2024年3月15日から17日にかけて、UXやビジネスに必要な思考を学べるイベントUX DAYS TOKYO 2024が開催されました。本年の開催テーマは「ビジネスに必須のUXで「先見の明」を見出す」でカンファレンス、ワークショップが行われました。海外のトップ UXerであるスピーカーの話を日本にいながら直接聞くことができる機会で、特に昨今話題のAIをUXにどのように活用するかを学べたらと期待していました。
本記事では、カンファレンス講演「Dan Saffer(ダン・サファー)氏のAI×UX設計」「Eva-Lotta Lamm(エヴァ=ロッタ・ラム)氏のビジュアル・シンキング」「Aaron Walter(アーロン・ウォルター)氏のクリエイティブな人の秘訣」の学びをご紹介します。
カンファレンスでの学びに加えて、カンファレンスの学びの復習会をUX DAYS TOKYO大本と参加者有志で行ったので、そこで咀嚼した学びの内容もあわせて紹介します。
AIの特性を知ることで、ユーザー価値が発揮できる
AIをUX設計の中でどのように活かすべきか?AI×デザインで未来を創造する
スピーカー:Dan Saffer(ダン・サファー)
ダン・サファー氏は、プロダクトデザインの分野の第一人者であり、また、カーネギーメロン大学のヒューマン・コンピューター・インタラクション研究所で助教授として教鞭をとり、サービスデザイン、インタラクションデザイン、AI製品とサービスのデザインなど、多岐にわたる分野で授業を担当しています。
このセッションではAIをUX設計の中でどのように活かすべきかの考え方を学びました。
複雑で高い精度の課題解決はAIには不向き
セッションの中で印象的だった話は、AIが向いていない領域なのにもかかわらず人がAIに任せたいと考えてしまう思考の罠の話です。
AIは、複雑で高い精度が求められる領域では価値を発揮しづらいという特性があります。復習会では、「チャットボットではAIによい印象を持ったことがない」と参加者から挙げられていました。チャットボットはまさにAIには不向きな領域で、ユーザーの質問に対して不正確だったり期待した答えが返ってこなければ価値がないからです。
AIに向いている領域は、単純かつ精度を求められない領域で、お話を聞いた当初は意外に思いました。例で挙げられていた大量のスパムメールをはじくというAIの利用法は、たとえはじけなかったスパムがあったとしても大きな問題ではないので人間が退屈な作業から解放されるため充分に価値があります。
間違えてもリスクが低く、人間にとって退屈だが価値がある仕事がAIに向いている、という判断軸を学んだことで、AIをプロダクトに取り入れる際に机上の空論で終わらずに、価値を発揮できる領域を探ることができるようになりました。業務での解決策の提案の際に考え方を取り入れていきます。
復習会では、UX DAYS TOKYO主宰の大本が、Airbnbで貸主向けに最適な金額をAIが提案しているという事例を紹介していました。シーズン・地域などの要因から貸主に最適な金額の幅をAIが提案していて、自分の物件はどれぐらいが貸出相場か調べる退屈な作業から人は解放され、最終的に価格を決めるのは貸主なので金額提案の精度が低くても問題ありません。
このような事例も踏まえてさらにAIの理解を深められました。
ビジュアルシンキングとは思考が高まる能力
ビジュアル・シンキング:アイデアを視覚化して問題を解決しよう
スピーカー:Eva-Lotta Lamm(エヴァ=ロッタ・ラム)
エヴァ=ロッタ・ラム氏は、Google、Skype、Yahoo!などでの15年間にわたるUX / デジタルプロダクトデザイナーとしてのキャリアの後、自身のライフワークであるビジュアル・シンキングを専業で行っているビジュアル・シンカーです。
ビジュアル・シンキングとは、ビジュアルを使って考えを整理し深める思考法です。
考えをビジュアルでアウトプットすることによって複雑な物事も分かりやすく表現することができ、関係性や傾向など違った視点から見ることで理解を深めることができます。さらにビジュアルでアウトプットしたものを見てさらに考えが刺激されて、繰り返すことで思考を深めます。
今回の講演では主にビジュアルの持つ力と思考に与える影響について学びました。
ビジュアル・シンキングとは何か?単なるイラストとの違いとは?といった基本については、エヴァ氏のインタビュー記事で紹介されています。合わせてご覧ください。
ビジュアルとテキストは両方大切
ビジュアルとテキストをこのようなイラストで友達のような存在であると表現されていました。
イラストだと瞬時に理解できますね。
ビジュアルで瞬時に理解し関係性を示し、テキストでデータの詳細を補足したり時間や空間といったコンテキスト情報のフレーミングを行うことで、両方が補完関係にあります。
また、「絵のうまさは関係なく、シンプルな図形でも組み合わせることでいろいろな表現ができる」という言葉も、ビジュアルで考えはじめる一歩を踏み出す助けになりました。
シンプルな形ながら、「誰が一番クリエイティブか?」というのがパッと伝わるグラフィックに、絵のうまい下手ではないんだなと納得しました。
このスライド自体も、図形だけのビジュアルでは意味をなさないので、テキストがビジュアルの意味のフレーミングをする役割であることが理解できる実例でした。
カンファレンス内容の復習会で、参加者から「ビジュアル・シンキングといってもイラストを普段の仕事の資料には使いづらい」といった声がありました。それを受けてUX DAYS TOKYO主催の大本から「いわゆるイラストだけがビジュアルシンキングなのではなく、コンサルが行うような図解化やグラフ化も、ビジュアルで物事の視点を変えて見るビジュアル・シンキングの一種である」という補足を受けて理解が深まりました。
講演の中でも、数字の羅列だったデータもグラフにすることによって「何のデータか?」から「なぜこのようなデータになったのか?」と思考を転換できるという話もあり、ビジュアルで物事を整理し理解を深める力を体感しました。
先ほどの参加者の方の疑問もそうですが、私自身も「ビジュアル」をハードルが高いものと考えてしまっており「イラストを頑張って書かなければ」「言葉がなくてもわかるのが良いビジュアル」などと極端に考えすぎてしまうあまり、日常に取り入れられていなかったと振り返ることができました。
簡単な図形やグラフといったビジュアルだけでも強力で、ビジュアルとテキストの双方をバランスよく活用して理解しやすくし、考えを整理し活性化させることが大切だと理解できました。
講演の学びを受けて、日常業務で自分で考えを整理するときに、文字だけではなく簡単な図形でも書いてビジュアルも交えてアウトプットしてみるように意識するようになりました。
人を惹きつけるクリエイティブな人やチームはこういうことなんだ!
最もクリエイティブな人と企業の秘密
スピーカー Aaron Walter(アーロン・ウォルター)
MailChimpのUX部門リーダーやInVision社等を歴任するまさにUXマエストロのアーロン・ウォルター氏。彼がホストするDesign BetterというPodcastでは、クリエイティブについて世界クラスの著名人の方々と語られています。その方々から学んだ、「クリエイティブな人が共通で持っているテーマとは?」をセッションで語られていました。
特に私が一番学びになった言葉は「クリエイティブであることは『みんなで』なる」という言葉でした。
エゴはクリエイティブの敵で、「私が」という自己主張は危険なワードであること、チームでのクリエイティブでは「私の仕事」は分離できないということを、Pixerの方のエピソードを交えて紹介してくださいました。
私は今チームで書籍を翻訳するプロジェクトに携わっているのですが、担当分を厳密に決めたりするのではなく、より良い結果になるようにチームでの仕事が混ざり合ってどこが自分の担当かわからないぐらいにできたら理想だなというイメージが持てるようになりました。
日常の業務でも、自分の領分を線引きをしていては真に相手のためになり喜ばせられるようなクリエイティブな仕事はできないと、このセッションで学べて本当に良かったと思います。
クリエイティブは、良いものを見聞きしたり歴史を学んで感性を磨くことももちろん大切ですが、制約との付き合い方や組織体制といった日常の仕事のちょっとした考え方の違いでもクリエイティブにつながるということが理解できました。
カンファレンスの学びをどのように現場に持っていくか
復習会で大本より「カンファレンスのスピーカーが現場の課題について直接教えてくれるわけではないが、話から何を得て、どういう風に考えて自分たちの現場に持っていけるかという考え方をしていかないといつまでたっても机上の空論になってしまう」というアドバイスがありました。
復習会で、カンファレンス内容からどのように仕事の考え方に反映されたかという話を参加者同士でも話し合い、自分だけでは取りこぼしていた視点がわかり、現場で使える考え方に学びを咀嚼できました。
カンファレンス後半のスピーカーJason Mesut氏のキャリアデザイン論とMatt LeMay氏の組織とメトリクスについてのセッションでの学びは次の記事で紹介予定です。