれば、AIプロダクトはただの機能集合体ではなく、ユーザーとブランドを結びつける生きた体験として成長するはずです。
ワークショップのご案内
日本では、2025年11月15日「AIと共創する次世代プロダクトデザイン」のワークショップを開催します。書籍やワークショップでは、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を活用したAIプロダクト開発手法をUXデザイナー視点で解説しています。
この貴重な機会を利用してスキルアップしましょう。現場で使う、真のUXデザインをAIで実現させていきましょう。
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