TOP お知らせ UX DAYS 本編 レポート リードユーザーをベースに設計してもインクルーシブは実現しない

リードユーザーをベースに設計してもインクルーシブは実現しない

エンジニアのかじしまです。優れたUXerになるべく勉強しています。私は、2023年4月1日に開催された、UX DAYS TOKYOのワークショップで、David Dylan氏のワークショップ、インクルーシブデザイン:バイアスに配慮した実践と組織内の環境構築を受講しました。UX DAYS TOKYOスタッフとしての活動を通じて、UXにおいて認知心理学や認知バイアスが重要なこと、そしてユーザーを見落とさないためにはインクルーシブなアプローチが必要なことを学んだので興味がありました。

インクルーシブの第一歩は、サービス提供者にないものを認識すること

「インクルーシブ」という言葉を調べると、マイノリティの人を巻き込む、マイノリティのペルソナを作るなど、リードユーザーを中心にした設計方法が一般的なようでしたが、Dylan氏のワークショップでは、「自分たちのグループメンバーの属性や見逃しが起きやすい要素を自覚することが重要」と説明されました。

ワークショップの受講前は、マイノリティの人々を取り込むことでインクルーシブな設計ができると考えていましたが、それは誤りで、インクルーシブとは単にマイノリティの人々を加えることではなく、グループのメンバーが持つ属性や見落としが起きやすい要素を自覚することが重要だと気づきました。

これまでのインクルーシブに対する考え方をベースに、自分たちがイメージしているマイノリティの人たちを先行して利用するリードユーザーとして巻き込むアプローチでは、自分たちが持っているイメージ以外の要素を見逃してしまいます。ワークショップを受けた後は、次の図のように、自分たちには存在しない属性も取り入れるという認識に変わりました。

インクルーシブに対するイメージの変化
インクルーシブに対するイメージの変化

場合によっては、自分たちにないものを考えた結果、マイノリティは自分たちの方だということに気づくこともあります。

ワークショップを受けてから自分に対するイメージが変わった

PowerMapで、影響力の弱い人を可視化する

幅広い視点を持って意見を見落とさないことは簡単ではありません。ワークショップでは「製品やサービスを設計する上で最も影響を受ける人たちは、自分たちの意見を述べることが難しい場合がある」ということを学びました。

また、PowerMapを使うことで、そういった人たちを見つけ出すことができます。PowerMapは、発言権の強さと関心の高さを基準にして、影響力のある人たちを可視化する方法です。図を見ると、赤く囲んだ「参加者」が最も影響を受ける人たちであることがわかります。

発言権は弱いけれど関心の高い人たちの意見を取り入れることで、インクルーシブな設計の実現に近づくと気づきました。

発言権は弱いが関心の高い層を見つけるためのPowerMap
発言権は弱いが関心の高い層を見つけるためのPowerMap

インクルーシブの実現にはバイアスの軽減が必要

バイアスを軽減することは、インクルーシブなアプローチを実現するために非常に重要です。バイアスが存在すると、視点の偏りや見落としが起こります。それによって差別や区別が生じ、少数派の存在が見過ごされる可能性があります。

バイアスが生じる原因は、人間の意思決定方法にあります。ワークショップでは、人間が95%以上の時間を無意識な判断システムである「システム1」として過ごしています。このシステム1は素早い判断を下すために認知のショートカットしますが、場合によって意思決定が迅速になる一方で、誤った判断をする可能性もあります。

バイアスを軽減する2つの手法

Dylan氏が「バイアスを100%避けるのは不可能」と話していた通り、バイアスを全て排除するのは出来ませんが、軽減することは可能です。ワークショップでは、確証バイアスを軽減するための「RedTeam BlueTeam」と、バンドバゴン効果を軽減するための「8-up」が紹介されました。

予想外の問題に気づくレッドチーム・ブルーチーム

RedTeam BlueTeam(レッドチーム・ブルーチーム)では、Red Team(攻撃チーム)とBlueTeam(防御チーム)に分かれ、BlueTeamが作成した案に対してRedTeamはネガティブなストーリー(unhappy path)を作って批評します。

この批評により、BlueTeamは予想外の問題点に気づくことができます。実は、サイバーセキュリティの検討にも使われ、攻撃者の視点からの指摘によって多様な攻撃方法に対応することができるようになるそうです。

Red Team Blue Teamの例

8人のアイディアを組み合わせる、8-up

8-upとは8人それぞれが考えたアイディアをもとにディスカッションしてひとつにする手法です。それぞれが持ち寄ったアイディアを多数決で決める方法ではありません。

具体的には以下のように行います。

  1. まず最初に1人でアイディアを3つ考える
  2. 次に2人組でアイディアを持ち寄って検討し、6つの案を2つの案にまとめる
  3. 4人組で2人組で検討した4つのアイディアを持ち寄って検討し、2つの案にまとめる
  4. 最終的には4人組で検討した4つのアイディアを8人で検討し、1つにまとめる
8-upのイメージ(design-for-cognitive-biasより)
8 upのイメージDesign For Cognitive Biasより

この8-upを行うと、相手の話を聞く時間があるので声の大きい人の意見に引きずられません。ワークショップで実際に試してみると、「自分の考えは違うけれど、この案でいいや」というように議論を放棄するマインドがないことに気が付きます。

相手の意見を聞くと同時に、自分の意見も必ず伝えることができ、それぞれのアイデアを組み合わせることができました。この方法は、多様な意見を反映させる方法として実務にも活かせそうです。

考え方と手法のバランスをとるのが重要

ワークショップ受講前には、Dylan氏の本「DESIGN FOR COGNITIVE BIAS」の読書会に参加し、認知バイアスやインクルーシブな考え方について学びました。本を読むことで考え方を知ることができましたが、やってみないとわからないな。という感覚も残っていて、ワークショップでそのあたりをカバーすることができました。また、もし、ワークショップだけ受講していたら、RedTeam BlueTeamや8-upなどの手法だけを行うことになっていたのだと感じています。

本を読んだとしても、自分の解釈やつながりが見えず、バイアス、認知バイアス、インクルーシブを別々の概念として理解しているままでは深い理解は得られることはなかったと感じています。今回に限らず、事前の知識習得とワークショップでの実践を組み合わせる必要性を感じました。

UX DAYS TOKYOに参加する前にスピーカーの書籍や動画を学ぶことが重要だと気づきました。今回はUX DAYS TOKYOのオーガナイザーである大本さんが読書会を企画してくれましたが、来年は自分が企画してみたいです。

フリーランスのエンジニア。 2001年東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。独立系ソフトハウス(システム開発)、株式会社シンプレクス(金融機関向け取引システムの開発・運用)を経て2011年よりフリーランス。フリーランスになってからは、スマホアプリ、サーバーサイド(Java,Railsなど)と様々なプロジェクトで開発に携わる。現在は会社員時代にお世話になった企業様でRPAプロジェクトで開発を担当している。 ダイエットのためにランニングとヨガを5年ほど続けているが、どちらもガチになる一方で全く痩せないことが最近の悩み。

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